惨劇
とある村外れにある一軒家。周りに家などなくあたり一面草原だった。踏み続けられたのか人が通れるほどの道が一本、遠くに見える村に続いている。
家の前には雑に草を払った庭があり、井戸もある。
一人の少女が木で作った不器用な剣を振り回していた。無邪気に振るう剣を木の杭にあて続ける。長く続けているのか杭は既にボロボロで今にも割れそうだった。
「カタネ〜。ま〜た学校サボって剣の練習してんのか」
「だって〜。私魔力無いんだよ? どうして魔法の勉強なんかしなくちゃいけないの?」
「確かに……て言うかボケ」
「いた!」
少女より一回り大きい少年は持っていたイノシシの牙を折り軽く頭を叩く。少女……カタネは頭を抑えながら不満そうな目を少年に向ける。
「う〜〜。ソル兄だって学校行ってないじゃん」
「俺は行ってないんじゃなくて、卒業したの。いわゆる飛び級ってやつ」
「ずる〜い! 私だって直ぐに飛び級して卒業する!」
「はいはい。じゃあ剣の練習としてイノシシを解体しようねぇ。そうすりゃサボったこと母さんたちに言わないでやるよ」
「ぶー」
頬を膨らませるカタネ。カタネは家に戻りナイフを研ぐと血抜きをしイノシシを解体し始める。
「解体って剣と全く切り方違うのに練習になんないよ」
「なるなる。実践積めばやっておいて良かったと感謝するぞ〜?最も、まずは卒業しないとな」
「あ〜ソル兄もつまみ食いした〜! 共犯だ共犯だ〜!」
「どうせバレない。さて、つまみ食いはこれまでにして解体したら保存頼むぞ。俺は他の獲物で村の皆から色々と交換してもらうから」
「は〜い」
ハンターは狩りをする。その妹は解体する。
兄妹手についた血の匂い。それは家族愛の証であった。終わったら匂いを落としたその手で帰って来る両親と食卓を囲む。それがここの家族の日常であった。
血の匂いが落ちないほどその手が染まった時、それは覚悟の現れか、恐怖の露出か。その時がくるのは決まっていた。
「やぁ、こんにちは。私はアルバート。魔力の無い君達に用があってきた」
笑顔で語りかける黒い礼服に身を包んだ吸血鬼。ソル兄よりも一回りも二周りも大きいその存在はカタネにとって恐ろしい存在だった。本能が語りかける。逃げろ……と。それを恐怖心が縛り上げる。
「なに、怖がることは無い。私は君達に痛い思いも怖い思いもさせないよ…………ね」
その瞬間、吸血鬼の両腕腕から出てきた血がカタネを襲う。
ボタボタボタ……血が滴り落ちる音がする。それはカタネの腕にかかり手を紅く染めていく。
「あ……あぁ………」
「………!? まさか剣技だけで私の吸血鬼の血を切るとは……」
カタネの前に立ち剣を振り下ろしたのはソル兄。液体で自由に操れる血は普通は切れない。だが切った。それほど彼の技量は高かった。
けれど剣は一つしか無い。切れたのは左の腕から出てきた血だけだった。
「ソル……兄……」
ソル兄の肩を血が貫き、そこから血が吹きこぼれる。
「おい……妹に何しやがる」
「まさかここまでの腕のものがいるとは。勿体無い。回復をさせなければ」
アルバートは感心した様子で対象をソル兄に変える。
ソル兄は肩を貫かれたにもかかわらずその腕を振りアルバートの腕を切る。
「!? 血鎧が豆腐のように……君達は兄妹のようだな。妹の方も才能がある可能性が……どちらもほしい!!!!」
「逃げろカタネ」
アルバートは笑いながら自身の血を解放し殺しにくる。その光景にわかっていても足が動かない。それを横目にソル兄は大きく息を吸い全身全霊に叫ぶ。
「逃げろ!!!!!」
「あ……うわあああああ!!」
カタネはその場から立ち上がって逃げる。
壁にぶつかる。転びかける。ちゃんと走れればもっと早く逃げられるはずなのにカタネの足はどちらも前に出ようとして思ったよりも動けなかった。
壁に手を付いて体を支えようとした時、滑って転ぶ。
「いた!」
カタネは、手をぶつけて見てしまう。兄の血で染まった手を……
それが酷く彼女を冷静にさせた。同時に飾ってある父の刀。
私も戦えば勝てるかな。私だってずっと剣を振るってきた。
「ハァ……ハァ……」
酷く息が荒かった。酷く震えていた。
戦え……戦って勝つんだ。
カタネは立ち上がり手を伸ばす。
扉を上げて全力で逃げ出した。
何で! なんでにげだすの?! かたなをもっていっしょに! いっしょにたたかって!
少女は泣きながら逃げ出した。ただ必死に。
やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ!!!
ソル兄がしんちじゃう! しんじゃう!!!
たたかえ! たたかえ! たたかえ!
昔の夢だ。私は結局逃げ出した。あの後誰かに保護された時、『助けて!!!』と懇願した。結局心と体の矛盾は……私の本心の弱さと恐怖心が生み出した、動かなかった体を動かす為の自衛心だった。
カタネは目を覚ました。
「………」
天井から空が見える。少しの振動で瓦が顔の横に落ちてくる。
棚は倒れ、用意した手記や書物は滅茶苦茶に散乱し、扉や壁は壊れていた。畳に倒れている自分はたまたま瓦礫に巻き込まれなかったようだ。
頭が痛くて手で抑えながら上半身を起こす。濡れてるなと思い手を見てみると掌に血がついていた。
意味不明で役立たずと追放された俺のスキル【鎮魂歌】が死者から力を貰えるチートを超えた最強スキルだったのでSランクパーティで人生謳歌します。戻ってきてほしい? 無理だよ。ギルドから追放されたじゃん。 Edy @sakananokarumerayaki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。意味不明で役立たずと追放された俺のスキル【鎮魂歌】が死者から力を貰えるチートを超えた最強スキルだったのでSランクパーティで人生謳歌します。戻ってきてほしい? 無理だよ。ギルドから追放されたじゃん。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます