至高の報酬
ゆる弥
ギリギリの依頼
俺達は今日から冒険者になるんだ。同じ村から出てきたこの四人で。
「この四人でパーティということでよろしいですか?」
「はい! パーティ名は暁でお願いします!」
「わかりました。登録完了です。今日からFランク冒険者です!」
「有難う御座います!」
こうしてFランク冒険者になったわけだ。まずは、生活するために薬草でも集めるか。
「なんで、依頼を受けてくれないんですか?」
「報酬が見合ってないからです」
「毒消し草を取ってきて欲しいんです。でも、報酬に出せるのは……この母さんが作ったパンしかありません」
「ですから、ダメなんです。規則で報酬は銅貨三十枚が最低なんです」
何やら依頼を受ける窓口が騒がしい。こんな事もあるんだな。
トボトボとギルドを出る少年。
肩を叩いて呼び止める。
「少年、毒消し草が必要なのか?」
「兄ちゃん、母さんが何かに噛まれたみたいなんだ」
最近この辺の生態系が変わってきていると言う。少し離れたところにドラゴンが降り立ったのが原因と言われているが。
「ロイド、もしかして?」
仲間の一人が怪訝な顔を見せる。俺の選択が分かっているからそんな顔をするんだろう。分かっているさ。分かっているけど、人を救う冒険者になりたいんだ。
ポイズンスネークに噛まれたとしたら一刻の猶予もない。
「少年、俺が毒消し草を取ってこよう。それで、家はどこだ? 取ってきたら届けよう」
「ホントに!? あそこの水色の家だよ!」
「わかった! 待ってろ!」
仲間は呆れ顔だ。
でも、そういう性格を知っていて一緒に居てくれると言ったのだ。許してくれるだろう。
早速街の外に出る。俺たちのパーティーは盾士、剣士、魔法士、回復士である。回復士は毒は消せないのだ。
街を出て森へと入っていく。その先には雑草が生え所々に薬草が生えている。だが、毒消し草はこんなところにはない。
綺麗な水のある所に生えるのだ。だから、もっと中に入った所だろう。毒消し草は中々流通が少ないのだ。
だから、報酬も弾まないといけないことになっているようだ。奥へと入っていく。空は木々に覆われ薄暗い。
木々の香りがするその森は林が擦れる音だけが聞こえている。
耳をすまして異常を検知するのだ。
「ロイド、あんまり前に出るな?」
「あぁ。リュー、前は盾を防いでくれよ?」
「分かってるさ。任せろ」
──ガサガサッ
「何かいるぞ!」
リューが前に出て盾を構える。
『ギギャアアア!』
鈍い音がリューの盾から鳴り響く。叩きつけられたのはボロボロのメイスだ。
握る魔物は醜い小鬼のゴブリン。
弱いと思われているが、実はEランクなのだ。群れになるとドンドンランクは上がる。今、ゴブリンは10体いる。ランク的にはDだ。
「数が多い! 応援を──」
「──ダメだ! あの少年のお母さんはそれでは間に合わないと思う! 一時も無駄にはできない!」
「じゃあ……」
「戦うしかない! 行くぞ!」
俺は一番近くにいたゴブリンに襲いかかる。油断していたようで一刀の元に倒れた。それをみたゴブリン達の目の色が変わった。
『ギギャアアア!』
一気に襲いかかってきた。
「下がれ!」
リューが前に出て押さえ込んでくれる。俺は隙を見てゴブリンを突き刺して少しずつ倒していく。
「私がやるわ! 下がって!」
魔法士のミルトが魔法を放つ。
「サイクロン!」
風が渦を作り出してゴブリンたちを切り裂いていく。数体倒したようだ。残りのゴブリンを倒すため前に出る。
また一体倒した時、頭に激痛が走った。
目の前が真っ赤になる。
「「「ロイド!」」」
咄嗟に下がる。追ってきたゴブリンをリューが抑え込む。
「気をつけないとダメだよー。ヒールー!」
回復士のマリアが回復してくれる。痛みは引いていった。血を拭き取って行く。
「もう少しだ! 踏ん張るぞ!」
俺は皆に激を飛ばしてゴブリンを倒しにかけていく。もう残り二体ほどだったゴブリン。
まず、リューが抑え込んでいたゴブリンに跳躍する。上から剣を突き刺す。
『グゲェ』
断末魔を上げて倒れた。残りは少し大きめのゴブリン。
一気に肉薄する。同時にメイスが迫る。紙一重で避けて首を切り裂く。だが、浅い。
『グガアア!』
連続してガムシャラに叩きつけてくる。
一旦下がって様子を見る。
回り込んでみようとするが冷静にこちらを見ている。
時間がない。
「おぉぉぉぉ!」
踏み込んで駆ける。
跳躍して肩に剣を担ぎ、力を溜める。
全部の力を剣にのせる。
「そりゃゃゃゃ!」
ズバンッ!
メイスをも切り裂いき、ゴブリンを真っ二つにした。
「は……ははっ。やったぜ!」
父さんに貰った剣。少しは使いこなせたかな。
「あそこに毒消し草があるぞ!」
急いで採取すると街へと戻る。
疲労が体を重くするが、関係ない。ひたすら走る。皆も息が絶え絶えだ。
日が傾いてきた。
街に入ると水色の家を目指す。
見えてきた。
ノックをする。
「はぁ。はぁ。はぁ。取ってきたぞ!」
「兄ちゃん、母さんが……」
「くそっ! マリア頼む!」
マリアに毒消し草を渡して母親の様子を見に行く。すると、息が細い。顔も紫になっている。状態は一刻を争う。
「マリア!」
「今行くわー」
声は緩やかだが、動きは機敏だった。
母親の口に器を持っていき毒消し草を煎じた物を流し込む。
少し顔を上に傾けさせて嚥下させる。
息が細くなっていく。
「頼む! 生きるんだ! 息子を置いていくな!」
力一杯声を掛ける。
皆で手を握り、願う。
頼む!
頼むから死なないでくれ!
「はっ。スーーー。スーーー」
息が整って顔色が良くなった。
「顔色が良くなったわねー。一応体力も回復させるわー。ヒールー!」
マリアが回復させる。
何とか間に合ったようだ。
「少年、よかったな!」
「兄ちゃん血塗れだけど大丈夫?」
「ハッハッハッ! 俺は平気さ!」
そうは言ったが疲れが体を重くする。
「あの、これ報酬……」
母親の作ったパンをだす。
貰わないのも納得しないだろう。
「皆で分けよう」
そう提案してみんなで分けて口にする。
バターの風味が口をぬけ、小麦の旨みが口に満ちる。
「うん! 美味い! 最高!」
「ホント? これしかないけど……」
「いいんだよ! お母さんよかったな!」
「うん! 本当に……ありがとう!」
この少年の笑顔が何よりの報酬だった。
俺たちは困った人を助けられる、そんな冒険者に必ずなってみせる。
至高の報酬 ゆる弥 @yuruya
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