第10話 夜のおしゃべり
※
家に帰って夕飯を済ませる。
その後、シャワーを浴びてベッドへ倒れ込んだ。
(……あ~このまま寝れるな)
今日は疲れた。
心からの疲弊というわけじゃないけど、ぐったりしてしまう。
それも七海さんの距離感がバグっているせいで、緊張していたせいだろう。
(……帰りも、ずっと眠ってたもんな)
俺に寄り掛かり、安心した顔ですやすやと眠る七海さんを思い出す。
(……ぐっすりだったよな)
七海さんは、いつもあんな感じでマイペースなんだろうか?
だがちょっと警戒心がなさすぎるように思う。
特に異性相手ならもっと気を張っていてもいいと思うのだが……。
(……同級生の友達相手だから……か?)
だとしたら、信用してくれているということだろう。
もしくは、自分で言うと悲しくなるが、男と思われていないか、だな。
(……そう思うと少し悲しいな)
ぐで~んと、大の字になる。
すると、いつの間にか部屋に入っていたうちの猫が、ぴょんとベッドに上がってきた。 ペットの黒猫で名前はジジ。
某魔女が箒に乗って色々と運ぶ名作から名前を貰った。
元々は捨て猫だったジジを飼うようになってから、もう三年ほどの付き合いだ。
「お~ジジ、どうしたんですか?」
名前を呼ばれて、ぴょんと俺の胸に乗ってきた。
そしてスリスリと頬擦りしてくる。
「なんだ? 慰めてくれるのか」
動物は一緒にいると不思議と人の心を察してくる。
言葉は通じないはずなのに、表情などを見て共感してくれているのかもしれない。
俺はジジの頭に手を載せて優しく頭を撫でた。
気持ちよさそうに目を細めて、ゴロゴロと喉を鳴らした。
(……うん?)
ベッドに置いていたスマホがブルブルと震えた。
ディスプレイを見るとトークアプリに通知が出ている。
「……七海さんから、か?」
ジジをベッドに下ろして、俺は身体を起こす。
そして届いたメッセージの内容を確認した。
『今、何してる?』
届いていたのはなんてことないメッセージ。
何か話でもあるのだろうか?
いや、雑談してもいいって話をしてたから、それでか?
『ベッドでごろごろしてた』
文字を打ち、ありのままに返信した。
既読が付いたかと思うと、スタンプが飛んできた
『お疲れにニャン』というゆるキャラのスタンプだ
『莉愛は何してたの?』
『私も同じ。
ベッドに寝ながらスマホ触ってるよ』
それを見て頭の中に浮かんだのは、可愛らしいパジャマを着てベッドで横になっている七海さんの姿だ
スタイルが良くて、大人っぽい七海さんなら、可愛い系よりも大人っぽいものが似合いそうだ。
『今……エッチなこと、考えてた?』
『考えてない!』
今までにないくらい即答した。
でも、エッチではないだろ絶対。
『必死なのが怪しいなぁ』
そのメッセージの後、七海さんから一枚の写真が送られてきた。
それを見て思わずドキッと心臓が跳ねる。
「っ!?」
送られてきたのは、自撮りした写真だった。
あっかんべ~をしている七海さんが映っている。
パジャマは鮮やかな青色のボーダー柄だった。
可愛いの中に大人っぽさも混じっていて七海さんに似合っている。
『どう?』
え? どういう意味での質問なんだそれ?
エッチかどうかって話……じゃないよな?
いや、自分で考えておいてなんだが、そんなことあるか。
『可愛いと、思う』
正直、素直に、本気でそう思っている。
七海さんは写真で見てもモデルよりずっと可愛い。
『……そっか。
エッチなのじゃなくて、残念?』
俺の返信に対して、そんな冗談を言ってきた。
悪戯っぽい笑みを浮かべて、俺をからかう彼女の顔が想像できた。
なんて返信をするか? と考えていたが、俺も悪戯心が生まれた。
『むしろ嬉しい。
可愛いパジャマを着た莉愛を見れたから』
こんなこと直接顔を見ていたら、絶対に口にすることはできない。
でも文章でなら冗談を冗談で返すことができる。
だが、既読が付いて少しして送られてきた写真が消されてしまった。
(……なんで!?
もしかして、イヤだった?
からかっちゃったから、調子乗るなってことか!?)
七海さんが怒っているんじゃないかと心配していると、
『大希も……写真、送って』
写真?
俺の写真、か?
別に構わないが……。
(……あ、そうだ)
七海さんは動物が好きだと言っていた。
なら、
「ジジ! お前の出番だ!」
「にゃ?」
何~? と首を傾げるジジを胸に抱える。
一人と一匹で自撮りをして、その写真を七海さんへ送った。
『可愛い……猫、飼ってたんだ』
うらやましいニャンと書かれたゆるキャラスタンプが届いた。
『他の写真、ある?』
ジジの写真がもっと見たいのだろう。
フォルダに入っている写真を何枚か送った。
『……名前、なんて言うの?』
『ジジだ』
『ジジ……くん?』
『だな』
『うちはお母さんがアレルギーで、ペット飼えないから羨ましい』
そうだったのか。
『好きなのに飼えないのはつらいよな』
ペットはやっぱり可愛いし、癒される。
沢山の思い出ができるのはやっぱり幸せだ。
でも同時に、動物が好きでも、実際に飼うとなると色々と問題もある。
アレルギーならそももそ飼えないが。
猫だと部屋の中を傷付けられたりと、割と大変だしな。
それでイヤになって世話を放棄するなら、そもそもペットを飼うなって話。
ペットを飼うなら、ちゃんと最後の時まで面倒を見る覚悟があるかだ、
まぁ、七海さんならきっと、なんだかんだでちゃんと面倒を見てくれる気がする。
『いつか、飼えるといいな』
『……だね。
今は……たまに猫カフェとか行って癒されてる』
『行ったことないんだよな……ちょっと興味はあるけど、うちはジジがいるから』
『他の猫ちゃんの匂いとか付くと、嫌がられそうだよね』
確かに、それはあるか。
ジジは拾った子猫の時からずっと家で飼っているから、あまり他の猫に慣れていないかもしれない。
『……ジジくんの写真、他にもある?』
それから何枚かジジの写真を送った。
ある写真、全部を送ってもいいが……。流石にそれだと時間が掛かりすぎる。
だが、一つ簡単に解決する方法が思い浮かんだ。
『今度、うちに来るか?』
既読が付いた。
だが、そこから暫く返信がない。
(……てか、隣の席になって少し話したからって、女の子を家に誘うのは問題あったろうか?)
休日なら両親もいるから、問題ないと思ったんだが……いや、待てよ?
女子が来るなんて親が知ったら、色々と詮索されるんじゃ?
って、それよりも返信がないことのほうが問題だ。
それから……ずっと返信はなく。
おかしな焦燥感に襲われた俺は、うおおおおおおっ!? と一人ベッドでバタバタしていた。
※
翌日。
いつの間にか眠っていた俺は、スマホが揺れて目を覚ました。
(……うん?)
眠気に堪えながら目を開く。
すると、
『ごめん……昨日、あのまま寝ちゃってた』
七海さんからの返事が届いていた。
(……寝てたのか~~~~)
気が抜けて、バタンと枕に顔を埋める。
夜も遅かったのだから、その可能性もあったか。
もう一度、スマホが震えた。
『遊びに行くの、次の休みでもいい?』
一気に目が覚めた。
二度見、三度見する。
頬を抓ってみたが、痛い。
(……夢じゃない)
未だに信じられないが、こうして七海さんが家に遊びに来ることが決まった。
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