初めての感謝……

遠藤みりん

初めての感謝……

 都会のビルが建ち並ぶ真夜中の路地。眩いばかりにネオンは輝いている。

 私は颯爽と肩で風を切り夜の街を歩いていた。


 1人の男が私に声を掛けてくる……


「ねぇお姉さん、これから何処へ行くの?」


 軟派だ……この街ではよくある事だ。私は声には反応せずに道を歩いていく。


「ねぇ時間ある?良かったら一緒に飲まない?」


 男はしつこく跡を着いてくる。私は振り向きもせずに道を歩いていく。


「ねぇ待ってよ?俺、いい店知ってるんだ」


 3度も話し掛けてくるなんてしつこい男だ……私は歩くスピードを上げ、道を歩いていく。


「ねぇねぇ……髪の綺麗なお姉さん……」


 男の言葉に気分を害した……


 何故なら私の地毛は、元々茶色い。この髪の毛のせいで学生時代は、散々苦労したものだ……


 中学生の頃、先生に黒く染めて来いと言われ、少しでも地毛が見えようものならスプレーで染められた。


 また、高校生の頃は素行が悪い先輩に目を付けられて髪を引っ張られもした。


 私の唯一のコンプレックス……


 苦い記憶が次から次へと思い出される……


 私は禁句を口にした男になにか言ってやろうと急に振り返った。


“ドス”


 振り返った瞬間、背後に鈍い音が響く。私は驚き、背後を見渡した。

 地面にはビルから飛び降りたであろう女性が血を流して倒れている。


 飛び降り自殺だ……


 私の背中には、飛び降りた女性の髪の毛が触れたような感触さえ残っている。


 文字通り、危機一髪だった……


 男は驚きの余り、腰が抜けてしまっている。

 私が男になにか言おうと振り返らなければ確実に私の上に落ちていた……


 私は初めてこの唯一のコンプレックスに感謝した。

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初めての感謝…… 遠藤みりん @endomirin

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