第33話 呼び込み

     ※


 昼食の後。

 暖かい陽気の中を俺と莉愛は歩いていた。

 食後の散歩というわけではなくて、この近くに次の目的地があるからだ。


「ぁ……」


 と、歩いている途中、少し驚いたように思わず莉愛が声を漏らした。

 その視線の先には、ふくろうを手首に載せたお姉さんが立っている。


「街中で見ると驚くよな」


「うん……ねえ、大希、もしかして今向かってるのって……?」


 察しがいい。

 いや、流石にこれだけ目立つものがあれば気付くか。


「ああ、梟カフェが近くにあるんだ」


「そうなんだ。

 私……初めてなんだけど……大希は行ったことあるの?」


 莉愛は少しだけ緊張した面持ちだ。


「いや……実は俺も初めてで……でも行ってみたかったんだよな」

 もしかして、苦手だったか?」


「ううん。

 私も興味あったから……ちょっとドキドキしてるけど……楽しみ」


 莉愛は優しい顔で笑った。

 俺を気遣ってというのもあると思うが、やはり可愛いもの好きなのだろう。


「あの~すみません。

 そちらのお二人様、カップルさんですよね?」


 話しながら歩いていた俺たちに、梟カフェの店員さんが話し掛けてきた。

「カップル……」


 頬を赤くして、呟くように莉愛が口にする。

 微かに口元が緩んでいるのは、俺たちがちゃんとカップルに見えたことが嬉しかったのかもしれない。

 そんな莉愛を見て店員は愛嬌のある笑みを浮かべる。


「あ、やっぱりカップルさんですよね

 ちょっと初々しい感じですけど、不思議なくらいお似合いだから、そうじゃないかなぁ~って思ったんですよ」


 呼び込みをやるくらいだから、どうやら口も上手いらしい。

 だがお似合いと言われるのは当然悪い気はしない。


「お姉さん、そこの梟カフェの人ですよね?」


「あ、わかっちゃいました?

 って、そりゃわかっちゃいますよね~この子を連れてるわけですから」


 自分の腕に載った梟を見せるように僅かに腕を上げる。

 すると、莉愛が梟を見て目を輝かせた。

 そんな彼女の反応を見てか梟が笑った気がする。


「……可愛い」


「意外と、感情豊かなんだな」


 店員さんの愛嬌のある笑みが、さらにニコニコとした顔に変わった。

 俺たちが梟の可愛さに胸を掴まれたと確信したのかもしれない。


「てなわけで――こちら、よろしければどうぞ~」


 言って手渡して来たのは、梟カフェのサービス券だった。

 今から向かうところだったのでありがたい。


「ドリンクいっぱいサービスになりますので」


「ありがとうございます」


 お礼を伝える俺を見て、莉愛も会釈をした。


「いえいえ~是非、楽しんで行ってくださいね。

 それで梟の魅力たっぷり感じてあげてください」


 店員さんが俺たちに手を振る。

 彼女の手首に乗っている梟が、小さく羽を振って俺たちを見送ってくれていた。

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