そして聖女は魔女になり、勇者は魔王になりました

浅葱

魔王は勇者によって倒されました、めでたしめでたし……?

―魔王は勇者の剣に倒れました。

 勇者は国中から称えられ、王都に凱旋しました。

 その夜勇者一行は王城に招かれ、晩餐会に出席しました。その晩餐会で、勇者と聖女であった王女の婚約が発表されました。

 美男美女の組み合わせに、王侯貴族たちは二人を祝福しました。


 しかしその夜、勇者は魔族の生き残りに毒を盛られ、亡くなってしまったのです。

 魔族の生き残りは捕らえられ、処刑されました。

 けれど勇者は生き返りません。

 王女は深く悲しみ、それから一年間喪に服したのです。


 そして一年の喪が明けたその日、王女の婚約が発表されました。

 その相手は、勇者一行にいた剣士でした。

 国中が彼らの婚約を祝福したことは言うまでもありません。



 *  *



「……すげえ騒ぎだな」

「そりゃ元勇者一行の聖女サマと剣士サマの婚約が発表されたからね」

「あの野郎、やっぱあの王女サマを寝取ってたのかよー」

「ご愁傷さま~」

「うっせ、殺すぞ」

 王都に足を踏み入れた青年と女性は周りに聞こえないように呟いた。

 青年は死んだはずの勇者だった。

 嫌な予感がして、超強力な毒消しを事前に魔女から買い取り、晩餐会の前に飲んでおいたのだ。案の定勇者が乾杯の際に飲まされた酒には遅効性の毒が入っていた。晩餐会が終わって与えられた部屋に戻ってから効いてくるようにと、絶妙に調合された毒である。

 まさに勇者は危機一髪であった。

 勇者は晩餐会が終わる前に酔ったと言って部屋に戻り、窓から飛び出して王城を脱出した。

 そして毒消しを売ってくれた魔女の元に駆けた。何故その毒のことを知っていたかと言えば、魔女のところを訪ねた際そのことを魔女本人から聞かされたからである。


 魔女はかつてこの国の王女だった。王女は元々双子で、魔女は長女であった。

 そして聖女であった。

 だが双子の妹に禁術を使われて、妹の能力と交換されてしまった。魔女となってしまった彼女は王城を追われ、市井に潜伏して復讐の時を待っていた。

 顔を魔術で変え、腕の良い魔女が貧民街にいると噂を流し、まんまと勇者を引き寄せた。

 魔女の元には王の遣いがやってきて、強力な遅効性の毒を求めた。誰に使うとはもちろん言わず、魔女が売ったその日の夜に刺客を差し向けてきた徹底っぷりであった。

 魔女は最初からそんなことはお見通しであったから、刺客に幻術をかけて魔女が死んだように装い隠れた。

 魔女もまた危機一髪であった。

 そうして今日のこの日を元勇者と元聖女は待ち望んでいた。

「……そろそろ始めようか」

「そうね」

 二人は悪い笑みを浮かべる。


 そして――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

そして聖女は魔女になり、勇者は魔王になりました 浅葱 @asagi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画

同じコレクションの次の小説