第12話 七海さんの友達

     ※


 トラブルもあったが、学校には遅刻することなく到着。

 俺が痴漢を捕まえたと担任にも伝わっていたようで、ホームルームでちょっとした騒ぎになった。

 勿論、七海さんのことは伏せられている。

 その辺りは当然、プライベートを尊重したのだろう。


 一時間目に入る直前まで、俺の席には人だかりができていた。


「……人気者だね」


 授業が始まる直前、七海さんが拗ねたようにそんなことを言った。

 でも顔は悪戯っぽく笑っていた気がする。


     ※


 騒ぎは一時的なもので、お昼に入る頃には日常が戻っていた。


(……七海さん、昼食はどうするだろう)


 確認しようと彼女を見ると、


「莉愛~、一緒に食べよぉ」


 髪を明るい色に染めた女の子が、弾むような明るい声と共に、椅子に座る七海さんに、ぎゅっ――と抱き着く。


「……もう、美彩みさってば……びっくりするじゃん」


 突然のバックハグに対して、七海さんは怠そうに注意する。

 でもその後、優しい顔で笑った。


「昨日、一緒に食べれなかったから……莉愛成分補充ぅ~」


 さらにぎゅ~っと抱き着きながら、美彩と呼ばれる少女が七海さんの首筋に鼻を当てる。

 そして、クンクンと匂いを嗅いだ。


「あ~莉愛ってやっぱりいい匂い~」


「ちょっ……やめてって、くすぐったいから」


 周囲の生徒たちの目が二人に釘付けになっている。

 美少女がじゃれ合う姿が尊いというのは同意だ。


(……七海さんの友達か?)


 気安い感じで話しているのを見るに、相当仲はいいように見える。


(……今日はこの子と食べるのかな?)


 そう思い俺は席を立った。

 その時、


「……? あ~……キミか! キミだよね!」


 美彩と呼ばれた子が俺に目を向けた。

 そして、七海さんから離れて俺の前に立つ。


「え、えっと……どうかしたか?」


「へ~なるほど……なるほどね」


 戸惑う俺のことを全く気にせずに、値踏みするようにこちらを見る。

 てか七海さんほどじゃないけど距離が近い。

 これも、類は友を呼ぶということだろうか?


「っ――美彩、近いから離れて」


 突然、七海さんが美彩を止めるように手を引っ張った。

 焦ったような普段は見れない真剣な面持ちの彼女に、思わず目を惹きつけられる。

 なんで七海さんが、そんな顔してるんだ?

 これじゃまるで――


「大希もデレデレしないで」


「え……あ、ご、ごめん」


 別にデレデレしてなかったと思うが、反射的に謝罪を口にしてしまう。


「ふふっ……莉愛~」


 美彩がニヤニヤとした顔を七海さんに向ける。


「安心してよ。

 別に食べちゃおうなんて思ってないから」


 そして、微笑ましいものを見るみたいに優しく笑った。


「……むぅ」


「あ~だからそんな目で見ないって」


 ジト目を向ける七海さんを抱きしめて、美彩が許しを請うように頬擦りする。


「……あ~もうわかったから……そんなに擦り擦りしないでよ」


 それを煩わしそうにしながらも、仕方ないと受け入れる七海さんが可愛らしい。

 やはり見てるだけで尊い癒される二人だ。

 って、それは一旦置いておくとして、


「……えっと七海さん……その子は?」


「……隣のクラスで、友達の――」


「莉愛の親友の水月美彩みつきみさで~す。

 よろしくね、大希くん」


 人懐っこいフレンドリーな笑顔で挨拶された。

 ギャル系の面倒見のいい女の子――という印象だ。

 ダウナーな莉愛とは正反対だが、だからこそ相性がいのかもしれない。

 何よりもどちらも超絶美少女だ。


(……こんな子がうちの学校にいたんだな)


 好みもあるのは当然としても、学校で一位、二位と言われても違和感はない。


「あれ? 水月さん……俺の名前、知ってるんだ?」


「もち! 莉愛から色々聞いてるからね」


「色々……って?」


 なんだ?

 悪口とか言われてないといいんだが。


「美彩……変な話はしないでね?」


 すかさず注意する七海さん。


「変な話って……莉愛が電話のたびに大希くんのことで――」


「そ、それが余計なことだから!」


 慌てながら七海さんが、ギャル友を睨む。


「そんな聞かれたらまずいことなの!?」


「まずいことでも、悪いことでもないよ。

 まぁ、一言で伝えるなら……いい人だって聞いてたんだ」


 それを聞いてほっと胸を撫でおろす。

 七海さんに嫌われていなくてよかった。


「だから、あたしも大希くんに会ってみたかったんだよね。

 隣の席になったって聞いてたから、直ぐにわかったよ」


「……だからって、いきなり声を掛けたら……大希がびっくりするから」


「あははっ……それはごめん。

 でも聞いてた以上にイケメンで、ちょっとびっくりした」


「……イケメン?」


 俺のことを言ってるのか?

 そんなこと初めて言われたんだが、別の相手と勘違いしてるんじゃないだろうか?


「っ……そ、そういう話、しなくていいから!」


 羞恥心だろうか?

 動揺しながら、七海さんは頬を染める。


(……あれ? これって本当に俺のことを?)


 いや、これで誤解だった相当恥ずかしいので深くは聞かないでおこう。


「ふふっ、でも……よかったね莉愛」


 二人の間でどんな話が交わされていたのかはわからないが、水月さんは見守るような優しい目を向けている。


「……うん。ありがとう、美彩」


 彼女の想いを組むように、莉愛は素直に感謝を述べた。


「ほんと、仲いいんだな」


「それはもう親友だからね。

 って……話してると食事する時間、なくなっちゃうよね」


「じゃあ、俺はそろそろ……」


「なに言ってるの? 大希くんも一緒に決まってるじゃん?」


 え? 決まってるの?


「ね、莉愛?」


「うん。大希も一緒に」


 当然とばかりに頷く七海さん。

 二人の中では決定事項のようで、既に断れる雰囲気ではない。


「なら……お邪魔させてもらうかな」


 そんな感じで三人で昼食を食べることになった。

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