「あっ」
oufa
本編
寝坊した私は走って学校を目指していた。駅の階段を駆け下りながら危うく転びそうになる。
目の前の青信号が点滅を始めた。私は急いで渡ろうとスピードを速める。
「あっ」
お弁当忘れちゃった……。私は思わず足を止めた。すると目と鼻の先をトラックが横切った。
間一髪。信号無視をしたトラックを追いかけるようにパトカーがサイレンを鳴らし走り去った。心臓がまだバクバクしてる。朝からほんと勘弁してほしい。
どうにかギリギリ間に合った私は息を切らしながら席に着いた。友達のマリが笑いながら声を掛けてきた。
「危なかったねー遅刻ギリギリじゃん! 寝坊でもした?」
「うん、めっちゃ焦った」
「だろうねーメイクもしてないし」
「あっ」
ほんとだ……。まぁ高校生だからいいかとは思うけど、2年になってからは毎日メイクしてたからなんとなく落ち着かない。しかも今日は席替えがある。シュンゴくんの隣とかになったらどうしよう!
「あ……」
嫌な予感とは当たるもので、窓際で喜んでいたのも束の間、隣の席はシュンゴくんだった。ノーメイクの私は彼に見られまいと挙動不審になってしまった。
明日こそはばっちりメイクしてこよう、と心に決め時刻はお昼休み。お弁当を忘れた私は購買へと向かった。
混雑がおさまるのを待っていざ向かうと残るパンはたった一つ。私が手を伸ばすと横からもすーっと別の手が伸びてきた。
「あっ」
ほぼ同時にパンを掴んだのはシュンゴくんだった。思わず目が合い顔が熱くなる。シュンゴくんの手がパンから離れた。私もすぐに手を引いた。
「お、おれは弁当もあるし、高木が買えよ!」
「わ、私も大丈夫! シュンゴくんが買いなよ」
私たちが譲り合っていると二人の間からひょいっとマリがそのパンをかっさらった。
「もーらいっ」
舌をペロっと出しながら楽しそうに笑っている。なんとなく彼女の魂胆は見えた。私が呆れながらその場に立っているとジュンゴくんが照れ臭そうに言った。
「高木って今日弁当忘れたんだよな? よかったらおれの弁当一緒に食うか?」
「えー! そんなのいいって!」
「今日はおにぎり弁当って言ってたし、気にすんなって」
「でも……」
私が躊躇しているとお腹がグーっと鳴ってしまった。
「あっ……」
ジュンゴくんは優しく笑いながら私の手を引いた。みんなの前でちょっと照れ臭かったけど私は彼の後についていく。
屋上に着くと誰もいない二人っきりの空間だった。すでに私は胸いっぱいでお昼ご飯なんてどーでもよくなっていた。さっきからニコニコしている彼を見ていると、うちらって両想いなんじゃね? とか思ってしまう。日向に二人で腰を下ろすとジュンゴくんが弁当箱を開いた。
「え?」
という私の声を掻き消すようにジュンゴくんが「うまそー!」と嬉しそうに叫んだ。確かに豪華で美味しそうだけども……どっからどうみても愛がいっぱい詰まった愛妻弁当みたいだった。おにぎりが4つ入っていたが、どれもハートの形をしている。
「うちのママの料理はめっちゃ美味いんだ! 遠慮なく食べてよ!」
唐揚げとおにぎりを頬張りながら、彼は喜色満面の笑みを浮かべた。
「はは……いただきます」
うん美味しい。食べ物に罪はないもんね。私はハートのおにぎり一つをありがたく頂いた。
「で、で? どうだった!?」
お弁当を食べ終え、ちゃっちゃと教室へ戻ろうとしてたらマリに捕まった。たぶん彼女の脳内では私が彼に「あーん」としている絵でも浮かんでいるのだろう。
「失恋したかな? もしくは乙女の幻想が打ち砕かれた? 危ないとこだったよ」
「はぁ? どゆこと、どゆこと!?」
しつこく訊いてくるマリを無視して私は教室へと入った。
放課後、私は下駄箱の前で立ち尽くしていた。
外は土砂降りの雨。もちろん天気予報を見てない私は傘なんて持ってない。その時突然、目の前に傘が現れた。
「これ! よかったら使ってください!」
傘をぐいっと差し出す人物は、一個下の後輩で女子に人気のサッカー部の右田くんだった。私と目が合うと顔を真っ赤にしながら横を向いた。
「どうぞ!」
再び傘を差し出され私は思わず受け取ってしまう。すると彼は猛ダッシュで雨の中へと消えて行った。
「あ――」
りがとう、と一応言ってはみたけど聞こえはしなかっただろう。せっかくだから使わせてもらおうと傘を開くとヒラリと手紙が落ちてきた。どうやら私に宛てた手紙のようだ。
読んでみると彼は私のことが好きらしい。付き合ってほしいと書いてあった。もちろんイケメンに告白されるのは悪い気はしないが……。
ちょっとマリに頼んで彼のことを調べてもらおう。やはり付き合うとなると慎重にいかねば。若さという貴重な時間を無駄にはしたくない。
だって青春なんてあっという間なんだから。
「あっ」 oufa @oufa
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