大魔法使い様危機一髪チェストォ!

黒銘菓(クロメイカ/kuromeika)

第1話

あまりにも愚か過ぎる。

後ろでギャイノギャイノと言いながら追いかけてくる連中に反吐が出る。

ノロマな箒に乗り、無駄だらけでで弱い魔法を乱発している姿は魔法を侮辱しているとしか思えない。

そんな侮辱をする恥知らずは、あろうことかこの大魔法使いアイトンが研究を重ねた魔法を、愚鈍な脳でもって『禁忌の魔法』と罵った。

おまけにそれを『悪魔の魔法だ!』と抜かして今、壊そうとしている。

許されるものか!

 「これは大魔法使いたる俺の、俺だけの世界を変える魔法。好き勝手させてたまるものか!」

 懐の硝子瓶の無事を確認して、魔法を発動させる。


 『大氷壁』


 後ろの間抜け共の一部が地上から打ち上げられた氷塊にカチ上げられて吹き飛んでいく。

 しかし、それでも一部だ。全部じゃない。拙いクセに数だけは立派。頭にくる。

 このままでは追い付かれるのは時間の問題。全員を始末するのも撒くのも出来なくもないが、時間がかかりすぎる。

 「仕方ない……」

 とある魔法を発動する。

 それを使えばこの場どころか全員が永久に俺に手を届かせる事が出来なくなる。凡人では決して破れない壁の向こうに行くのだから。

 しかし、この魔法は完成しているものの未完成。

 何せこの魔法は行き先を決められず、戻る魔法は作れていないのだから。

 『世界渡り』

 その魔法を発動して翔ぶ。この魔法世界とは違う、別の世界へ。

 光に包まれ、追いかけてくる無能共と別れを告げた。

 「十手遅かったな、ハハハハハハハハ!」










 【二時間後】

 「魔法者にチェストすっとは女々か!?」

 「ノット女々にごつ。」

 矢鱈切れ味の良い凶器を抜き身で持ち、目が血走っている狂戦士が徘徊している。

 異常空間?違う、これがここの通常ふつうだ。

 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬこれは死ぬ!

 やべぇ世界に来ちまった!



 【一時間と五十五分くらい前】

 『世界渡り』をした直後、俺は先ず、周囲の世界を魔法で調べた。

 そして、笑いが込み上げた。

 周辺に人の反応がある。が、魔法や魔力の痕跡が無かったからだ。

 俺の去った世界では人が居れば魔法を使う。使えばその痕跡が残った。

 もし使わなかったとしても、人の内から漏れ出る魔力が痕跡としてそこに残る。

 人が居るのに魔法・魔力の痕跡が無いのは考えられない。全員漏れ出る魔力が無・・・・・・・・・・いなんて事でも無い限・・・・・・・・・・

 無いのだ、ここには魔力が無いのだ。魔法も魔力も無い世界に俺は来たんだ。

 周辺に大きなエネルギー反応が無い。魔法以外が発展している様子も無い。


 勝った。


 魔法も無い、それに対抗出来る力も無い。つまり、この大魔法使いアイトンに歯向かえる者も居ないという事。

 俺は自由を手に入れ、魔法で脅して労働力も手に入れられるという事だ。


 【少し後】


 集落……の様な場所に辿り着いた。木材で出来た粗末な小屋が幾つも並んでいる。

 見た事の無い魚が干され、畑があり、畜産も行っている。

 衣服は見た事の無いもの。


 お話にならない文明レベルだ。


 魔法抜きにしてもあまりにも粗末。あまりにも貧相。男も女も大して肥えている様子も無い。

 皆腰に奇妙な曲がっている棒をぶら提げている点が奇妙だが、脅威は感じない、全く。


 『意思疎通』

 言葉を音の振動ではなく『意思』として相手の頭に直接流し込む魔法を使った。これで言葉の意味は解かる様になる。



 「おいお前達、俺の話している言葉が解るか?」

 堂々と集落に歩んで行く。第一印象は堂々と、どちらが上かを見せつける為に余裕を持って、だ。

 「誰だ?」

 ざわざわとしてこちらを注視する。

 「俺は他の世界からやってきた『大』魔法使いアイトン。

 お前達みたいな愚かしく野蛮なサルを導く為にやって来た。

 貧相な知能でも解る様に言ってやろう。『俺に従え。そうすれば生かしてやる。』だ!」

 それを聞いて連中が表情を険しくする。

 俺も馬鹿じゃない。これを言って相手が友好的な態度を取ると思っている訳じゃない。

 血の気の多い奴を数人。準備しておいた魔法で殺して見せて連中に賢い選択をさせる・・・・・・・・事が目的だ。


 『火葬槍』・『瀑布刃』・『大気砲』


 最初の一人はどうしてやろ「チェストオオオオオオオオオ!」

 急に奇声を発して殴り掛かってくる阿呆が居た。


 『火葬槍』 


 何かをする前に殺してやれば大人しくなる。万一の事態も考えてそれが良い。

 1000℃を超える槍を象った炎が最初の一人を焼き殺「チェストォオオオオおおオオオオオオオオオ!」

 え?

 何あれ?

 え?1000℃の炎だよ?

 魔法があっても対策の出来ない阿呆なら黒焦げに出来る一撃だよ?

 魔法抜きでなんで……なんで鉄製の杖・・・・で『火葬槍』を叩き切ってんだ?

 「チェストオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 「「「「「「チェストオオオオオオオオオオオオオオオ!」」」」」」


 『意思疎通』の魔法があるのに『チェスト』と言っているようにしか聞こえない。

 でも解る。何を言いたいかが解る。

 「チェストオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 「「「「「「チェストオオオオオオオオオオオオオオオ!」」」」」」

 だ。

 腰にぶら提げた奇妙に曲がった棒を引き抜き構える。

 鉄製のそれは、人を殺す形をしていた。


 『瀑布刃』・『大気砲』


 迷わず殺す。


 『火葬槍』・『瀑布刃』・『大気砲』


 危険生物だ。これは使えない。


 『大轟岩』・『雷降』・『毒激流』


 思いついた殺傷魔法を全力で叩き込む。皆殺しだ。


 「「「「「「チェストオオオオオオオオオオオオオオオ!」」」」」」

 何故か魔法も使っていない鉄製と思しき棒で魔法が斬り捨てられた。

 いや、未だ慌てるような時間じゃな『チェスト投刀!』

 鉄製の棒が投げ付けられて防御魔法が割られた。






 【現在】

 「私共殺魔者さつまもんにケンカを売っとは良か度胸じゃ。」

 「頭蓋骨を砕いて腹を開けもんそ。」

 「名案にごつ。」

 「前に来たしと同じごつしもんそ。」

 物騒な言葉が聞こえる。

 血の気が引いていく。魔法を魔法抜きで叩き切る頭のおかしい奴らを見た事が無い。

 このままここに居れば俺は死ぬ。間違いなくあの暴の蛮族に斬り殺チェストされる。

 「逃げ…」

 「チェストち言いもしたか?」

 見付かった。

 「チェストオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 「うわああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」




 逃げる。逃げる。逃げる。逃げる。

 逃げても逃げても追いかけてくる。魔法で、音速で、飛行しているのに、追いかけてくる。

 ダメだ。ここはもうだめだ。にげないとにげるだめだかえりたいしにたくないいたいのはいやだたすけてくれ!

 そうだ、『世界渡り』をまたすれば。

 次にどんな場所に辿り着くか解らない。おまけにこの状況だ。失敗する可能性だってある。

 でも……

 「ここだけはだ!」

 何としてでもここから逃げたい。逃げねば!

 「見つけもした。チェストオオオオオオオオオオオオオオオ

 「頼む、成功してくれ!」

 『世界渡り』

 「チェス

 大魔法使いの魔法は頭蓋を割られる一歩手前、頭皮1枚を断たれた所で発動し、大魔法使いをこの世界から消して見せた。








 「やった。逃げられた。逃げたぞ。逃げて見せたぞ!!」

 魔法の発動を感じて、頭から血が流れているのを感じて、そしてつい二時間前に居た元の世界の光景が目の前に広がっているのを感じた。

 「もう、嫌だ。もう嫌だ。あの魔法・・・・をさっさと使って俺の人生に安寧を……無い。」


 大魔法使いのアイトンが世界を渡る事になった原因の魔法。

 その正体は『世界改変』の魔法。

 使用者の感情や思った事を世界に反映させる禁忌の魔法。

 世界を変え、世界を終わらせ、世界を作り変える魔法。

 その魔法が封じられた、魔法そのものの硝子瓶が消えてなくなっていた。


 「どうして、さっきまであったのに!」

 厭な考えが頭を過ぎる。

 先刻の『世界渡り』で元の世界に戻れた。それはあり得ない事じゃないが、本来狙って出来る事じゃない。

 もし、『世界改変』の魔法が発動して、『世界渡り』が成功したとしたら……

 俺の感情や思った事を反映させたのだとしたら……

 「チェスト逃がさん

 背中から殺魔者の声が聞こえた。










関係者各位の皆様、ごめんなさい。

参考サイト:https://onjyodoi.sakura.ne.jp/honyaku/honyaku.html

https://www.8toch.net/translate/?lang=st

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