(設定6):レガシーのことを。教えて、アヤナ先生!
「前、飛行機のシステムはWIN2000にFDDを使用していると言いましたが」
モニカがいきなり真面目な話を振ってきた。
指をテーブルの上でトントンさせる。
「実は。ドイツの海軍は、8インチフロッピーを使ってます」
ディアとアヤナはぶっ飛んだ。
「8インチ!?」
「5.25インチですらなく!?」
「モニカ、もうそれドクター中松の時代でしょ!?」
モニカはグッと拳を握る。
「逆に考えるんだ。もうフロッピーでもいいさと考えるんだ」
「(そんなん流石にジョースター卿に怒られそうだけど)」
モニカは真面目な顔で言う。
「ただ流石に新しいシステムにアップデートしたいらしく、業者を探していたみたいですが……もし何かバグがあって、戦争中に突然動かなくなったら、誰が責任取るんでしょうかね? その業者でしょうか? ふん、ざまぁないです」
アヤナはぼんやり思った。
「(この子、ドイツに当たりが厳しくない?)」
モニカはぷんぷん怒っている。
「アイツらが『環境環境』言えるのは、ロシアから引いたパイプラインで電力に困らないのと、防御はEU任せで軍縮してるだけです。はんっ!? 原発は廃止してんのに核融合には多額のカネ出してるくせに! クリーンディーゼルとか電気自動車とか勝手に言うだけ言って撤退しやがって!」
「(やっぱりドイツに厳しいわよね?)」
「(私はソーセージとか好きなんだけど)」
モニカは小さな声で叫ぶ。
「ドイツって、もともとティーガー(戦車)やパンターが駆け回ってた土地ですよ!? レオパルトが走り回らなくてどーすんですか!」
「「((あぁ……個人的な好みの問題みたい))」」
モニカは少ししょんぼりする。
「でもまあ……ドイツって。日本の某PC-98の時代から、某エロゲーの、某エロシーンで、某東国家の、国歌みたいなものをパロッたのを怒ってるんですかね。タイトルが『我が闘争』らしいですし……でも旧東ドイツってどっか行っちゃったんでどこからもクレーム来ないと思いますが」
「(わかんないこと言ってる……)」
モニカはピンと指を立てた。
「で、フロッピーですよ。ちょい前までは官公庁への電子入札はフロッピー(電子証明書)で行われていたんですが……アレJAVAを使ったモノが多かったです。JAVA1.3とか1.4とか。でもそもそもJAVAも新しいものではないし。1.5とかが勝手に入ってきては競合するし。そしてFDの代わりにICチップになったからと言って利便性が上がるわけでもない。そもそも今でも『なんかPC壊れちゃった、てへぺろ☆』で紙の入札ができるとこも多いみたいですよ」
アヤナとディアが言う。
「未来っぽい感じがしないわ!」
「へっぽこですやん!」
「聞いた話では、今のシステムも例えばChromeじゃダメでIEやEdge限定で決め打ちしてるトコもあるとか」
「更にダメすぎる!」
「もうそれ、技術者に悪意あるでしょ!」
「あと、なんか、プリンタが必要となる電子入札もあるらしく」
「ああああああ!」
「デジタル大臣ー!」
モニカはボソッと言う。
「昔、Suicaインターネットサービスで、PCに板つけて。PCでチャージしたり使ったりするサービスがあったんですが。アレもブラウザがIE決め打ちで使い物ならなかったような……」
「当時からそんなんじゃダメじゃん!? なんでIEとかを標準にするのさ!」
ディアは拳を握って怒っている。
モニカは少し首をひねった。
「まあ……Chromeなんて単なる民間のブラウザの一つですからね。そこまでサポートしろとは……ちょっと無理がある、って事情もあるかと」
一方のアヤナは少し冷静だ。
「そもそも思うのだけれど。あのSuicaヤル気無いんじゃないかしら? あれで10万円ぐらい入れられて、ポイントつくようにすれば世界最強クラスだと思うのだけれど」
モニカは軽く肯く。
「はい。でも多分、それだと世界のクレジット会社と競合するんでしょう。それは敢えて危惧したのかもしれません。まー、なんとかペイは割と消えてもどうでもいいですけど」
ディアは赤茶けたポニテをふにゃふにゃさせる。
「じゃーさ。まずデジタル大臣もさ。へっぽこ技術者を駆逐しなきゃダメじゃん? まずそこからよ。無能は駆逐して、優秀なのと入れ替える!」
「えー。多少のスキルがある入社したての無能な若者が、職人レベルの優秀に育つまでどれくらいカネと時間がかかるんですか……」
アヤナは少し肯いている。
「一部の銀行系で聞いたんだけど。合併した時、下請けに何社かの技術者を集めて、仕様書も指揮権も何もわからなくて、もう誰もどう動いてるかわからない、って聞いたけど。本当なのかしら?」
「そんな感じなのは聞きますね」
「そういう時には、どうするの?」
「……再起動?」
#再起動は万能である。
混乱してる女子二人をよそに、モニカは平然と言う。
「ってか、そもそもがフロッピーの話しでしたけど……確か最近まで核兵器も8インチフロッピーで制御されてたような」
またもディアとアヤナはぶっ飛んだ。
「マジすか!?」
「みんなフロッピー好きすぎるでしょ!」
アヤナは少し考えて……言った。
「でもさぁモニカ……フロッピーって、まだ市場に残ってるのかしら?」
ディアもうんうんと肯く。
「流石に、もうどこでも生産してないって聞くよ。残りは市場に出回ってるのだけじゃないの? あと押し入れに眠ってるヤツとか」
モニカは首を傾げる。
「そうですね。確かに市場に残ってるFD任せで、そのFDの数はどれくらいかはわかりませんが多くはないでしょう。どれくらい使えるかもわかりませんし。
でも……ドクター中松のサイトにカネ払って申し込めば、5.25インチのFD(サイン入り)が無尽蔵に出てくるらしいです。この永久機関を『ドクター中松エンジン』と呼ぶらしく」
(一気に胡散臭くなった)
(カネ払ってるんだから永久じゃなくね?)
モニカは指をトントンさせる。
「でもフロッピー。昔のCDドライブがない時代は、WIN95だかはFD15枚組とかでインストールできましたよ」
「おぉ、すげえフロッピー!」
だがアヤナは当然のことを言う。
「でもさ。もう少し最初から新しいシステムにできないのかしら」
モニカは肯いた。
「うーん。新しいから良い、ってわけでもないんですよ。そりゃテストはするでしょうけども……。例えば初期のプレイステーション、そしてサターンはCDドライブを採用しましたが、任天堂の64は敢えて採用しませんでした。容量よりも堅牢性を選んだ同社のスタイルは好きですね。……当時の売上はともかくとして」
ディアはポニーテールをぴょこっとさせる。
「CDはダメダメさんだったの?」
「いえ。R(自分で焼いたやつ)ではなくプレスCDは、一定以上の品質が保証されてます(変な業者以外は)。ただプレスCDそのものではなく……読み取り装置のほうに負荷がかかることが多かったそうで」
「やっぱりCD系はダメなん?」
「んー。ダメとは言いませんが。ゲーム機のアレってDISCを回転させてレンズをちょこちょこ動かしてるんで。ハードに負荷がかかりピックアップレンズ周りの消耗が激しいんですよ。これは普通に音楽とか映画を再生するよりも、遥かにです。だってメモリの外のモノは全部『レンズちょこちょこ』で出し入れするんで。CDもDVDでも、やっぱり消耗します。容量の大きなBD、メモリが多くなったりDL販売のヤツ、カードのやつはもう大丈夫でしょうけど」
「ふーん……」
モニカはぽやーんと言う。
「特にPSやPS2で『フリーズが出る』ってのは、プログラム上のバグではなく、ゲーム機の個体由来、あるいは処理しにくい……みたいなとこで止まることも多いとも聞いたことがあります。PSやPS2本体を買い替えたらフリーズしなくなる……ってこともあった模様」
「力技ね……」
モニカはコクンと肯く。
「DVDと言えば。一層4.7GB二層8.7GBまで入りますが。DVDーVIDEOの映像でもチラホラ『一層と二層の切り替わり』で少しモタつく場合もあります。つまり読み取りはそれだけ難しいんです。もし二層にプログラムを詰め込んだら……とまたレンズに負担をかけて、フリーズが多くなるはず。なので多くのゲームは一層4.7GB以内にしたかったかもしれませんね」
アヤナが、身体を伸ばす。
「でもさ。実際にフロッピーって色んなシステムに使われたわけでしょ? それはどうしてなのかしら?」
「んー。当時のIDEとかじゃ幅広くできなかったのかもしれません。と言うかIDEで繋げるとしてもHDDってのは安全上ヤバい。当時は精密機器ですよ? 落っことしただけで壊れるモノです。そのIDEだってどうしたって相性はありますし……そしてそもそもSCSIなんて普通に使ってても止まる感じだったし」
「昔は大変だったのねぇ」
アヤナは軽く言うが、ディアはうっかり『素』に戻ってしまっていた。
(コイツ13歳のはずだよな……?)
モニカは普通に言う。
「あと。当時のPCはメモリ増設の時に全裸になりました」
「は!?」
「は!?」
「静電気でパチッっていくと壊れるくらい脆かったんです。そうなると数万円飛ぶし。だから全裸になって、金属製のドアノブや水道の蛇口を触って身体の電気を放電させたんです。その上でお祈りをして、セット」
流石にアヤナも、思ってしまった。
(コイツ13歳のはずだよな……?)
モニカはコホンと咳払いをしていた。
「あまりにも……あまりにも昔の話をしてしまいましたね……」
女性二人組は冗談かマジか判断にあぐねていた。モニカは続ける。
「で、まあ。当時のHDDは今とは比べ物にならないくらい壊れることを考えると。枯れた技術……と考えるのは当然だったでしょう。堅牢だってことで」
「それがフロッピーね? じゃあ今はUSBで構築するのかしら?」
「そうですね。今なら当然USBを考えるはずですが……USB1なのかUSB2なのかUSB3なのか……と考えると。そして次の『4』とか『5』とか出たら……となるのは怖いですよね? 色々規格も出来るし。なのでもし私が設計するなら、もう規格が決まってて、最も低い『1』に合わせます。『ソレ以上』は何かのトラブルを起こしそうですから。『2』とか『3』とかでも互換は取れてますが、やっぱ怖い。……だから最も『安全側』を選びます。だって文字通り大勢の命をかけるシステムですから。すると将来「USB1.0」っていうレガシーになるかもですが、まあ通信速度は必要ないでしょうし。……どうせ次のシステムは、また誰かが設計してくれればいいし」
アヤナはぼんやり思った。
「(最後の一言で、思いっきり本音が出てる……)」
ディアは言う。
「いま流行りのクラウドはダメなん?」
「えー。ディアさん。そんな、どこに繋がってるか繋がってないか、どんなウイルスがいるかいないかの場所に、大事なデータ置きたいですか?」
「おぉぅ……」
モニカは続ける。
「それにあるいは……システム(プログラム)的に、当時はFDDを指定したかったのかもしれません」
「ん? どういうこと?」
「前に話しましたが、今の汎用PC……当時のIBMの、PC/AT互換機は。もともとシステムドライブがCなんですよ。AとBはFDDに割り当てられていて……。これは未だにそうです。外付けのUSB何とかを着けてもCの次、DとかEドライブになります。ならプログラム的にはAに決め打ちするのも悪くないかな、と……」
「Dドライブに決め打ちとかできないん?」
「怖いですね。もしCの次に内蔵CD/DVDドライブがあると、それがDドライブになるのが一般的ですから。かと言って外付けのUSBなんちゃらにするとそれがDドライブになるし。うっかりUSBメモリとかが2つついていて、書き込み/読み込み指定を間違える……なんてこともあるかもしれません。……ま、これは全部私の推測ですけどね」
アヤナは長い黒髪を掻き揚げた。
「じゃあモニカが新しいシステムを使って『USB』で構築する場合は、どんなストレージにするのかしら? 少し興味があるわ」
ディアも興奮して笑顔だ。
「おー、おー! 言ったれモニカ! この世の全ての技術者に! 言ってやれ!」
モニカは深く考え……。
「USB・HDD……熱とか衝撃に弱いので却下です。
USBメモリ(フラッシュメモリ)……書き込みや耐用年数に弱いので却下です。
USB・SSD……同じく書き込みや耐用年数に弱いので却下です。
なので……」
「「((わくわく、わくわく!))」」
「そういうわけで。USBにドライブをつけて、フロッピーですかねぇ……」
「えぇ……」
#この13歳は永久機関(ドクター中松エンジン)を信用し過ぎである。
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(ウェインのレガシー)
「ウェインの黒歴史ノートより。一部抜粋」
包丁とか鋭利なナイフを手にし、危険な感覚研ぎ澄まされて。
「ククク…血の匂いがするぜ」って呟いたら、師匠にぶん殴られた そんな悲しいあの夏の日
知らなかったんだ。と言うかそんなの知り尽くしてる男は逆に怖いぜ
学校で教えてくれないし。もしそんなん教わっても「ああ、そう」ぐらいにしか思わない
それが男と女。互いに理解し得ない、そんな夏の日
Oh.我が世界よ 炎が魂を燃やし尽くす時 秘めたる力は開放される
秘めたる力…凄いやつ
いや秘めたる力…常闇の。寝る前の。
違う、秘めたる力…きっと何かを秘めてるだろう。多分。
一般人には感知できない、それが秘めたる力。
秘めたる…夏の日
愛と情熱。それが世界を創造し なんか秘めて…
月と霧とその他もろもろ。あと常闇とか寝る前の。あとなんか…夏の日とか
Oh.我が世界よ 荒れ果てたこの世界で 独りすすりなく
え。荒れ果ててない? いや荒れ果ててるんだよ。そこを認めてくれなきゃ先に進めないだろ
Oh.風が風がとてもとても吹いてるし。Oh.白球を追ったあの夏(県大会ベスト8)。
Oh.今日も今日も胸を焦がす。キミの存在。
ウチでは「みゃー君」って呼ばれてるけど、他の家じゃ違う呼び方されてるんだね
可愛い可愛い、我らがにゃんこ。きっと心も温かいぜ。
もしも世界が終わったら
きっと僕も死ぬでしょう
でも貴方も死ぬのでは?
そしてこの魔導書も消えるっぽい。
石版に書いておけば少しは長持ちしただろうに 手遅れだった夏の日
好きだと
大好きだと
どうしても伝えたかったけれども
でもどうしても伝えられない、あの夏の日
だって伝える相手が特にいないんで
うっかりうっかりハードラックとダンスったあの夏
ああ、ああフォーリンラブ
まだ見ぬ恋人よ。我が天使よ。俺の前から飛び立たないで。
お願いだから。頼むから。カネ積むから。
でも『天使』って言っても男の天使が多いしな。
やっぱ飛び立っていいや。こっち来んな。
…ってかこの我が暗黒の聖遺物。
捨てるのは 燃えるゴミなのか燃えないゴミなのか
おお我が師よ。私にこの闇の書物の処分方を教えて下さい。
捨てるんで
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