危機一髪
ぬまちゃん
バレなきゃ良いのよ、えへへへ
「ねえねえ、そろそろ準備始めた方が良いかな?」
教室で帰る準備をしていたフレーム無しメガネの彼女に、周囲を気にしながらそっと声をかけてくる、一つ後ろに座っている背の高いクラスメートの女子。
「えー、まだ早くないかしら。二月になってからで良いでしょ」
「お、私のいってる準備の意味、ちゃんと理解してるじゃん。さすが我が良友」
ちょっとウンザリ、でも頼られるのは悪い気がしない、そんな微妙な顔でショートカットの髪の毛をビュンとなびかせて後ろに振り向くメガネ女子高生。その彼女の背後から背の高い女子はニカリと人懐っこそうな笑顔を向け、がっつりと抱きついてくる。
「何言ってんの、去年もこの時期から騒いでたでしょ。どのチョコにするか一か月も悩んでたのは誰よ」
「えへへ、あの時は大変だったよね。ということで、今年もよろしくお願いします」
メガネ女子の後ろから抱きついたまま、甘えるような声を上げる背の高い女子。
「去年は、学校に持ってくる日をマチガエちゃうしさぁ。あれだけ騒いで苦労して作ったのに、どうして十四日の当日に学校に持って来るの忘れるかなぁ」
「あー、そういえばそんなこともあったかな。でも、カバンに入れっぱなしだった試作品として作ったチョコは貴女に渡せたから私的には満足かな」
「何言ってんのまったく。そのあと、大急ぎであなたの家に連絡して学校に届けてもらって、放課後にクラスメートに配ったんだもの。まさに危機一髪だよ」
メガネ女子は、後ろから抱きついて何気なく胸まで触っている背の高い女子の両手をのんびりとどかしながら、去年の記憶を振り変える。
「今年は忘れないでね。今年はわたしが朝迎えにいくから」
帰り支度がすんで立ち上がったメガネ女子は、うしろの席にいる背の高い女子に向かって頭をかしげながらつぶやく。
「そういえば義理チョコ騒ぎで去年も教えてくれなかったけど、さ。そもそも、本命チョコは誰に渡したの? 今年も同じ人に渡すの?」
「そーよ。今年も本命チョコは同じ人に渡すよ」
背の高い女子は、スマホの写真をちらりと見て顔を赤らめてからメガネ女子の質問に即答する。
「もしかして、スマホのアルバムに入ってるの? ちょっと見せてよ、他の子には黙っておくから」
「ごめんね。だめなの、これだけは友達の貴女にも見せられない! 見せたら絶対引くから」
メガネ女子が、背の高い女子のスマホを取り上げようと手を伸ばすと、彼女は慌ててスマホの画面を落としてからスカートのポケットにしまい込む。
「もー。しかたないなあ。わかったわ。ちゃんと交際できるようになったら教えてね。じゃあ、今日は二人でチョコレートショップに寄り道しようか」
「うん、わかった。じゃあ先に昇降口でまってて。私いまから帰る準備するからさ」
メガネ女子は背の高い女子の言葉を受けて、片手をフリフリしながら教室を先に出ていく。
「あぶない、あぶない。危機一髪だったわね。気づかれないようにしないと。だって、私の本命は貴女、だものね。ネガネのきみ」
背の高い女子は、大事そうにスカートのポケットから取り出したスマホの画面を再表示する。そこには、隠し撮りした可愛い姿のメガネ女子が写っていた。
(了)
危機一髪 ぬまちゃん @numachan
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