(ディア4):水星は遠すぎる

「ねぇアヤナさぁー」

「何?」

「私、人生について色々わからないことがあってさ……」

「そう言われても」

 ディアがまた何か仕掛けてきた……って感じだった。いつもノリノリで受け応えるモニカも(作品タイトルを気にしてか)少し自重している。

「で、ディア。人生の何がわからないのよ。言っておくけど人生経験なら、私はディアより二年劣るけれど?」

 途端にディアがブチギレる。

「あやなああああっ! 私、今現在は15歳の女子校生だって言ってるでしょ!?」

「ご、ごめんなさい……」

 (キレるポイントがよくわからないので、大変である)

 (ついでに『今現在は』とつけてる時点で、かなりうさんくさい)


「えーっと。実はねアヤナ。私、今度課長に昇進することになってさー」

「課長!? 昇進!?」

「いえ昇進自体は嬉しいのよ。自分の今までが認められてきたってことだし。でもコレって中間管理職なわけで。上と下の圧力から耐えられるかと思うと……」

「……」


 そこで恐る恐る、モニカが手を上げた。

「あのー、ディアさん。ディアさんはどこに所属していらっしゃるんです?」

「そりゃ剣と魔法のファンタジー世界だもん。冒険者ギルドに決まってるじゃん?」

 アヤナが少し小さな声で言う。

「多分、冒険者ギルドに『課長』職はないと思う……」

「ん? なんで?」

「だって。なに『課』の課長なのよ」

「いやそこはファンタジーにしてもらわないと。何か思い浮かべてよ」

「んー。じゃあ福利厚生課、とか……」

 モニカが仲介するように言う。

「でもでもアヤナさん。ウチって結構リアル寄り(?)じゃないですか。軍人にも階級あったり、士官学校あったり。警察もいるし」

「まあ、そうねぇ」


 ディアがふにゃふにゃ聞いてきた。

「ねえねえ。じゃあさ。階級とか肩書き繋がりで。なんか最近議論になってたみたいだけど。日本の記録上で黒人最強 (らしい)・『弥助』 (やすけ)は。武士なん? 侍なん?」

 アヤナは軽く肯く。

「詳しくは知らないけど。どこぞの学者が『侍』って言ってたらしいみたいだから、そうなんじゃないかしら」

 モニカはちょっと声を高くする。

「いやいや。ムラマサ持ってたらサムライ、のほうがいいと思いますね。カシナートの剣あたりなら武士でしょうし」

 ディアの赤茶けたポニーテールがピョンとする。

「えぇ!? サムライになる難易度、高すぎない!?」

「じゃあマハリト使えるくらいならサムライ」

「今度は一気にショボくなった……」


 モニカはくるくるの瞳で声を上げた。

「どこぞのゲームは、弥助なんて独特な存在でなくて普通の暗殺者(WIZで言うところのニンジャ)にすれば良かったのかと思いますね。日本には、必殺仕事人も、くノ一ツバキの胸の内も、ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズも、忍者ハットリ君も、そういう史実があったのに」

「史実じゃない、史実じゃない」

 アヤナのツッコミに、ディアも被せる。

「史実じゃないどころか、明らかに日本製じゃないのが混じってる」


 モニカはむくれるように言う。

「暴れん坊将軍と言う史実もあったのに」

 アヤナは少し声を落とした。

「……そういうこと言うから、色々と間違った文化が広がるんだと思う」

「イザとなればサンバ踊れるのに」

「だからやめなさいってば!」


#このテキストが後世……数百年後あたりに伝わった時。どこぞの学者がこの文章を見て『暴れん坊将軍は史実だった!』と興奮している可能性もありうる。それはそれでステキなことだと思うが……うっかり下手なことは言わねーほうがいいのかもしれない。



 間を取り直してから、モニカは言った。

「で、弥助。最強の黒人サムライ、みたいな宣伝を聞いたことがありますが……アヤナさん、あれどうなんです?」

「んー。当時、日本国内で黒人はせいぜい10人くらいだと思うから、まあその中で『最強』とは言えるかも」

 ディアは指をとんとんさせた。

「弥助って、スペインだかどっかから宣教師に連れられて来たんじゃなかったっけ?」

「そうね。宣教師に連れられてきた奴隷だか解放奴隷だったんじゃなかったっけ? ガタイは良かったでしょうけど、槍とか弓、組織戦闘の訓練は受けてないと思うんで一騎当千かどうかは怪しいかな。あと身体能力は凄いかも」

 ディアはふにゃっとする。

「当時の小柄な日本人が見たら、そのガタイの良さはビビると思わない? タイマンなら、みんな逃げ出したかも。私も逃げると思うし」

「そうね。当時の日本人から見たらデカい熊に遭遇しちゃったような感じでしょうし」



 モニカが不思議そうに言う。

「でもなんかアレですね。『弥助』関連ですけど……日本には黒人差別は少ない感じがしません?」

 アヤナが肯く。

「もともと、黒人の絶対数が少ないってのもあるでしょうね」

 ディアはコクコク頷いている。

「アレよアレ。多くの日本人は、まずDQ4のミネアとマーニャを連想するから、どうしたって黒人は色っぽく、そして神秘的、好意的に映る」

 モニカがビクッとする

「もしかして鳥山明先生のおかげ!?」

 ディアはグッと拳を握る。

「もし鳥山明先生がご存命で各地を回っていたならば、『黒人こそ美しい』という意識になっていたかも!」

「おぉ……」

「おぉ……」


 ディアは続けて、笑顔で言った。

「マーニャの『ぬののふく』を外し『なにももたない』にして脳内で興奮する中学生男子は多かったと思う」

 アヤナは少し引いている。

「え。中学生男子ってそうなんだ……。じゃあアリーナ姫の場合は?」

「そりゃ、あのおてんば姫は、小中学生どころか高校男子までカバーよ。薄い本いっぱい出たし。今なお出てるしイラスト出てるし」



 アヤナは声を出す。

「凄いわね、男子の妄想力……。でもそう言えばさ。日本のアニメには鳥山明先生とは何も関係なく、普通に魅力的な黒人いるわよね?」

 ディアは肯く。

「……ナディアとか黒人よね? いやアレ黒人と言っていいかはわからんけど。あとVガンのシャクティとかマーベットさんとかも。ギアスにもおねーさんいたし、ポケモンにもいたよね? プラネテスのフィー。そもそも、いっとー凄くて有能なのはJOJO3部のアブドゥル」

 モニカはテキトーな感じで頷く。

「ま。褐色と黒人と、わりと受け手は曖昧ですけどね」


 アヤナが少し首を傾げる。

「そもそも、ララァが黒人でしょ?」

 ディアは手を左右に振る。

「アレはインド人」


#インドの人、色々ごめんなさい。ウチ(富野)のせいで、インド人には全員NTの素養がある、的な捉え方をされてるかもしれません。


 なんだかモニカは頷いている。

「『インド人を右に』、とか言う有名な迷言もありますし」

「……(何それ?)」

「……(多分どうでもいいっぽい情報)」



 ディアが真顔になる。

「でもさ。そもそも『白人こそ美しい』、ってのは誰が決めたの? アパルトヘイト? よくわからんけど、悟空さがスーパーサイヤ人になった時、髪の色が白くなったのを『白人を優遇しやがって』と怒って抗議した団体がいたとか、どうとか」

 モニカは肯く。

「髪の色は当時、バトルが多くなることを予想して『ベタ』(黒く塗る)の量を減らしたい……と鳥山明先生がインタビューで言ってたはずです。現場の必然ですね」

「へー」

「でも先生、タオパイパイのことはうろ覚えだったらしいですけど」

「ひでぇ」

「と言うか悟空さは『白人』ではなく、『サイヤ人』であり『超サイヤ人』では? ……主にベタの都合で」

「そうねぇ。ベタの都合ってのがちょっと格好良くはないけど」



 アヤナがいい感じに、まったりしていると。モニカが言い始めた。


「そうそう。あれは『ポリコレ』の一部、なんでしょうかね。ただそういうので『黒人の声は黒人が充てるべき』……という声もありました」

 アヤナはまったりしたままだ。

「なんだか面倒ねぇ」



 ディアは少し考えて、言う。

「ふーん……じゃあ上坂すみれはどうしたらいいの?」



 今度はモニカがビビッている。

「え。あの人は日本人……でいいんですよね? ただ単にロシア文化に通じていてロシア語が巧いだけの、普通の日本人女性声優」


「でも彼女。ロシア人に仕事、取られたりしない?」

「いえ個人的なことまでは、ちょっと……」


「じゃあじゃあ。アニメで日本語喋ってる黒人はどうすんの? ナディアとかシャクティとか、フィーとかアヴドゥルとか、ミネアとかマーニャとか」

「んー。現地の言語……何語かは知りませんが、それで黒人の誰かが喋って、日本の放送の時は字幕に、ならできるかも。ってか宇宙世紀 (シャクティとか)は英語をベースのなんちゃら語、だったような(だから割とどこでも意思疎通できる)。フィーもそうだったはずですし、アヴドゥルは母国語はエジプト語でしょうけど、普段は英語が基本だと思います(初手から承太郎や花京院と意思疎通できたから)。ただミネアとマーニャが何語で話してるかまでは、ちょっと……」



 一瞬の間をおいて。



 ディアがポツンと言う。

「『水星の魔女』、あったじゃん?」

「はい」

「アレはどーすんの?」

「え」

「どっかから『水星人』連れて来るの?」

「ぅわぁ……」



 アヤナが頬を軽く掻く。

「『水星』は遠すぎるわよねぇ。よく(?)『前世が月の住人』と自称してる人はいるけど。流石に『水星』はちょっと……。遠いし暑すぎるし。不便だし」


 ディアが頷きながら言った。

「水星まで行かなくてもさ。サイド3とか月面都市グラナダとかどーすんの? 月生まれの月育ち、月で働いてるルナリアンだって腐る程いるよ? 代表的なとこでは……ニナ・パープルトンとか」


 モニカが呟いた。

「アイツはむしろ、何も喋らなくていいんじゃないですかね」

 #うっかり本音が出た。



  ディアも言う。

「ま、アイツは存在しなくてもいっか」

 #やはり、うっかり本音が出た。




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(自称)女子高生ディア15歳のアレ 佐々木英治 @backupbackup

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