出オチ危機一髪

大黒天半太

カチャトーリ・グランデオスコーリタ曰「コミュニケーションとは、受け取る情報と与える情報の等価交換だ」

 一つの情報には発信する方とする受信する方がいて、その価値はそれぞれで異なる。得られた情報の価値と、それを出した人物にとってのその情報の価値は等価でない。


 等価だと思って報酬としたこちら側の情報も、相手が引き合わいと思ったならば、情報交換の結果を不満に感じ、次回は価値が高いと思う情報は出して来ないだろう。

 逆に、こちらの提供した情報の価値が相手にとって高ければ、感謝され、恩に着せることもでき、次の取引に繋げることも可能かもしれない。


 自己アピールというか、自分の出自とか来歴ってヤツは、他人に自分をわかってもらうために、コンパクトにまとまっていて、インパクトがあって、分かりやすいのが良い。


 自分に対して、どういう印象なりイメージなりを持って欲しいのか、コンセプトが明確に固まっていて、さらに自分への悪いイメージや先入観を予防的にインタラプトできる構成であれば申し分ない。



 この世には、俗に、『出オチ』というものがある。


 舞台に出た瞬間、幕が上がった途端に笑いが取れる、出たそばからオチがついている、そういう登場人物キャラクターや、舞台設定シュチエーションのことだ。

 これは往々にして、登場の瞬間、状況説明や名乗りや自己紹介こそがクライマックスであり、その後の物語は、ジリ貧と言うのも痛々しい状況になってしまうことも、少なくはない。


 「少なくはない」は言い過ぎかもしれない。


 『ジリ貧』ってヤツは、時間的に『まだ』、状況的に『その場』に踏みとどまれる、

自分の立場としての『居場所スペース』がそこにあるということで、何らかの一縷の望みが残っている状態を指している。


 それより痛々しい状況と言えば、もう夢も希望も無い、身も蓋もない状況を示しているし、言ってみれば『絶望的』の婉曲表現でしかない。


 カチャトーリが置かれた状況は、端的に言って、極めてマズイ、絶望的なものだった。


 「私は、今回の全権を任された王宮魔法官カチャトーリ・グランデオスコーリタだ。各隊の指揮系統と任務は現状を維持したまま、私の下へ現況を報告せよ。情報の統括と指揮体制は、その後指示する」


 翻訳すると『王様に、お前が事件を責任もって解決して来いって言われた、王国に雇われた魔法使いのカチャトーリです。なので、現在の状況を教えてください。取り敢えず、今やってることは続けてもらって、変更が必要なような項目がわかったら、その都度、指示連絡を出します』という、ちょっと上から目線の物言いだが、中身は当たり前のただの業務連絡だ。


 さらには、この初っ端の挨拶に、

 『事案の詳細を把握してないのにも関わらず、現場指揮官です』と自信満々に口にするというありがちなツッコミどころと、

 『失敗しても責任取るのは私だし、抜け駆けしてもそいつの手柄にはしないから、とりあえず全員頑張って、全力出してね。失敗したら、私がその結果は全部被るけど、足引っ張るような真似したら、そいつらは私と道連れ共倒れだよ』というあんまり穏当とは言えないメッセージを滲ませている。


 無名の王宮魔法官がいきなり出て来るとなると、何者かと身構えられ、調べられ、調べた先の相手方によっては、悪意のある情報しか入らないこともある。


 いや、私のことなど放っておいてくれ、『只の』『無名の』『王宮に仕える』羽目になっただけの『公職(官)の』魔法使いでしかない。


 それより、目の前のコレ、なんとかできない? いい考えのある人は遠慮しないで言ってね。

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出オチ危機一髪 大黒天半太 @count_otacken

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