第13話 接待ハンバーグ

「お、お邪魔しまーす……」


「神森くん、いらっしゃいませ!!いや、ようこそいらっしゃいました!!」


突然姫乃家で晩飯をご相伴に預かることが決まり、あれやこれやという間に買い物を終え、気がつけば俺は姫乃さん宅へと足を踏み入れていた。


俺の家から徒歩の場合だと20分くらいかかるくらいの距離であろうか。


思っていた以上に近いところに住んでいたことが判明し、少し驚いてもいた。


とまぁそんなわけでやってきた姫乃さん宅、庭まで付いた少し大きめな一軒家とでも言えば伝わるだろうか。


玄関も広く、入った瞬間に裕福なことを伺えるようなオシャレな内装が目に入る。


うちは父がそこそこ有名な商社で海外に単身赴任中、母が婦人服のアパレルブランドの店長であり、2人とも仕事第一でバリバリ働いているということで、裕福というカテゴリに分類されると思う。


そのため家は高級感が漂うタワマンの一室であるのだが、そんな金持ちの家特有の匂いのようなものをなんとなく感じ取ることができた。


なんというかゴールデンレトリバー飼ってそう(小並感)。


「脱いだお靴はこちらでございます〜」


「どうぞ、スリッパでござりまする!懐で温めておきましたので!!」


「ささ、どうぞこちらに!好きなチャンネルをおかけくださいませ!」


「粗茶ですが……、ごゆるりとお寛ぎくだされ!」


謎のテンションで俺をもてなす姫乃さんのされるがままになりつつ、気がつくと俺はソファで茶をシバきながらテレビを見ていた。


一体何が起こったんだってばよ……。


普段俺は家でテレビを見ないので、たまに見るバラエティ番組は面白いなぁなんて思いながらテレビを観ながらしばらく待つ。


すると部屋中に肉が焼ける香ばしく、食欲をそそられる香り広がってきた。


「神森様、本日の晩餐はシェフの気まぐれ手捏ねハンバーグでございます」


いつの間にか可愛らしいエプロンを付けた姫乃さん、彼女は俺の目の前まで来るとお辞儀をすると、次々とお皿を運んでくる。


俺も手伝おうと立ち上がったのだが、


「お客様にそんなことをさせるわけには!」


などと必死の抵抗を受けてしまい、俺は手伝うことを早々に諦めた。


せめてもの抵抗として姫乃さんが運んできたお皿、それを皆んなの席に配っていく。


全てのメニューが運んで来られたので、俺と姫乃さんとお母さんの3人揃って手を合わせてご飯を食べ始める。


「「「頂きます」」」


今日のメニューはハンバーグ、付け合わせのサラダ、ポトフ、ご飯、そしてデザートにシュークリームがあるそうだ。


店で会った時に好きなメニューを聞かれ、ハンバーグと俺が答えたためにこのメニューである。


とりあえず先ずはハンバーグを一口食べてみる。


「うまい!!」


箸を入れた途端に溢れ出る肉汁、そして噛んだ瞬間に口の中に広がる旨み、全てが調和した真の美食が今俺の目の前にあった。


「姫乃さん、美味しいよこれ!」


「ほんとっ!?良かったぁ〜」


「あら、神森くんに喜んでもらえて良かったわね、花奈。だけど神森くん、私も姫乃さんだから娘のことは花奈って呼んであげてくれないかしら?」


「え、えっと……」


名前呼び、特にそれが異性に向けてのものであればかなり心理的ハードルは高いものとなる。


しかし、現在お世話になっている大人の人のお願いを無碍にするのも心苦しく、俺は助けを求めて姫乃さんの方を見る。


「じゃあ私は玲くんって呼ぶね!」


満面の笑みでサムズアップしながらこっちを見つめる姫乃さん。


すみません、降参です……。


「分かったよ……、は、花奈……?」


「はい!花奈です!!改めてよろしくね、玲くん」


「うん……」


俺は赤くなっているであろう顔を隠すために俯くも、視界の端で花奈のお母さんがニヤニヤしているのが見えてしまう。


穴があったら入りたい……。


そして今の玲では見えない花奈はというと、玲に負けず劣らずのレベルで赤面していたのだが、これは玲の知らない話である。

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