第2話

 一度状況を整理しよう。


 僕の名前は石上博孝いしがみひろたか。彼女の名前は幾多千世。

 僕と千世は同じ高校のクラスメイトで「隣の席で暇そうにしていたから」という理由で強引に『発明部』という怪しげな部活動の創設メンバーにされた。他にも何人かのクラスメイトに名前を借りていたようだが、発明部設立と同時に退部した。

 しかし彼女は気にすることなく発明に没頭した。僕は部室で「発明の根幹を為す想像力の育成」という名目で漫画本を読み漁っていた。

 だから僕は助手じゃない。

 そして、彼女の弟でも決してない。

「ちなみに姉弟といっても血縁はなく、半年前に再婚した両親の連れ子がたまたまクラスメイトだったというわけなのだが」

「なんだそのラノベ設定は」

「そのツッコミも半年前に聞いたね」

 軽口を叩きながら、千世はボールペンの背をノックする。「さっきの博孝の話をすべて真と仮定すれば」と、ノートにすらすらと文字を書いていく。

「これは『平行世界』というやつだろう」

 千世は綺麗な文字で書かれた『平行世界』を丸で囲んだ。いつか漫画で読んだことがある。

「パラレルワールドってやつか」

「そうだ。選択肢に溢れたこの世界はひとつでなく、同時に別パターンの世界が無数に存在するという理論。にわかには信じがたいが。もう一人のも言ってたんだろう?」

「ああ」

 世界線、と別れ際に千世は言っていた。それは平行世界パラレルワールド理論で各世界を表現する際に使う言葉だ。

 彼女はあの暗闇がパラレルワールドへの入口だと一目見て気付いたんだろう。散らばっていた星はたくさんの扉だったのか。

 そしてここは僕と千世が姉弟になった世界線というわけだ。

「私がそう言っていたなら違いない。そんな切羽詰まった状況で無駄な情報は伝えないだろうからね」

「僕の言葉は信用なさそうだな」

のことは私が一番よく知ってるだけだよ。けど、そういうことなら話は早い」

 千世はディスプレイに開かれていたウィンドウをすべて閉じて、新しいウィンドウを表示させた。口元には薄く笑みを浮かべている。

 それは彼女が新発明を閃いたときの表情だ。

「作ろうか、タイムマシン」


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