第16話 突然の告白

     ※


 廊下を走りながら、七海さんに電話する。


(……出ないか?)


 諦めかけた時、コール音が止まった。

 突然、繋がった電話に一瞬困惑して直ぐに声が出なかった。


「……七み――莉愛?」


「ぁ…は、はい……」


 スマホ越しに聞こえる七海さんの声は、いつもよりも緊張しているみたいだった。

 多分、それは俺も同じだったろう。


「……今、どこにいるんだ?」


「……昇降口を出て、直ぐのところに……」


 どうやら、まだ学校にいてくれたようだ。


「直ぐに行くから待っててくれ、約束だぞ」


 返事はまたずに、俺は電話を切った。

 そして急ぎ下駄箱で口を履き昇降口を出ると、直ぐに七海さんの姿が見えた。

 彼女の傍に駆け寄って、目の前で足を止める。


「「……」」


 互いに目が合う。

 言葉が上手く出てこない。

 でも、今は七海さんがここで待っていてくれたことが嬉しかった。


「……莉愛」


「は、はい……」


「帰ろうか」


「……ぁ……うん」


 互いに、自然と微笑みが浮かんでいた。

 そして俺たちは互いに並んで歩き出した。


「……あの……大希……さっきは避けるみたいになっちゃって……ごめんなさい」


「どうしたのかとは思ったけど、気にしてないよ。

 こうしてまた、莉愛と話せてるならそれでいい」


「……ありがと。

 やっぱり、大希は優しいんだね」


「普通だよ。

 もし俺を優しいと思うなら、そう思ってくれる莉愛のほうが優しいんだ」


 きっと俺を避けるような素振りを取ってしまって、ずっと気にしていたのだろう。

 でも、どう答えたらいいかわからなくなってしまって、戸惑って悩んでいた。


「あと……さ、水月さんから聞いたんだけど……」


「ぁ……そ、それ……話す?」


「一応、話しておいたほうがいいと思ったんだが……」


「……わ、私が処……だって、聞いたん……でしょ?」


 そう口にした七海さんは、耳まで真っ赤になっていた。

 声だけで、しおらしさが伝わってくる。

 だが、


「い、いや、そっちじゃなくて!」


 慌てて否定した。

 まさか七海さんの口から、そんな言葉が出てくるなんて思ってもいなかったから。


(……あれ? もしかして、七海さんが気にしてたのは、そっちの話なのか?)


 いや、でも友達経由で男にそんなこと知られてたら、普通は恥ずかしいに決まってる。 

「え……っ……違うの? じゃ、じゃあ……なんの、話?」


「あ~……いや、俺が莉愛を好きだって……水月さんが言ってたんだろ?」


「そ、そっち……なの?」


 そっちなんだ――とは言わず、俺は頷くだけに留めた。


「わ、わかってる……から、美彩みさが勝手に言ってるだけだって……だから、気にしてないから……」


「いや、気にしてもらわないと困る」


「ぇ……」


 思わず漏れてしまった、そんな声だった。

 七海さんの足が止まり呆気に取られるみたいに目を丸める。


「莉愛……好きだ。俺と付き合ってくれ」


「え? ぁ……は、い?」


 今の返事は……OKなのだろうか?

 突然の告白だった為、状況が理解できないのかもしれない。


「……ダメか?」


「ち、違くて、ダメじゃ、なくて……


 俺を見る莉愛の瞳は熱っぽくなり、頬は徐々に赤みを帯びてくる。


「ちゃんと話すようになって……数日だけどさ、いい加減な気持ちじゃない。

 必ず大切にする、だから……付き合ってほしい」


 もう一度、今度は誤魔化しようもないくらいはっきりと、想いを伝える。

 すると莉愛は、意を決したような必死な顔で口を開こうとして、でも……上手く言葉にできず、顔を伏せ――俺の制服の裾を掴み、引っ張った。

 そして、


「……つ、付き合う! 私でよかったら……大希の恋人に、してください」


 嬉しそうな笑顔を俺に向ける莉愛に、俺は思わず目を奪われてしまう。

 一生懸命、真摯に、莉愛は俺の想いに向き合って、返事をくれた。

 唐突な告白になってしまったが、こうして俺たちは恋人同士になったのだった。

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