バスを間違えたのか、因習村っぽいところに来てしまいました

達見ゆう

なんだか不穏な村に来ました

 おかしい。


 それが僕の第一印象であった。


 確か温泉地の言野葉ことのは村に来たはずなのだが、なんだか寂れている。その前に温泉街独特の雰囲気も湯気も硫黄の匂いもしない。


 バス停の名前を見ると「言楽村」とある。読み方は知らないがどうやらバスの乗り継ぎに失敗したようだ。


 帰りのバスはないかと近視の僕が目を近づけようとしたその時。


「若いの、悪いことは言わない。早くこの村から去ることだな」


 一人の老人が話しかけてきた。容貌は普通なのだが、そんなことを言われると全体的に怪しく見えてしまう。まるで横溝正史の小説に出てくる老人のようだ。


「は、はいっ!」


 老人の言葉の続きを聞くのも恐ろしくなり、その場を逃げ出してしまった。今思えばうかつであった。外へ出る手段のバス停から逃げてしまったのだから。


 走って走って、気づいたら知らない場所に来ていた。しょうがない、散策がてらバス停まで戻ろう。


 すると、別の老人が現れてこう告げてきた。


「若いの、悪いことは言わない。早くこの村から去ることだな」


 ひっ! またこのセリフ! やはり横溝正史の世界だかオカルトでいう因習村的な所だ。詳しいことは聞かないで逃げるに限る。知ってしまうと後に戻れない気がする。


「え、ええ。村から移動するところです」


 手短に答え、早足で歩き出す。途中、何人もの老々男女から同じセリフを聞いたが、なんとかバス停に戻り、ちょうど復路のバスが来たので乗ることが出来た。


「ふう、なんだかわからないが危機一髪だった」


「まさに危機一髪だったな、若いの」


 最初にバス停にいた老人が後ろの座席から話しかけてきた。


「ひえっ! バスの中まで乗ってきたあ!」


 僕の驚愕した態度に関わらず、老人は続ける。いや、知っちゃうと後戻りできなくなるから止めて、言わないで。


言楽村ことらくむらは字が似ているため、言野葉村と間違えて来る者が時々出る。言楽村は過疎が進んでいてインフラも廃れている。この復路のバスもこれが最終だったのじゃ。タクシーを呼んでも時間がかかるし、距離があるから高額になる。

 なお、村には宿泊施設はもちろん、二四時間営業の店もない」


 なんだ、ただのいい人だった。つまりそこで滞在しようかとうっかり長居すると大変な目に遭うところだった。確かに危機一髪だ。


「あ、アドバイスありがとうございます。ところでおじいさんはどうやって帰るのですか?」


「あっ」

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