第24話 あの時の、ありがとうを今

     ※


「これが……私と大希さんとの出会いです」


 莉愛が話を終えた。

 その日のことは俺も覚えている。

 だけど、あの時の女の子が莉愛だとは思わなかった。

 彼女の泣き顔を見ないようにしていたというのもあるけど、髪の長さもメイクも変わっていたから。


「大希……」


 俺に向き直り、莉愛は目を見つめる。


「あの時……ありがとうって伝えれなかったら、今……伝えてもいい?」


「ぇ……お礼なんて、別に……」


「私が言いたいの。

 だから……ありがとう、大希。

 あの時、助けてくれて本当に嬉しかった」


「莉愛……」


「あの時からずっと……私はあなたのことが好き、でした」


 俺の家族が見ている前で言うなんて、流石は莉愛だと思ったけど……でも、それだけ彼女の真剣な想いが伝わってきた。


「ありがとう、莉愛」


 キミが勇気を出してくれたから、今こうして一緒にいられる。

 もっと感謝の言葉を伝えたいけど、俺にはこれ以上、この場では口にできなかった。


「ぅ……う~~~~~~なんていい話なの~~~~~~~流石はだーちゃん!

 いい男っぷりだったよおおおお」


「ぐすっ……ぐすっ……莉愛さんも、がんばったんですね……うぅ……」


 突然、泣き始める母妹おやこ


「なんで二人が泣いてるんだ?」


「……だって、だって……莉愛ちゃんがいい子過ぎて……それに、辛かったろうなって。 本当に、本当に、勇気、出したんだねぇ……」


「そうだよぉ……お兄ちゃんには、莉愛さんの繊細な気持ちがわからないの?

 女の子が一歩踏み出すのは、本当に勇気がいることなんだから!」


 なんか俺、責められる流れになってない!?


「莉愛ちゃん……ううん、これからはりーちゃんって呼んでもいいかしら?」


「あたしも……莉愛お姉ちゃんって呼んでもいい?」


「はい。

 そうしてくれたら、私も嬉しいです」


 その返事に母妹ふたりは席から立ち上がり、


「兄貴、邪魔」


 俺を吹っ飛ばして、莉愛を挟むように抱き締めた。


「おいおいおい! 邪魔はひどいだろ邪魔は!

 それに、馴れ馴れしすぎるだろ! これじゃ莉愛も迷惑じゃ……」


 と、彼女に目配せすると、莉愛は困った顔で微笑んだ。


「ううん、迷惑じゃないよ。

 でも……うん、今のままじゃ大希は仲間外れになっちゃうもんね」


 気にするところはそこなのか?

 なんて疑問に思っていると、


「大希も……くる?」


 莉愛が俺に手を向けた。


「い、いや……流石に……遠慮しておく」


 正直、母妹ふたりがいなければ……莉愛を抱き締めたいなんて……思わないこともなかったというか。

 すみません、正直に言うと抱き締めたかったのだけど、余計なプライドが邪魔をしてしまった。


     ※


 和やかな雰囲気のまま時間は過ぎて……時間は夕方になっていた。

 莉愛も含め夕飯も一緒にという話になったが、流石に帰りが遅くなってしまう心配もあったので、初めての自宅デートはここでお開きとなった。


(……本当は部屋で莉愛と二人きり……なんていうのも考えていたんだけどな)


 でも……今日は莉愛のことをもっと知ることができから大満足の休日だった。

 母妹ふたりとも、仲良くなってくれたしな。


「じゃあ、俺は莉愛を送っていくから」


「は~い、気を付けてね」


「お邪魔しました。

 本当によくしていただいて、ありがとうございます」


「また遊びにきてよね。

 あと……今度、遊び誘ってもいい?

 莉愛お姉ちゃんセンスいから、服とか見てほしいなって……」


 最初に出会った時の敵意が嘘のように、杏子あんずは莉愛に懐いていた。


「うん。

 いつでもいいよ。

 また連絡するから」


 莉愛の快い返事は、杏子の顔はぱっと輝いた。


「だーちゃん、りーちゃん……まだ付き合い始めだから色々とあると思うけど……ゆーちゃんにはわかっちゃった。

 二人はきっと……将来結婚して、いい家庭を築けるって思うよ」


「母さん……」


 未来の話過ぎるだろ……流石に重くないか?

 そう思いながら莉愛に目を向けると、


「私はそうなれると思ってます!」


「莉愛!?」


「ふふっ……将来が楽しみになっちゃったなぁ~。

 あ、でも……今はちゃんと清いお付き合いをしないとダメよ。

 それでももし……ど~~~しても、そういうことするなら……ちゃんと避妊はしないとダメよ」


「はい」


 莉愛は母さんから目を逸らすことなく、素直に頷く。

 それは母さんの顔が真剣だったからだろう。

 真剣に付き合っているからこそ、当然大切な話だと思う。


「……うん、いいお返事!

 だーちゃんもわかってるよね?

 ちゃんとりーちゃんを守るのよ」


「ああ。

 ……それじゃあ、そろそろ行くよ」


 玄関を開く。


「お邪魔しました」


 莉愛は会釈をしてから、家を出たのだった。

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