五本の剣

「な、何ですか、それは。剣……ですかい?」


 黒ひげが海の方に顔を向けさせられている間に、賞金稼ぎは準備を全て整えました。

 賞金稼ぎは、再び黒ひげの顔を砂浜の方に向けさせます。すると黒ひげの目に飛び込んできたのは、砂浜に刺さった五本の剣のつかの、ほんの一部分と思われるものでした。


「ああ。見ての通り、剣だ」

「その剣を……一体全体何に使うんですかい」

「決まってるだろ。ここにある剣を、これからお前が入っている樽に目がけてぶっ刺していくんだよ」

「ひょえっ⁉」

 黒ひげはあまりの衝撃に大声で叫び、その顔はみるみる血の気が引いてゆきます。

 そんな黒ひげの横で、賞金稼ぎは満足気な笑みを浮かべています。

「くっくっくっ。他人の生死を賭けた運試しなんざ、見物できる機会は滅多にねぇ。ワクワクが止まらねぇなあ!」


 どうやら今からするゲームが、自分の命が賭けられたものだと知った黒ひげは、かわいそうなことに、すっかり怯えてしまいます。

「だ、だ、旦那は鬼だあ! 海賊よりも野蛮だあ!」

「野蛮なものか。俺ぁ、まっとうな人間相手にはこんなことしねぇよ。何もかも、お前さんが海賊だから悪いのさ」

「うぐ……」

 黒ひげは思わず口ごもります。それでも首を激しく横に振り、必死の抵抗を見せます。

「そ、そんな危ない遊び、おいらやりたくねぇです!」

「やりたくなくてもやるんだよ。そうしねぇことには、俺はお前を助けねぇぞ」

「そ、そんなあ……」


 絶望した表情を見せる黒ひげに、賞金稼ぎは諭すように囁きます。

「大丈夫だよ、俺は短剣使いだからな。持ってるのはが短剣だ。お前さんの入ってる樽、結構でかいだろ。そこに短い剣を樽の外からぶっ刺したところで、短い刃だからな、剣のつば……持ち手の部分が樽につっかえて刃は奥まで入らずに、お前さんの胴体まではおそらく到達しねぇ。ただ……」

 賞金稼ぎは、ちょっぴり嫌らしい笑みを見せます。

「一本だけ、ちょっとばかし他よりも長い剣が紛れ込んでるんだよなァ。こいつならあるいは、お前さんの体を串刺しに……てとこだな」


 黒ひげは、唾をごくりと飲み込みます。

「……だんだん話が見えてきやした。そこにある剣は全部、刃の長さが見えねぇように、剣のつかの先っぽだけを外に出して、ほとんどは砂ん中に隠してある。つまり、その一本だけ長い剣を選びさせしなければ、おいらは助かる……ってことですよね?」

「ああ、察しが良くて助かるぜ。その通りだよ」


 賞金稼ぎは満足気に頷くと、剣が埋められた場所を指し、説明を続けます。

「どの剣を刺すか、お前は右から何番目の剣、てな感じで選んでくれ。俺はお前が選んだ剣を引っこ抜いて、外から樽に容赦なくぶっ刺していく。ああ、もちろん刺す寸前まで当たりか外れかわかんねぇように、剣を選び終えたらお前さんにはその都度、目を閉じてもらう」

 緊張した面持ちの黒ひげを見て、賞金稼ぎは笑ってみせます。

「悪いが、俺は勢いを殺したりはせずに、剣を全力で樽にぶっ刺すぜ。命の危険が一切ねぇゲームなんざ、つまらんからな。だが短い剣を選べば、剣の持ち手は樽に突っかえるし、問題ない。とまあ、そういう運試しのゲームだ。以上。何か質問は?」


 賞金稼ぎの説明を全て聞いた黒ひげは、おずおずと尋ねます。

「え、えと……その、剣は、その中からたった一本だけ選ぶんですよね? その一本を刺し終えれば、おいらは晴れて自由の身……てことでいいんですよね?」

 賞金稼ぎは、不満げに鼻を鳴らし、ゆっくりとかぶりを振ります。

「何甘っちょろいこと言ってんだ。それじゃあつまらんだろ。を見る必要があるからな。五本あるうちの、四本は選んでもらおうか」

 それを聞いた黒ひげは、悲痛な表情を浮かべます。

「そ、そんなにいっぱい刺すんですかい……?」

「ま、無理にやれとは言わんが。このゲームができねぇってことなら予定通り、お前を樽ごと海軍の元まで連れて行って、賞金を貰うまでだ。ま、海賊の下っ端クラスじゃ、どうせたいした額はもらえねぇだろうがな」

「そ、それだけはご勘弁を……」


 黒ひげは弱々しい声でそう呟きますが、やがて顔を上げ、決意したように言います。

「……やりやす。もし長い剣を選んだからといって、その場で死ぬとは限らねぇんだし」

「ああ、その通り。そこもお前の運次第、て訳だな。剣が達するかどうか、当たり所や、生きるか死ぬか……てとこも含めて、お前さんの運を見せてもらおうじゃないか」

 賞金稼ぎはそう言うと、最後に、黒ひげに囁きます。


「もしもこのゲームを無事生き残ってみせた時には、俺との賭けに勝ったとみなして、お前さんを樽ん中から出してやるよ。ま、せいぜい頑張りな」


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