第14話 七海莉愛は気になります。

     ※


 昼食を終えて、午後の授業が始まっていた。

 なのに、私は今も胸の鼓動が高鳴っている。

 こんな風になってしまったのは全部、有馬くんのせい。


(……有馬くんが、私を可愛いなんて言うから……)


 本当にそう思ってくれたのかな?

 でもそれって、私のこと、意識してくれてるってこと、だよね?


(……だったら嬉しいな……)


 頬が熱くなり、頭がふわふわしてくる。

 有馬くんのことを考えると、胸がきゅっと締め付けられて、なのに、とても温かくなる。

 幸せな気持ちで、いっぱいになっていく。


(……美彩みさ……有馬くんに何を言ったんだろう?)


 二人で内緒話をしてたみたいだった。

 私に知られると、困る話?

 だけど、美彩は私と有馬くんを応援してくれてる、はずだ。


(――もしかして、有馬くんと話して……好きになっちゃったとか?)


 有馬くんのこと、カッコいいって言ってたよね。

 もし、そうなら……と考えただけで、不安で心がいっぱいになってしまった。

 

(……聞いて、みようかな?)


 確認しないと、不安で授業に集中できそうにない。

 アプリを起動して、メッセージを書いていく。


『さっき、大希と何を話してたの?』


 送ろうとして、送信ボタンを押す指が止まった。


(……これでもし、好きになっちゃったなんて返事がきたら……)


 美彩は可愛いから、有馬くんを取られてしまうかもしれない。

 そんなのイヤだ。

 もし相手が美彩だとしても、私は……有馬くんに好きになってもらう為に、出来る限りの努力をする。

 だから――自分の中で気持ちを固めて、私は送信ボタンを押した。

 すると、


『あ~あれね。

 どうしても言わないとダメ?』


 美彩からの返答はとても意味深だった。

 聞かないほうがいいってことなの?

 でも、そんな風に言われたら逆に気になってしまう。

 悩んだ結果、


『……教えて』


 送信して直ぐに既読が付いた。


『怒らないって約束してくれる?』


 それってつまり、怒られるようなことなの?


(……やっぱり恋のライバル宣言?)


 緊張感が高まって、


「はぁ……」


 溜息にも似た重い息が漏れてしまった。

 でも、少し落ち着いてきた。


(……覚悟、決めるしかないよね)


 どんな結果になっても受け入れる。

 そして、前に進んでいけばいい。


『……怒らないから、話して』


 既読はやはり直ぐに付いて、


『莉愛は処女だから、もしエッチなことするつもりなら、ちゃんと付き合ってからにしてって……それで、優しくしてあげてって』


「なっ!?」


 驚きを声で上げ、ガタッ――と、席を揺らして立ち上がった。

 授業中ということもあって、教師やクラスメイトの視線が一斉に私へ向く。

 勿論、有馬くんも不思議そうに私を見ていた。


「……」


 恥ずかしさから、謝罪の言葉も口にすることができず、私は何もなかったように腰を下ろした。

 直ぐにみんなの視線が離れる。

 先生も何も言わずに授業を再開した。


(……うぅ……最悪……)


 今のもだけど、美彩の言葉が致命的。

 しょ、処女って……お、男の子に伝えることじゃないでしょ?

 私は美彩に慌てて返信のメッセージを送った。


『なんでそんなこと言ったの!?』


『有馬君の家、行くんでしょ?

 二人きりになったら、そうなるかもじゃん。

 莉愛って可愛いから、エッチなこと慣れてると思われてるかも』


『こ、高校生で経験ないのなんて、普通でしょ!』


『伝えないと相手がそう思ってくれてるかわからないでしょ?

 莉愛みたいな可愛い子は経験済みって思ってる男の子、多いと思うよ?』


『そんなの知らないけど……』


『それでもし乱暴にされたら、大切な初めてがトラウマになっちゃうかもでしょ?

 だから……もし手を出そうとか考えてるなら、ちゃんと莉愛とのこと考えて、大切にしてあげてって伝えたの』


 美彩なりに、気遣ってくれたのはわかる。

 私には言えないことを、言ってくれたとも思う。

 美彩が、有馬くんのことを好きになったわけじゃないと知れたのもよかった。

 でも、


(……私……これからどんな顔して、有馬くんと話せばいいの!?)


 もしベッドにいたら、バタバタと暴れまわっていたかもしれない。

 悩んでいる私の元へ、またメッセージが届いた。


『もしするなら、ちゃんと付き合ってからにするって言ってたよ?

 傷付けるようなことしないって、約束もしてくれた』


 そのメッセージを見た瞬間心臓がドクンと跳ねた。

 付き合ってからということは、その可能性を考えてくれているってことで。


『有馬くん、ちゃんと莉愛のこと好きだと思うよ』


 好きという文字を見た瞬間、さらに胸が高鳴った。


『私の直感では、告白したらOKしてもらえると思う。

 そもそも、莉愛に告白されてNOって言う男のが少ないだろうけど』


 告白。

 私から、告白。

 その勇気があれば……有馬くんと恋人同士になれるかもしれない。


『家で二人きりなら、チャンスだよ!』


 あ~~~~~~っと、叫び出したい気持ちを抑え、私は机に顔を伏せた。


(……どうしよう? どうしたら? 告白なんて、私にできるの?)


 多分、当日になっても、悩み続けていると思う。


(……というか、美彩が余計なことばっかり言うから、変なことまで意識してしまう)


 も、もし恋人同士になれたとして、エッチなことって、どうしたら?


(……あ~~~~~~こんな調子で私、有馬くんとちゃんと話せるの?)


 授業中なのに頭の中は混乱していて、午後の授業は全く集中できなかったのでした。

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