船長・危機一髪
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第1話
波に揺られてゆらゆらと、お宝目指してヨーソロー♪
あたしたちゃ自由な海賊さ! 邪魔するヤツは容赦しねえ♪
「――はいもう一度。ヨーソロ~~~~♪ …………じゃねえっつうの!!」
海賊子分のひげもじゃが、日に照らされた砂浜に向かって剣を叩きつけた。
「まあまあ、落ち着けよ兄弟」
「落ち着けるかあ!! あの女船長ときたら朝から晩までこきつかいやがって! ちょっと可愛くて腕が立つからつっても限度があらぁ!!!」
一緒に武器や道具を整理していた愛称・パンチパーマの子分がなだめても、ひげもじゃのイラツキは収まらなかった。その怒りの大半は三日三晩に渡る雑用を押し付けられたことに対するものであり、命じた女船長に対するムカムカでもあった。
「くっそー、このうっぷんを晴らさねえと作業もできねえぜ」
「そんな理由でサボってるとお頭にどやされるだけじゃ済まないよ」
「うっせえわい!! おい、なんかストレス解消になるいいもんとかねえか!」
「頭に直談判でもするかい?」
「俺の頭が吹っ飛ぶわ!?」
「ちがいない」
変なところで小心者のひげもじゃだったが、そんな彼をパンチパーマは嫌いではなかった。どうせなら何か知恵を貸してやりたいところですらある。
「ああ、そういえばこの間の宴会で小耳に挟んだストレス発散法があるけど、やってみるかい?」
「おお、やるぜやるぜ!」
「じゃあちょっと時間をおくれ」
そう言ったパンチパーマは、何やら道具をあさってトンテンカンテンやり始める。手先が器用な彼が作業することしばし。
「じゃーん!」
出てきたのはいくつもの穴が空いた樽だった。
「ああん? 酒でも飲むのか?」
「こいつはちょっとした仕掛けがある樽だよ。いくつか穴が空いてるだろ? ココに剣を刺す……と」
びょーーーん!!
樽の中から上空に向かって人間大の人形が飛び出す。
「おお!?」
初めて見る仕掛けにひげもじゃは目を見開いた。
飛びだした人形はそのまま頭から砂浜に落ちて垂直気味に突き刺さる。
ひげもじゃが人形を砂から抜くと、あることに気づいた。
「こりゃお頭か?」
「そうだよ兄弟。この仕掛けを思いついた連中はさ、あんたのようにお頭にイラついてた奴らでさ。こんな感じで人形を船長に見立てて、あっちこっちにぶっ飛ばして遊んでだんだとさ」
「なるほど! つまり、この人形をお頭に見立てて天井に頭をぶつけたり、海にぶっ放して本人を痛い目にあわせる想像で楽しむわけだな!!」
「そうそう」
「よっしゃ、そうと決まれば使わせてもらうぜ。げへへへ、覚悟しろよお頭さんよぉ!!」
人形を樽の中に突っ込んだひげもじゃが、適当な穴に剣を刺す。すると三回目でポーーーーンと人形がぶっ飛び、近くの岩に頭をぶつけた。
「がっはっはっは! こいつはいいぜ、どうだお頭いてぇかああん!?」
「うんうん楽しんでくれて何よりだよ」
いてぇのは兄弟の頭の中身だろ。などと思っても口にしないのがデリカシーのあるパンチパーマである。
そのあとも無邪気に遊ぶひげもじゃを見守ることしばし。そろそろ仕事に戻るかなと考え始めた矢先のこと。
――ソレは来た。
「どうだどうだお頭め! 情けなくぶっ飛びやがって、どうだ参ったか! 謝れば助けてやらんでもねえぞ!」
ひげもじゃに近づく人影。
背後から接近する誰かに、彼は気づけない。
「あ、あわわわわ」
代わりに、その誰かに気づいているパンチパーマが体を震わせていた。
「そろそろ勘弁してやるか。いやでももう一回だけ……」
「ふーん? 何を勘弁してやるって? ところで勘違いなら困るから確認するが、そのあんたが弄んでるのは誰だい?」
「何言ってんだ、そりゃもちろんおかし――らぶぅん!?」
どこから取り出したのかもわからない大きさの、バーバリアンが振り回すような棍棒がひげもじゃの脳天に直撃した。そのまま首元まで砂浜に体が沈み、がくりと首が項垂れる。
「はッ! 今回はこれぐらいで勘弁してやるよ、次はないけどね」
吐き捨てる女船長は可愛い少女の癖にドス効いてて怖い。
その泣く子も黙るお頭の視線が、パンチパーマの子分に向けられた。
「仕事さぼって何をしてたんだい? 正直に言ってごらん」
「えーと」
パンチパーマの脳裏に正直に言った場合のシミュレーションが高速で流れた。
『お頭をぶっ飛ばしてゲラゲラ笑ってました」と言ったとしよう。次の瞬間、ホームランされて星になる自分がいた。
――うん、死ぬ。
そんな未来が嫌なパンチパーマは言い逃れを開始する。
この時の口調は大変スムーズであり、どもりもつっかえもなかった。
「お頭、こいつは巷で流行ってる遊びに必要な道具ですよ。樽の中に入れた人形を飛ばして遊ぶんです」
「へえ? ギャンブルにでも使うのかい? まさかとは思うけど、むかついた船長を樽からぶっ飛ばしてうっぷんを晴らすとかじゃないよねぇ」
完全に見切られている。
そうは思いつつも、命が惜しいパンチパーマは言い逃れを続けた。
「とんでもない。むしろコレは尊敬する船長を助ける名目の遊びですよ。つかまって樽の中に入れられた船長を縛る縄を、この穴に剣を刺すことで切って助けるんです」
「…………」
「…………」
両者の間に沈黙が流れる。
さすがに苦しいか!? パンチパーマは気が気でなかったが、顔はにっこり笑顔を保っていた。
「ふふっ、そいつぁ面白い遊びだね。巷で流行ってるならどっかに売り込むのもいいかもしれないって話かい?」
「そのとおりです!!」
パンチパーマの面の皮は厚かった。
女船長もまんざらでもなさそうである。
「商品名は何にするんだい?」
「へえ、そりゃもちろん愛すべき船長のピンチを救うところから取ってきまして――」
適当に理由をつけた商品名をパンチパーマが口にする。
後日。
流れた噂によるとその商品は、
けっこう売れたらしい。
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