(設定5):学院のことを。教えてアヤナ先生!
「アヤナさん、アヤナさん」
モニカが少し興奮気味に言う。普段はディアの言葉から始まるこの会合(?)だったが、モニカが言い出すのは少し珍しい。
「なに、モニカ?」
「あのぅ。色んな作品で、『生徒会』ってあると思うんです」
「そうね。学園モノなら割とあるはず」
モニカがギュッと手を握りしめた。
「アイツら、やたら『権力』持ってませんか?」
おお、っとアヤナが何度か肯いた。
「そうね。ステータスもだし、生徒の自治権が強すぎな感じはする」
ディアも少し考えている。
「うーん。へっぽこな『生徒会』なんて存在しないわね。少なくとも創作では見たことない。んー。でもでも。んー?」
「ディア。どしたの?」
「なんかさー。へっぽこな『生徒会』って、どっかで見た感じもするのよね……」
アヤナは軽く首をひねる。
「そうなの? でもまあモニカの言う通り、色々な作品じゃ『生徒会』って凄い権力や影響力を持ってることが多いわね」
モニカはうんうんと肯く。
「難癖つけてきて主人公のクラブを潰そうとしたり。逆に生徒会選挙に立候補して頑張ったり、各界の著名人とパイプができてバラ色の将来が約束される感じです」
「ま、そんなのが多そうな気はするわ。王道みたいな感じだし」
「そうです。それで……ウチの魔法学院にはなんかそんなのはないのかなぁ、と思いまして。なんだかウチの生徒会のこと、どっかで少し聞いたんですよ。アヤナさん。何か知ってたら教えてくれませんか?」
「うん。いいわよ。ただ私もよくは知らないんで、詳しくは他の人に当たってほしいけど。触りぐらいなら」
モニカは嬉しそうに喜んだ。
「やった、ありがとーございます!」
一方のディアは何やら思い出そうとしたまま、少し硬直していた。
モニカはそれをあまり気にせず、言う。
「えっとアヤナさん。ウチに『生徒会』がある以上、やっぱり『生徒会長』もいるんですよね?」
「ええ。もちろん、いるわよ」
「どんな感じで会長になるんです?」
アヤナは整った綺麗な顔を崩すことなく、言った。
「ウチの場合。生徒会長は 入 札 で 決まるわ」
「!?」
「!?」
モニカが軽く片手を上げる。
「それって、オークション的な?」
ディアも軽く片手を上げる。
「それって、裏オークション的な?」
「裏、って何よ。裏って……」
一方のモニカがあたふたした。
「ともあれアヤナさん。そんな、入札……オークションで決まっちゃうんですか!?」
アヤナは少し顔を緩ませ、軽く片手を振った。
「ごめんごめん、言葉が足りなかった。違うわよ。オークション形式だとカネ積んだ人間が勝っちゃうからね」
「で、ですよねー……」
するとアヤナは真顔な顔に戻って言い放つ。
「最低制限価格をつけての競争入札よ」
「!?」
「!?」
「最低制限価格を予め決めておいて。その中で一番安い人が勝利。最低制限価格は入札後に開示されるわ。それを下回っていたら失格。安すぎるってことはダンピングとか酷い仕事をするだろうから、ってことで予め下限を決めておくの」
「ちょっ、ちょっ! ウチってそんなことしてたんですか!?」
「そうよ」
「生徒による投票とかないんですか!?」
「んー、そんなのあったかなぁ……」
アヤナは少し思い出して……。
「うん。特にはないわね」
「えええぇえ!」
「だって、もし投票をやったら。人望があったり選挙がうまい人が勝っちゃって、平等じゃないでしょう?」
「それ絶対、平等の使い所を間違ってますよね!?」
「当初はカネ積む方式で、バックボーンにカネづるがいることを示す感じで、色々なところとパイプできると示す意義もあったみたいなんだけど。今の競争入札制度を導入してからは明確に公平になったみたい」
「まあ……。そう言われれば納得もしますけど。じゃあ生徒会長の権力は? 何かあるんですよね?」
「いえ特には……。確か『遺憾の意』は、生徒会長が優先的に学級新聞に載せられると聞いたことがあるわ。あと食堂で提供されるふりかけの味の要望・優先権とか。何かのクーポンも貰えるみたい」
モニカは愕然とする。
「どうでもいいようなものばかりですね……」
「あ。確か在籍中のスローガンも掲げられるはず」
「スローガン!? 私、今までそんなの知りませんけど!?」
「ええ。だからまあ、それくらいの影響力というわけで……」
「まるっきり、権力も役得もないじゃないですか!」
「うん。だから皆あまりやりたがらないわね。ほら色んな部活のまとめとか運用とかしなくちゃならないから。……でも、そもそも魔法使いたちって他のことどうでもいい人間も多いし」
モニカは頭を抱える。
「何かメリットってないんですか?」
「んー。……就職で少しは有利になるかも。頑張り屋さん、って」
「ウチの卒業生、ってだけで、もうどこにでも就職できるじゃないですか!? 既に入札の意味までなくなってません!?」
「私にそう言われても……。まあウチの生徒会長って、権限や権力はないけど仕事や責任は多いからなぁ……。でも肩書きだけなら、色々と凄いかも。ほら『首席』とかよりも上な感じがするじゃない? ちょこっと聞いただけなら」
「まるっきりダメダメですやん!」
「あー、それと学級新聞に一定のスペースが貰えて、何か自由に書けるみたい。イチオシのアーティストの紹介とか、コラムとか、自作のポエムとか、なんかスピリチュアルな感じなことが書かれてたこともあったわ。一度どっかの企業と組んでCMとかヨイショ記事書いた試みがあったみたいだけど失敗だったみたい。ほら、そもそもウチらってまともに学級新聞読まないし」
モニカは既に泣きそうである。
「ちょっと期待してたのに、マジでショックです!」
「ん? どこかに期待する要素なんてあるかしら」
「ウェインさんを生徒会長選挙に立候補させ、私がそれを支えるという、ラブ成分多めのラブコメを期待してたんですよぅ!」
「えー。ウェインはそんな面倒なことしないでしょ。あの人自分の研究時間を一番欲しがってるから。本来は私とモニカがウェインの下にくっついていること自体、彼はあまり歓迎してないからね」
「あーん。酷いよー。世間は冷たいよー」
アヤナがぱっと思い出した。
「そうそう。生徒会室として一部屋貰えられるみたいね」
「おぉ。何するんですかね」
「前、ナニしちゃった人がいて。それから風紀はガッチガチになったとか」
「えー。それ私の思い描いた通りのシチュエーションなのに」
「なんでも、相手が13歳の未成年だったらしく」
「私の夢がぁああぁあ!」
珍しく、ディアが絡まずにアヤナとモニカの二人で話していた。
そして、その黙っていたディア。
彼女は。彼女は。必死に必死に思い出していた。
へっぽこな生徒会……
へっぽこな生徒会……
彼女はポンと手を打ち、満足そうに言った。
「『生徒会役員共』だ!」
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『ラクス・魔法学院』
「学園」ではなく「学院」な理由は、命名した時になんとなく。
ここは基本的に初等教育を終えた者(15歳以上)が、魔力や実技、座学により認められれば入学できる(全科履修生と呼ぶ)。数年で単位その他を集めると卒業。
#ウェイン、エル、そして今現在のモニカ。彼らが未成年ながらもこの身分なのは特例。15歳未満は「初等科」に行く場合がほとんど。
学院の求めるレベルに満たない者、あるいは一部の授業を受けたい場合等の、「入学」基準はかなり緩い。割と簡単に、誰でも授業を受けることができる(これを一部履修生と言う)。但しこれではあまり泊はつかず、履歴書的にもたいしたパワーはない。
一方でここでの「卒業」(全科履修生)は最高峰の肩書きであり、能力を担保する材料である。ラクスの中あるいは王都ガルディアの中では「魔法系」の就職先には困らない。また「知的労働」系もまあまあ行ける。
「魔法の職業関連」
インフラ:水や、都市の魔力を制御する。飲み水の濾過と殺菌、あるいはお風呂(温泉)の濾過と殺菌もここがやる。
各種通信施設のメンテと設計、敷設。
防疫フィールドの維持……街をぐるっと防疫フィールドで張り、病原菌などの侵入を多少防ぐ。大掛かり、そして数人でやるが、それでも完璧にカバーはできない(そして完璧を求めてもいない)。ラクスでは街の外に居住地がどんどん建てられているが、そこらへんはこの恩恵はない。
下水道及び糞尿処理班:生活排水、トイレ関係の匂い、病原菌を滅菌して処理業者へ引き渡す。なり手は僅か。少しは魔力があるが食い詰めた人間がやることが多い
工具:設計技師などと最初から組む場合もあるが、武器や防具、道具などに魔力を込める仕事。ジャンは「化け物レベル」らしい。あと隊長のトコのアヤナいわく「ロウは独創的」。
どうやらOSとかのMeとかもココがやっている模様(主にロウが)。
開発。色んなOSやら、プログラム・アプリやらを開発したり、テストもする。
「工場」
量産品の生産の場合。
ディアは一日何時間かバイトしていたらしいが、魔力を供給する仕事がある。しかし魔力供給も、魔力の大小やら系統やらクセやらで、一律なものにならない。それらを整えて、道具などに魔力を付与するのだが……ここの『整える』人は、割と実力が求められる。そこは魔法学院生がやる場合がほとんど。
ここで生産された武器は『数打ち』と言われ、わりとまあまあでテキトーなモノだけれど、「頑丈で安くてシンプル」というのはメリット。一般の警察や軍隊はこういうのを採用しやすい(数を揃えねばならないため)。
#「進路」
学院に残って:主に研究する人間。コレを目指す人間はかなり多い。何故なら魔法が好きで入学したのだから。ウェイン、そしてエルもこの身分を持っている。
教員や教授、それらのサポートに立つと賃金が発生する。弟子を取るなどとすれば賃金は増えるらしいが、大抵の魔法使いはそこまで細かく給料を見ていない。ウェインはいつのまにかこの身分も持っている。
これらは多くが一年契約の自動更新らしいが、そもそも契約書も回ってないらしい(本編より)
支援スタッフ:グランクさんやアルセさん。彼らも少しは魔法が使える。一部履修生だった人も多い。
また総務とか経理、人事とか経営部などがある。現在の会社のようなもの。(スタッフは基本、そのどれかの部署に所属している)
保安部のミルドさん、情報部のルークさん、とは本編で一度、名前だけ出た。
「ウチの生徒会をやるメリットはあまりない」的にアヤナは言っていたが。この部署(や似た部署)への就職はやりやすくはある
だがそもそも「就職」のために入学してくる人間は少ないので、やはり一般的なメリットはあまりない。
「制服」
魔法学院の制服は白を基調とした上着と、ズボン・スカート。
式典等の時には正式なマントがある。
そのドレスコードは民間人の中では最高峰。
また「魔法を極めようとする立場は同じ」という理念から、教員も生徒も基本は同じ制服である。何かで教員だと強く主張する場合は、腕章やらベストまで色々とグッズがある。
制服は僅かだが耐魔法能力を備え、装着者への魔法被害を減らす。
この制服はまあまあ貴重なので、特に一部履修生が仕立ててもらって、横流し(ブルセラみたいな)をする人もいるとか、いないとか。
またこの制服を着ていると魔法学院ゆかりの者だと認識されるので、コピーした粗悪品も出回っている。冒険者ギルドにいる魔法使いの大半は、その粗悪品を着ている人たち
「スク水」
アッシュが提言したからこそ、現在は水泳・着衣水泳は必須の授業となった。当初はそれなりに技術が求められたが、今は「まだちょっと未熟だけど、後は自分で頑張ってね。見込みで単位は出しとく」くらいな感じにもなっている模様。しかしあのエルですら(失礼)、少し泳げるようになった。
基本、平泳ぎと背泳ぎを教わる。これはそもそも生存率を高めるためであり、長距離・長時間の『泳ぎ』だけを必要としているため。短時間で速度を出すクロールは、水泳部とか専門機関でお願いね、という方針
レーンは「旧型のスク水の水抜き」と言及してたので、なんだかそれっぽい感じのような気もする。わざわざ「旧」と言っているので、「新スク水」もあるのでは。
「ブルマ」
女性の体操服である。レーンいわく「女性の解放運動の象徴」。
未だに決めていないが(どっかに書いたかもしれないが)、ハーフパンツかもしれないけれども。ブルマのほうがいいんじゃない? なんとなく
ジャージもあるが、やはり全力で運動をすると暑い。
「部活」
アッシュの提言により、部活動が盛んになった。
外部から有能な人間を招聘し、魔法学院生と切磋琢磨させよう、という考え。魔法と色々な文化・スポーツの併用・融合を目的としている。
柔道部でウェインは(カネを払わず)初段をもらった。名前入りの黒帯も、部の予算から出してもらってプレゼントされた。
陸上部もあると思うが、モニカは今そこに所属していない。ウェインへのもとでの修行・そして座学が忙しいため
「貴族の水増し成績」
貴族や、それに類する者。彼らは多少、魔力や成績が劣っても、入学・卒業できるということはよくある。
ウェインは当初、あまりそういうものを良く思っていなかった。
ただ本編でやり取りがあったように、(限度はあるが)貴族や王族を迎えて卒業させれば、そこから寄付金などのカネも流れてくる。それは学院の運営にも良いことだし、他の生徒にも還元される。それは悪いことではない……節度さえ守れば。
「魔法学院の立ち位置」
国から補助金もいくらか出て、学院自体が公的機関のような側面もある。しかし本質は完全な営利団体。しかも高度な自治権がある(逮捕権もあり、独自の軍隊も持っている)。
通常、完全に「第三者」の立ち位置に思えるが、適当に「遺憾の意」を言うことはある。王家・貴族・他国・一部の民衆などが対象。それで世論の緩衝材となっている。
……ぶっちゃけ、政治的なことは別にどうでも良いと考える魔法使いが多いのでどうでも良いのだが、そこらへんの学院内外の政治としてはアーク先生(アスリーの師匠)がかなり凄い立場で、頑張っている。
「犯罪」
学院独自の治安機関に捜査もされるが、通常の警察に回したりなんだりもある。
学院生が犯罪を起こした場合、色々何かとあるらしい
アスリー師匠は「全部不起訴」だから、(まだ)特にペナルティはない模様。
但しウェインは「実刑になったら縁を切りますよ」とのこと
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