第26話 デートプラン

 翌日。

 俺は次のデートのことで、頭がいっぱいになっていた。

 今度は二人きりのデートだ。

 今回は正真正銘、恋人同士になってからの初めてのデートだと言っていいと思う。


(……だからこそ、どんなプランにするべきか)


 莉愛は見たい映画とかあるかな?

 どこかおしゃれな飲食店を探さないと、だよな?

 学生でも楽しめるカジュアルな店があるといいんだけど……。


(……一度、莉愛に行きたい場所を聞いたほうがいいか?)


 でも、それだとサプライズ感がなくなってしまう。

 初めてのデートなのだから、莉愛に楽しんでもらえるように、喜んでもらえるようなデートプランを考えたい。

 でも、あまりにも好みに外れたデートなったら面白くなくなってしまうかも。


「うあああああああああ~~~」


 思考がループしていた。

 莉愛が好きな物を混ぜつつ、二人の思い出に残るような一日にしたい。


「あーちゃん、見て。

 あれが恋に悩む青春真っ盛りの学生の姿よ」


「デートに誘おうとして誘えないみたいな感じなのかな?」


「――っ!?」


 扉の隙間から、騒がしい母妹おやこが俺の様子を見つめていた。


「あのな二人とも、マナーとかプライベートって言葉を知ってるか!?

 家族とはいえ、高校生男子の部屋を覗き見るなっ!」


 俺に見つかったことがバレると、逃げようともせずに堂々と部屋に入ってきた。


「そんなこと言うなら、鍵を掛けておけばいいじゃんね~?」


「ね~?」


「確かに鍵は掛けてなかったが、せめてノックくらいはしてくれ」


 というか、これからは絶対に鍵を掛けよう。


「だーちゃん、お母さんにノックは不要なんだよ」


「そうだよ。

 妹は兄貴の部屋をノックしなくていいって決まってるんだから」


「それはどこの世界のルールなんだ!?」


 めちゃくちゃ過ぎるだろこの母妹おやこ!?

 基本的にうちの家は女が強く俺は押され気味だ。

 父さんは家族に対して平等で、家族の喧嘩にもあまり口を出すことはない。

 でも、そんな父さんが、もし誰かの味方をするなら間違いなく母さんだろう。

 息子である俺の目から見ても相当な愛妻家で、物心付く頃には二つの約束をさせられていることがあった。


 一つ目が、


『いいか、大希――女に手を出すような男にだけはなるな。

 それは最低のクズ野郎がすることだ』


 そして二つ目が、


『それとな大希……母さんのことは泣かすんじゃねえぞ。

 漢と男の約束だ』


 これが父さんと交わした約束。

 だから、俺にとってはそれが当たり前で、こんな考え方はもう古いかもしれないけど、男は女を守るものだって考えが根付いている。


(……でも、今なら父さんの気持ちがわかるかもしれない)


 本当に好きな人ができるってことは、その人と恋人になって家族になるってことは、その人を守って、笑わせ続けるってことだと思うから。


 まあ、父さんとの約束は抜きにしても、母さんや妹を悲しませるようなことをするつもりはない。


(……が――それと自身の恋愛事情を打ち明けるのは話が別だ)


 家族間にも当然プライバシーはあるのだから。


「今は考えたいことがあるからさっさと出て行ってくれ」


「だーちゃん、遠慮しなくていいのよ?」


「そうだよ兄貴。

 なんの為にあたしたちがここに来たと思ってるの?」


 邪魔しにだろ? と、即答しそうになる衝動をなんとか抑える。

 二人は応援のつもりだろう。


「ゆーちゃんが相談に乗ってあげる。

 これでも恋愛のスペシャリストなんだから!」


「女の子が好きなものとか知らないでしょ?

 だから相談に乗ってあげる」


 確かに一理あるが、 


「杏子はともかく……母さんに相談する意味、あるか?」


「ひっどおおおおぉぉい! なんでそんなこと言うの!?

 ゆーちゃんのこと、おばさんで役立たずとか思ってるでしょ!」


「誰もそんなこと言ってないだろ!

 学生の杏子なら今時の流行りも知ってそうだって話だ」


 年齢的にはおばさんだろ……と言うと、泣き出しそうなので黙っておく。


「とにかく、息子の恋愛の話に絡んで来ようとするな!

 ほら、二人とももう出ていってくれ!」


 背中を押して二人を部屋から追い出しいてく。


「心配してるだけじゃない。

 あ~~~~だーちゃんのイジワル~~~~~!」


「莉愛ちゃんのこと泣かしたら許さないからね!」


「気持ちだけ受け取っておくよ」


 それだけ伝えて、俺は部屋の鍵を掛けたのだった。

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