第28話 許してあげる代わりに

     ※


「……土曜日、楽しみにしてるから」


 月曜日。

 屋上で莉愛とお昼を食べている時にデートの約束をした。

 それと合わせて、水月さんに相談したことも伝えると、


美彩みさに……?」


 莉愛の表情が少しだけ変化した。

 こちらを窺うような複雑な顔で俺を見ている。


「ああ、そうしたら自分に相談したことを莉愛に伝えろって言われてさ」


「……そっか」


「サプライズにしたかったんだ。

 でも……莉愛の好みを知りたくて……それで……」


「私の為……だったってこと、だよね?」


 莉愛の言葉には少し不安が混じっている気がする。


「考えなし過ぎたって反省してる」


「ほんと?」


「ああ。

 逆の立場で考えたら……イヤだって思う。

 というか、最悪な気持ちになるかも」


 もし莉愛が俺の為とはいえ、他の男にデートプランの相談なんてしたら……当然、いい気持ちはしない。

 莉愛をそんな気持ちにさせてしまったことに気付けた。


「……じゃあ、許す。

 でも……許してあげる代わりに……」


 莉愛が両手を広げた。

 何かを待っているような素振りを見せている。


「うん?」


「わかんない?」


「わかんない……って、もしかして……」


「ハグして」


 上目遣いを俺に向けながら、思わずきゅんとしてしまうような可愛らしい声音で莉愛が俺に甘えてきた。


「ぁ……ぇ……」


「してくれないなら、許さない……かも」


「交渉上手だな」


 本当は、こんなことしなくても莉愛は俺を許してくれると思う。

 それがわかっているからこそ、こんな風に甘えてくる莉愛が余計に愛おしく見えてしまって――俺は自然と莉愛を抱きしめていた。


 彼女の体温と、柔らかな感触に胸の鼓動が早くなる。

 同時に莉愛の胸の鼓動も感じた。

 莉愛にも俺の鼓動が伝わっているのだろうか。

 そんなことを思いながらも、出来る限り優しく、莉愛を抱きしめた。

 強く抱きしめすぎて、莉愛を壊してしまわないように。


「……もっと、強くして」


「だけど……」


「もっと大希を感じたいの。

 だから……もっとぎゅってして……」


 俺の胸の中で、莉愛は甘えるように囁いた。


「でも……」


「大丈夫だから。

 私……そのくらいじゃ、壊れたりしないよ」


 甘く囁きながら、莉愛が腕に力を込める。

 自分のことも強く抱きしめてと促すみたいに。


「わかった。

 でも、痛かったら言ってくれよ」


「ん……」


 もっと互いの温もりを感じられるように、俺も莉愛を強く抱きしめた。

 ドキドキと、早鐘を打つような二つの音が重なっていく。

 莉愛の顔は見えない。

 でも、耳が赤くなっているのがわかった。

 多分、顔も真っ赤になっている。


(……これじゃ何も反省になってないな)


 二人で過ごす幸せな時間。

 こんな時間がずっと続きますようにと願いながら、もう少しの間……俺たちは抱き締め合っていた。


 そして気付けば昼休みも終わってしまったのに、食べかけのお弁当が残っていたのだった。

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