第14話 十字架は避けたい所存

姫乃家で晩ごはんを食べ終わり、玲はダラダラと寛ぎながら花奈と彼女のお母さんでの世間話に巻き込まれていた。


「あら、じゃあ花奈と玲くんが話し始めたのはあの時からなのね」


「そうだよママ!玲くん教室では話しかけるなオーラを纏ってるから中々誰も話に行かないんだよ〜」


「今はそんな感じしないわよ?」


「玲くん、心さえ開いてしまえば後はもうただの優しい男の子になるから」


「なるほどね〜。玲くん、こんな娘だけど仲良くしてあげてね」


「は、はい……」


もう同意を求められれば「はい」と答えるだけの置き物となっている俺をよそに、2人はキャッキャウフフとお喋りは止まる気配を見せない。


その後もしばらく置き物としての役割を全うしていたが、突然置き物ライフは終わりを迎えた。


「あら、もう9時じゃない」


「ほんとに!?私、まだ6時だと思ってたよ……」


自分も時計を見ていなかったので、こんなに遅くになっているとは思っていなかった。


最後の方は置き物になっていたものの、やはり誰かとご飯を食べるというのは楽しく、そして幸せなものであるということを今深く実感している。


「玲くん、親御さんは怒ってないかしら?」


「えっと……、両親まだ帰ってないと思うので大丈夫だと思います」


「あら……、いつも親御さんが家に帰る時間は遅いの?」


「んー……父は単身赴任してますし、母が帰るのは日付変わるくらいの時間ですね。ただもう慣れたので大丈夫ですよ」


そういうと花奈のお母さんは少し顎に手を当てて考え込むそぶりを見せると、次の瞬間には顔を上げ、俺の両肩に手を置いて、


「……よし、決めたわ!玲くん、これから学校がある日の晩ごはんはうちで食べていきなさい!」


「さすがママだよ!やっぱり世界一!!」


「えっ……!?」


これから学校がある日は毎日花奈の家で晩ごはんを食べるだって?


心配をかけてしまったこと、迷惑をかけてしまうことに対する気後れもあるものの、それ以上に俺の精神が保つ気がしない。


また、万が一クラスメイトなどにバレようものなら、俺は十字架にかけられ、血祭りにあげられることは間違いないだろう。


俺はまだ死にたくないのである。


「いや、お誘いはありがたいですけど流石に申し訳ないです……」


「玲くん、料理ってのは多く作ればその分一人当たりの値段は安く済むのよ。しかも、あなたは娘の命の恩人なの……。だから、これくらいはさせて貰えないかしら?」


「うっ……。で、でも……」


「私からもお願い!私は玲くんとご飯食べたい……けど、玲くんはやっぱり嫌……?」


2人にグイグイと迫られ、先に折れてしまったのは俺だった。


我ながら己の意志の弱さに涙を禁じ得ない。


ただし、最大限の抵抗として俺も食費の一部を負担することになった。


俺は最初一食500円と言ったのだが、そんなにはかからない、などと言われ最終的に月3000円ということに落ち着いた。


これ以上は絶対に受け取らないということまで言われてしまい、ここが交渉での限界ラインであった。


軽い気持ちでご飯を食べにきたと思えば、今後もここに通い続けることが決まってしまった。


俺は自宅までの帰り道を花奈のお母さんに車で送ってもらいながら、どうしてこうなったんだ……、と自問自答を繰り返していた。


しかし、その答えが出ることはなかった。

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襲われていた同級生を助けたら懐かれてしまった。知らんけど俺も懐いてしまった… ごま塩アザラシ @zeo_19390503

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