大森さんはよく食べる。教室でたこ焼きを焼く。
大舞 神
第1話 危機一髪
大森さんはよく食べる。
「は?」
隣の席を見て思わず俺は声を出した。
「たこやき?」
たこ焼き器が机の上に乗っている。
十六個に穴の開いた鉄板が乗ったカセットコンロだ。
「そうだよ!」
彼女はよく早弁をしている。
授業中に食べたり、授業ごとの休み時間もよく食べている。
身長175センチのむっちりボディをした女子高生。
食欲旺盛な天然系残念女子。
あだ名は大森ごはん。
可愛い顔で性格も明るいのだが、その異常なまでの食欲で男子からの人気はイマイチだ。
(マジかよ……)
頭のネジが2,3本ぶっ飛んだ天然だと思っていた。
だがまさか……たこ焼きを作り始めるなんて……!?
「ふん♪ ふん♪」
おまえ、ここ教室やぞ!?
のんきに鼻歌を歌いながら作ってる場合ちゃうぞ!
ジュゥゥ……
「ひょぉ♪」
しゃばしゃばのタネが流し込まれた。
やばいぞ、あのタネのしゃばしゃば具合だと、10分は出来上がりまでに掛かる。
今は昼休みではなくただの休み時間だ。
そう、つまりトイレと移動の為の時間。
僅か10分である。
とてもではないがそのたこ焼きは休憩時間中には完成しない。
(そもそも教室でたこ焼きなんかすんなよ!)
パラララーと、天かすと刻みネギをタネの中に入れていく。
手際がいい。
「二段君ってばそんなに見つめてっ、わかってるよぉ?」
二段君は俺のあだ名だ。
それよりこの無駄乳女はなぜそんな「わかってますぜぇ旦那ぁ?」みたいな顔で俺を見るんだよ。
「もう! 一個だけだよ?」
いらねぇよ!
赤い刻まれたモノがさらにたこ焼きのタネに投入された。
うんうん、やっぱりたこ焼きと言ったら紅ショウガは鉄板だよね。
わかってるねぇ。
ちゃうわ!
教室でたこ焼きなんか焼いたら普通に停学だから。
下手したら退学まであり得るからね?
あれ、俺ひょっとしてヤバイ?
1個貰う約束になってる? 勝手に?
(退学のピンチだとぉおおおおおおおおおおおおおおッ!?)
このデカ乳ムチムチふともも女ぁあああ!?
「うん! やっぱりタコは7センチがジャスティスッ!」
「いや、4センチでいいよ」
「はっ? そんなんじゃ大きくなれないよ、二段君?」
大森さんは頭が弱い。
男だったらぶっ飛ばしてるのに。
「大森さんみたいに脂肪つけたくないから、4センチでいいよ」
手際よく線に沿って区切っていた手が止まる。
「……いやいや、脂肪なんて、萌香ついてないよ、なに言ってるの二段君」
「大森さん、手、止まってる」
「ああっ」
10分しか休み時間ないんだから、ちゃっちゃと手を動かそ?
「二の腕のっ、これも筋肉だから」
いやいや二の腕、プルプルしてるから。
ちょっと水色のブラが袖から見えてる。
男子たちが凝視してますよ?
ていうか、夏なのにたこ焼きなんかするから汗掻いてきてるじゃん!
窓開けて換気しよう。
「ふともも、カッチカチだから!」
「ちょ、大森さん!?」
スカートめくらないで?
日焼けした肌と白い肌のコントラストが目に毒だ。
俺のほうがカッチカチになるから。
「ほら、ここ焼けてないから、こっちと交換して」
「えっ、なにそれ、二段君テクニシャンっ!?」
二段君はテクニシャンと伝言ゲームが始まった。
ほんと悪ノリが好きなクラスだよ!
「もう大丈夫?」
「まだ早い」
「えっ、もう時間が……」
「ダメ」
「あっ」
まだ中が粉っぽいのに取り上げようとする大森さんの手を押さえる。
これから糊化して美味しくなるのだ、まだ待て。
「はうぅぅ」
彼女の手を持ったままたこ焼きをひっくり返していく。
握った彼女の手は湿っている。
キーンコーンカーンコーン
「「!」」
授業開始のベルだ。
科目担当の教師はまだ来ていない。
しかしロスタイムは1分というところだろう。
昨今では教師が教室に遅れて入るだけで問題視されるのだから。
廊下からカツカツカツと足音が聞こえる。
生徒のスリッパの音じゃない硬質な音だ。
新任英語教師のハイヒールの音だ。
「コォォ!」
俺は集中し息吹で呼吸を整える。
失敗すれば終わりだ。
意を決して、ドン、と鉄板に拳を叩きつけた。
「あっ」
宙を舞うたこ焼き。
大森ごはんがあほ面で口を開けている。
俺は両手に持った竹串4本で全て一度に貫く。
諸手突き『撃砕』。
「「「「オオオオオオオオオオオオ!!」」」」
「WOW!? な、なんですかぁ!?」
神業を見せた俺に拍手喝采。
スタンディングオベーションで教師の視線が遮られる。
今がチャンスとたこ焼き器を片付ける。
「に、二段君っ」
「礼は後でな」
あとでたっぷりと揉ませて貰うぞ、その無駄な脂肪の塊をな!
「いっ、一個だけだよおおおおおおおおおおおお!?」
大森さんはよく食べる。教室でたこ焼きを焼く。 大舞 神 @oomaigod
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