第5話 七海さんのいたずら

 もう少しで授業が終わる。

 そう、もう少し頑張るだけでいいのに……。


(……瞼が重い……)


 堪えきれないほどの睡魔が襲ってくる。

 どれだけ頑張っても、このままじゃ眠ってしまいそうだ。


(……今日は、ちょっと気を張りすぎてたのかな)


 七海さんが隣の席になって、緊張していたのだろう。

 こんな日常も直ぐになれるのだろうか?


(……うぅ……やばい、本当に寝落ちしそうだ)


 自分でも自覚していたが、一瞬意識が落ちる度にカクッと首が揺れる。

 そして、本気意識が落ちかけたその瞬間――


「――おぐっ!?」


 七海さんにわき腹をくすぐられた。

 じ~~~~~っと、俺を見つめている。

 そしてゆっくりと、


『もう少し、がんばって』


 彼女の唇が動いた。

 どうやら、起こしてくれようとしたらしい。

 ありがたい。

 ありがたいが、唐突過ぎて変な声が出てしまった。


「……!」


 慌てて周囲を確認する。

 気付かれずに済んだのか、誰もこちらを見ていなかった。


「……莉愛……起こしてくれるのはありがたいけど……肩を叩くくらいにしてくれ」


「でも、そのくらいじゃ目は覚めないでしょ?」


 それは……その通りだ。

 が、下手すると俺はクラス内で『授業中に突然、奇声を発する変な人』という扱いになる。


「……大希って、たまに授業中、寝てる時あるから」


「え?」


 留年するほど成績が悪くはないが、確かに授業中に寝ている時はあった。

 でも、なんでそれを七海さんが知っているのだろうか?


「だから、私が隣の席にいる間は……眠れないようにいたずらしちゃうから」


 俺の疑問を尋ねる前に、七海さんはまるで小悪魔のように、悪戯っぽく笑った。

 一瞬、本当に魅了されてしまったみたいに目を離せなくなってしまう。


「だから、がんばって授業受けてね」


 口調は優しい。

 だが、七海さんは割と本気なのだろう。

 眠ってしまった時、どんな攻撃を仕掛けてくるのかわからない。


「……眠らないように精進します」


「ふふっ……がんばって」


 言って七海さんは、視線を教壇に向ける。


(……これからは、あまりサボれなくなりそうだな)


 もしかしたら、成績が上がってしまうかもしれない。


(……いや……それはいいこと、だな)


 そして、七海さんのお陰で、なんとか眠らずに耐えきった。

 あとはホームルームを残すのみとなったのだが……眠気でもう意識は持たず、意識を手放したのだった。

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