第27話 相談

     ※


 部屋で一人になってから、ゆっくりとデートのプランをまとめてみた。

 だが、どれも決め手に欠けているというか……無難過ぎる気がしてしまう。


(……本当にこれで莉愛を楽しませられるか?)


 その日を最高の一日にしたい。

 だからこそ、あれやこれやと深く考え込んでしまう。


(……水月さんに相談してみるか?)


 ふと、そんな考えが浮かんだ。

 莉愛の親友である彼女なら、色々とアドバイスしてくれるかもしれない。


(……このまま一人で悩んでても仕方ないよな)


 俺は思い切って、水月さんに連絡を送ってみることにした。


『ちょっと、相談があるんだけど時間作れる?』 


 メッセージを送ると、五分もせずに既読が付いた。


『ごめん。

 返信遅くなった。

 今、帰ってきたところ』


 そして返信が届く。

 休日ということもあって、水月さんは外出していたようだ。

 そんな中で、こんなに早く返信を貰えるのはありがい。


『相談ってことは、電話のほうがいい?』


 続けて連絡がきた。

 メッセージのほうが考えを整理して話せる気もするが、文字を打つ手間も考えると、電話で話せたほうがお互い楽かもしれない。


『時間を作って貰えそうなら電話でもいいか?』


『オッケ~』


 そして、水月さんからのコールが入った。


「もしもし」


「お待たせ。

 それで大希くん……お姉さんに相談があるそうだけど莉愛のことでしょ?」


 どうやら見抜かれていたようだ。

 俺が水月さんに連絡する理由なんて限られているのだから当然か。

 だが、


「お姉さんって……」


「少なくとも恋愛素人の大希くんに比べたら、お姉さんだから」


 それを言われたら何も言い返せない。

 今からしようと思っているのは、その恋愛絡みの相談なのだから。


「水月さんの想像通りだ。

 莉愛のことで相談があるんだけど……」


「あたしに相談するってことは、莉愛には聞けないことなの?」


「聞けないっていうか……サプライズにしたいというか……」


「サプライズ?」


 水月さんに聞き返されて、今回の相談に関する詳細を簡単に伝えた。

 そして俺が話を終えると、


「へぇ~、莉愛の為に色々と考えてるんだね」


 水月さんは嬉しそうに声を弾ませた。


「それでこのデートプランが莉愛の好みに合ってるかを知りたいの?」


「ああ。

 休日に二人で過ごす初めてのデートだから……莉愛にとって最高のデートにしたいっていうか……とにかく、喜んでほしいんだ」


「ふ~ん……なんか、いいな」


「デートプラン、悪くなかった?」


「そうじゃなくて、莉愛、すっごく愛されてるなって」


「そ、そう……か」


 思わず動揺してしまったのは、愛なんて言葉が出てくると思わなかったから。

 でも、率直な意見を言ってくれたからこそ、俺の真剣な想いを水月さんは汲んでくれたことがわかった。


「照れなくていいじゃん。

 相手のことをしっかり思える人って、素敵だよ」


「恋人なんだし……当然だろ?」


「当然であってもほしいけど……ただ女とヤりたいだけの男もいるからさ」


「……な、なるほど」


 ――って、我ながらなんだその返事は!?

 女子にこういう話を振られて戸惑ってしまうのは、俺の恋愛経験の少なさ故か……だが、そういった話に慣れている自分が想像できない。


「だから真剣に相手のことを思って、デート一つでこんなに一生懸命考えてくれる大希くんは、素敵な人だなって思ったの。

 やっぱり、莉愛って見る目あるね――流石はあたしの親友」


「俺は……そこまで大した人間じゃないと思うけど」


 あまりにも素直な想いを口にされて、なんだか戸惑ってしまう。


「あ、卑屈なのはよくないな~。

 莉愛の彼氏として、恥ずかしくない人でいてよね」


「それは……努力する」


「それならよし」


 電話越しではあるけど、水月さんの優しい笑顔が見えた気がした。


「それで……相談されたことだけど……」


「ああ、もし莉愛の好みにあってないようなら教えてほしい」


「その前にさ、逆に質問してい?」


「うん?」


「もし大希くんの為に、莉愛が一生懸命デートプランを考えてくれたとして……それが君の好みと違っていたら、楽しめない?」


「そんなわけない。

 莉愛が俺の為に考えてくれたなら――」


 そう答えた時には、水月さんが俺に何を伝えようとしたのかがわかった。


「今、大希くんが言ったことと一緒で、莉愛も同じ気持ちだと思うけどな」


「……そう、だな」


「うん。

 あのね……莉愛って大希くんが思っている以上に、キミのことが大好きなの」


「ぇ……?」


「だから莉愛のこと、もっと信じてあげてよ?

 もちろん、一生懸命で考えすぎちゃったところはあると思うよ。

 でも、ちょっとくらい好みと違っててもさ、大希くんがいてくれるなら莉愛はきっとなんだって楽しめちゃうんだから」


 水月さんは優しく言ってくれたけど、この短い会話の中でも反省しなくちゃいけないことが沢山見えてきた。

 莉愛のことをしかり考えているようで、でも……俺は本当は、莉愛をがっかりさせてしまったら……それが怖かったのかもしれない。


「ごちゃごちゃ言っちゃったけど、気負い過ぎなくていいってこと」


「ありがとう、水月さん。

 お陰で気持ちが軽くなった」


「ううん。

 こんなことでいいなら、いつでも相談してよ。

 あ、でも……」


 言いづらいことだったのか、水月さんは言葉を止める。


「どうしたんだ?」


「あたしに頼りすぎると、莉愛が嫉妬しちゃうかも?」


「うん……? どういう意味だ?」


 急に水月さんは何を言っているのだろうか?


「……はぁ……あのね大希くん、あたしも女の子なんだよ?

 いくら親友同士でも、恋愛絡みじゃ不安になってもおかしくないの」


「そう、なの?」


「そうなの。

 万が一ってことも、あるかもしれないでしょ?」


「ないな」


「ちょっ……!? そんな即答されると、流石に傷付くんですけど!」


「あ、いや……すまん。

 水月さんはすごく可愛いと思うけど……その……さっきの話に戻るけどさ。

 俺も莉愛のことが本気で好きなんだ。

 水月さんが思ってるよりも、ずっと」


「っ――あ~そうですか。

 それはあたしが、大希くんを侮ってました。

 でも……あたしに相談したことは、ちゃんと莉愛に伝えてよね」


「わかった。

 本当に、色々とありがとう。

 相談してよかった」


 そう約束して俺たちは電話を切った。

 そして俺は再度デートプランを見直した。

 今度はもっと自分らしく、莉愛と一緒に楽しめるような飾らない一日にする為に。

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