大人気アイドル系Vtuber事務所に俺だけ男なんだが、みんなして俺を燃やそうとしてくる件について

斜偲泳(ななしの えい)

第1話 ジ・オキシゲンその1

「平伏せ人間ども! 我が名がアルマゲスト=アウェイク=アルファ=オメガ。千年の時を経て蘇った偉大なる魔王なるぞ!」


 いかにも魔王然とした銀髪角付きのイケメンキャラが俺、アルマゲスト=アウェイク=アルファ=オメガ。


 長いので周りからはアルと呼ばれてる。


 一応設定的には魔王城の再建と世界征服が目的だ。


「俺より強い奴に会いに行く! 地上最強になりたいヴァーテックス所属のJK格闘家、範馬真姫はんま まきっす!」


 クソデカ大声で挨拶をしたのが二期生の真姫。


 版権的にヤバそうな設定なのはヴァーテックスが人気事務所になる前にデビューした組だからだ。


 見た目は黒髪ショートのボーイッシュな女の子。


 通常衣装は黄色いハチマキと赤ブルマに指ぬきグローブ。


「……今宵、新たなページが開かれる。廃図書館に住み着いた図書委員の幽霊。ヴァーテックス所属の言ノ葉栞ことのは しおりよ」


 最後に挨拶したのは俺と同期で一期生の栞。


 黒髪ロングにレトロな制服を着たダウナー系の美少女だ。


 今日はこの三人でゲーム配信をしていく。


「という訳でさっそくやっていくんだが。なぁ栞。この『ザ・オキシゲン』ってのはどんなゲームなんだ?」


 今回のコラボの言い出しっぺは栞だ。


 というか、基本的に俺からヴァーテックスのメンバーをコラボに誘う事はない。


 なぜって?


 それはヴァーテックスが今を時めく大人気アイドル系Vtuber事務所で、俺はその中で唯一の男性Vだからだ。


 登録者数だって二人とも百万を超えていて、そんなメンバーがゴロゴロいる。


 下手なムーブをした日には大炎上待ったなし。


 そんな中になんで俺みたいな冴えない男性Vが混じってるかと言うと……。


 まぁ、それ程深い理由はない。


 たんに俺がデビューした頃は事務所の方向性が定まっていなかったというだけの話だ。


 初期は俺の他にも男性Vが居たんだが、引退したり解雇されたり失踪したりで気付けば男は俺一人。


 で、そうこうしている内に女性Vの人気が出ていつの間にかアイドル系事務所になっていたって感じだな。


 ……正直肩身が狭いんだが、こんな俺でも一応応援してくれる物好きなリスナーがいるから空気を読まずに居座っている。


「ザ、じゃないわよ。ズゥィ・オキュシュゲュェン。二度と間違えないで」

「流石栞先輩! 博識な上に発音がネイティブっす!」

「どっちでもいいだろ……」


 なんだよその無駄にねっとりしたイントネーションは。


 大体お前、英語なんかろくに読めないだろうが。


 英語のスパチャでshineを死ねって読んでブチ切れてる切り抜き見たぞ。


「まぁ! リスナー! 今の聞いた? この魔王、ゲームを配信させて貰っている立場の癖にタイトルを間違えても平気な顔をしてるわよ! 許せないわね!」

「流石アル先輩! 魔王だけあって極悪っす!」


 栞の発言にコメント欄が燃える魔王城のスタンプで埋まる。


「だぁ!? 俺が悪かった! ジ・オキシゲンだ! 謹んでお詫びして訂正する! てか、なんでお前は毎回俺を炎上させようとするんだよ!」


 まぁ、栞に限った話ではないんだが。


 事務所内唯一の男性Vという事で、俺は弄られ役に回る事が多い。


 認めたくないが最近はすっかり炎上キャラが定着してリスナーからもこの魔王また燃えてるとか弄られている。


 ちなみに、俺が謝ったらコメント欄は全焼した魔王城スタンプで埋まった。


 って手遅れじゃねぇか!


「違うってば。ズゥィ・オキュシュゲュェンよ」

「………………」


 バージョン3.0の機能を無駄にフル活用してドヤ顔する栞。


 くっそうぜぇえええ!


「ズゥィ・オキュシュゲュェン。リピート、アフター、ミー」


 コメント欄に松明を持った村人スタンプが増え始め仕方なく俺は復唱する。


「………………ズゥィ・オキュシュゲュェン。これで満足か?」

「無駄な時間を費やしたわね」

「誰のせいだ!」

「で、結局これってどんなゲームなんスか?」


 さり気なく真姫が軌道修正する。


 一期生の狂犬と呼ばれる栞だ。


 こいつを自由にさせておくと脇道にそれまくって話が全く進まない。


 まったく、どっちが先輩なのやら。


 まぁ、それがこいつの魅力でもあるんだが。


「さぁ?」

「「さぁ!?」」


 真姫と同時に突っ込む。


「栞が用意したゲームだろ!?」

「なんかお家でYouTube見てたらこのゲームのゆっくり実況がオススメに出てきて面白そうだったのよ」

「またそのパターンかよ!」


 この女はいつもよく知りもしないゲームをノリですすめてくる。


「この手のゲームは初見で実況した方が面白いでしょう? 安心なさい。設定だけは薄ぼんやりと理解しているわ。なんかよくわからない惑星の地下を開拓して生き延びるサバイバルゲームよ」

「なるほど、さっぱりわからん」

「流石栞先輩っす!」

「ふふん。それ程でもあるわね」


 いや、どう考えてもバカにされてるだろ。


 ともあれゲームを開始する。


「まずはキャラクリか」

「基本はランダムでリロール可。所持スキルは一つだけ指定出来て最大三つまでつくみたいね」

「一個だけの方がスキルレベルは高いっすね!」

「スキルは採掘、建築、農業、牧畜、料理、芸術、研究、操作、医療、片付け、運動、戦闘か……。なんとなくどういうゲームか見えてきたが。さて、どれを取るべきか……」


 一応俺もゲーム配信者の端くれだ。


 このゲームは完全初見だがサバイバル系のゲームはやった事がある。


 栞は地下開拓ゲーと言っていたし、採掘スキルは大事そうだが……。


 それを言うなら建設だって大事だし、農業や牧畜、料理があるって事は飢えの概念があるのだろう。


 生存を第一に考えるならこちらを取っておきたい所ではある。


 一方で、この手のゲームのセオリーとしては研究で新たな施設や技術をアンロックするはずだからこちらも捨てがたい。


 戦闘や医療があるなら敵も湧くはずだしな。


 芸術はどうせ娯楽系のスキルだろうから後回しでいいだろう。


 う~む。迷いどころだ。


「出来たっす!」

「はや!? もう決めたのか!?」

「っす! 地上最強を目指す真姫ちゃんは地下でも当然最強っす! てわけで戦闘スキルガン振りにしたっす!」

「まぁそうなるか……」


 いかにも真姫が選びそうな構成だ。


 こいつ脳筋だからなぁ……。


 無暗に敵に突っ込んで「アル先輩!? 助けて下さいっす!」って泣きついてくる未来しか見えない。


 ……医療取るか?


「私も出来たわ」

「栞もかよ!? 何にしたんだ?」

「そんなの芸術一択でしょう」

「また一番要らなそうなのを選びやがって……」


 どう考えてもサバイバルには不要なスキルだ。


「聞き捨てならないわね。人はパンのみに生きるにあらず。文化的な営みがなくては生きているとは言えないわ」

「そもそもパンがなけりゃ飢えて死んじまうだろうが」

「だからこその役割分担でしょう?」

「頼りにしてるっすよ! アル先輩!」

「結局いつもの流れかよ……」


 個性的なメンバーの多いヴァーテックスだ。


 必然的に俺は帳尻合わせを引き受ける事が多い。


 そもそも三人で全部の役割を網羅するのは無理な話だ。


 食料は真姫が戦闘で狩りを行う事に期待して料理スキルを選択する。


 これ一本だと不安なので採掘と研究の三つが並ぶまでリロールだ。


 1スキル型に比べるとスキルレベルはかなり低くなるが……。


 まぁ、ないよりはマシだろう。


「よし完成だ!」

「遅すぎよ。没落魔王の分際で私を待たせないで」

「悪かったよ。その分活躍するから期待しとけ」

「おぉ! ついに始まるっす!」


 ――ワールドを生成します。

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