第5話 それでもオッサンは伝説の勇者

 ……え?

 余計なこと言うなって?

 すみません、あのガキどもがあんまりひどかったんで、ちょっと。

 ええ、おっしゃるとおりです。

 子どもをだまして、怖がらせるなんて、大人がいちばんやってはいけないことです。

 でも、あなたは、大人がやってはいけないことをすべてやって、私を育ててくださった。

 親の顔も知らずに、戦で焼かれた小さな村をさまよっていた小さな私を拾って。

 国境は、どこでもひどいもんです。

 どこもかしこも焼け野原で、まともに作物も育たない。

 偉い、貴い身分の方々が、己の見栄と欲のために、いさかいばかり起こしているからです。

 戦のないところへ逃げ込もうにも、受け入れてはもらえません。

 関わり合いになりたくないからです。

 だれもが、難しいことに煩わされることなく、穏やかに暮らしていたいのは当たり前ですから。

 そんな中でも、あなたは私を守ってくださった。

 戦の中を一緒に逃げ回るなかで、身体じゅうに火傷を負いながらも。

 そこそこの身分の人々にも負けないほど、たくさんのことを教えてくださった。

 ぼろを身にまといながら、どうして、そこまでのことをご存知なのかは聞きません。

 もしかすると……本当の勇者なのですか?

 怒らないでください。

 少なくとも私だけは、そう信じていたいのです。

 この村の人たちが、どう思っていようと。

 今まで、私の命を守ってくださったのです。

 せめて、誇りだけは私に守らせてください。

 もう、いいじゃありませんか、放浪の旅はこの辺りで。

 まだ少しの間は、国境も平和でしょうから。 

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肉屋のオッサン危機一髪 3つの大冒険 兵藤晴佳 @hyoudo

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