第9話 連絡先の交換

     ※


 駅に到着した俺たちは、同じホームで電車を待っていた。 


「莉愛は、どこで乗り換えるんだ?」


「……小山駅」


「マジ?」


「うん。……大希は?」


「佐野駅だ……割と近かったんだな」


 近所というほどじゃないが、電車なら直ぐの距離だ。


「佐野かぁ……可愛いご当地キャラがいたよね?」


「さのまるくんだな」


 ぬいぐるみみたいな見た目で、ゆるキャラのコンテストなどでも上位人気のキャラクターだ。

 七海さんが言うように、かなり可愛く愛嬌があるキャラクターなので、女の子なら確かに目に止まるかもしれない。


「あ~……そうそう。

 あれって犬……なんだよね?」


「ああ、犬型のマスコットだな。

 サムライの姿で佐野の特産品を身にまとってる」


 ラーメンのどんぶりを被り、いもフライを剣に見立てて腰に差している。

 可愛らしさを強調しつつ、地元のPRキャラとしても最高のデザインになっていた。

 スマホでパパっと検索する。


「これだな」


「あ……やっぱり、可愛い」


 七海さんは、うちの地元のゆるキャラを見て頬を緩めた。


「……可愛いものが好きなんだな」


「うん……犬とか、猫とか……動物のぬいぐるみとかも、好き」


 言って七海さんがスマホを取り出す。

 そして、ディスプレイに表示された写真を俺に見せてくれた。


「ぬいぐるみ、すごいな」


「うん。……ゲームセンターで取ったり、お店で買ったり……このおっきな白い犬、ちょっとさのまるくんに似てない?」


「確かに……」


 つぶらな瞳とか、よく似ている。

 続けて七海さんは写真を切り替えた。


「あとはこの猫ちゃんもお気に入り。

 モノクロニャーって言うぬいぐるみで、キモ可愛い感じが好き」


 ベッドには色々なぬいぐるみが並んでいた。

 だが、部屋は綺麗に整理整頓されている。

 というか、写真とはいえ七海さんの部屋を見てしまった。


「どうしたの? 可愛くなかった?」


「いや、可愛いと思うぞ。

 莉愛の好きな物が知れてよかったし……」


「ぁ……そっか……」


 俺から目を逸らして口を閉ざす七海さん。

 何もおかしなことを言ったつもりはないが、どうしてしまったのだろうか?


「お、やっと電車が……来たな」


 夕日がキラキラと周囲を照らす。

 地元に到着する頃には、陽もすっかり沈んでいるかもしれない。

 ガタガタと車両が小刻みに揺れ、ブレーキと共に車輪音が響く。

 少しして電車の扉が開いて、俺たちは乗車した。


(……この時間だと、まだ空いてるな)


 帰宅ラッシュの時間にはまだ少し早い。


「座るか?」


「ん」


 七海さんは一番端、俺はその隣に腰を下ろす。

 直ぐに扉が閉まって電車が発進した。 

 ガタン、ゴトンと、心地いい震度を響かせ車両が揺れる。


「……ねえ……大希……連絡先、交換しない?」


「あ、そう、だな」


 ポケットからスマホを取り出して、トークアプリを開く。

 そしてQRコードで互いの連絡先を交換した。


「……ありがと」


「あまり連絡するほうじゃないけど……よろしくな」


 七海さんからスタンプが送られてくる。

 可愛らしい猫のスタンプに、よろしくにゃ~という文字が書かれている。

 それに俺も動物のスタンプで返した。


「……たまに、連絡してもいい?」


「ああ、全然いいぞ」


「雑談でも?」


「あまり面白い話はできないかもしれないが……」


「そんなことない。

 私は……大希と話すの……楽しい、から……」


 七海さんの声が徐々に小さく、弱くなっていく。

 そして会話が止まったかと思うと、うつらうつらと七海さんの頭が揺れた。

 そして、七海さんの身体が俺に寄り掛かってきた。


「すぅ……すぅ……すぅ……」


 もう限界だったのか、俺の肩を枕替わりに七海さんは眠ってしまった。

 起こすのは可哀そうだから、せめて彼女が下りる駅まで……なんて思っていたけど、


(……ち、近い……!?)


 少し首を傾けた先に、穏やかな顔で眠る七海さんの顔がある。

 芸能人やモデルよりも整った見目麗しいその容姿に、俺は目を奪われてしまう。

 同時に緊張からドキドキと胸の鼓動が早くなっていく。


(……駅に着くまで、ずっとこのままなのか、俺っ!?)


 嬉しさよりも、精神的な疲弊で死ぬかもしれない。


(……同級生とはいえ異性に対して、七海さん無防備すぎるでしょ!?)


 結局、彼女が目を覚ましたのは電車を降りる直前で、それまでずっと俺の緊張が解けることなかったのだけど……。


「また明日ね、大希」


 去り際の七海さんの七海さんの笑みを見たら、細かいことなんてどうでもよくなってしまった。

 つまりまぁ、それくらい彼女が可愛かったということだ。

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