かわいいのカタチ

 可愛いは作れる。仕草や表情を意識し、相手に適度にボディタッチをしながら時には弱さを見せ、甘える姿でアピールする。


 例えばいわゆるぶりっ子というのを再現すればそれに弱い男は可愛いと思ってくれるだろう。


 顔の造形が良ければそれはもう勝ったも同然だ。


 顔の良い人間が裁判で減刑されるような事例があるように見た目の良さは罪すら消してみせる。


 しかしそれはその人の「可愛さ」と呼べるのだろうか。


 カナデからすれば答えは否、だ。


「……いた」


 アイはたいまつ片手に、洞窟の空間を照らす。


 スライムが一匹そこにいた。カナデの可愛らしいマスコット的なイメージとは全く違う、人をまるごと取り込んで溶かしそうな見た目だった。


 アイは短剣を引き抜く。それは通常のものではなく円錐状の刃を持つスティレットという鎧通しの武器だった。


 スライムは物理耐性、魔法耐性共に高いという話だった。貫通力の高い攻撃や魔法で「コア」を破壊することが攻略方法だと。だからアイはスティレットを持ってきたのだろう。


「カットレンジ」


 両足に魔力を込めて、アイが加速の魔法をかける。カナデにはどんな理屈かはわからないが、視界がぐっと狭まり、スライムに急接近した。


 風を切りながら、カナデはスティレットを突き出す。


 アイの一撃は、透明なスライムの体を貫いて、コアに突き刺さる。そのまま、コアがひび割れて砕けた。

 スライムの体が溶けて、砕けたコアが地面に転がる。


「……や、やった」


 拳を握りしめて、アイは呟く。


 カナデはそれを見て、改めて思う。


 一生懸命に何かに打ち込む姿はやっぱり可愛い。




  ○●○●




 冒険者カード。

 現代でいう運転免許証のようなものだろうか。白いそのカードを、ニヤニヤと眺めながら、アイはベッドを転がっている。


「よかったね、昇格できて」

「うんっ! はぁー夢みたい」


 胸にカードを置いて深呼吸するアイ。


「ありがとう」

「……何が?」

「わたし、カナデさんがいなかったら何にもできなかった」


 手を天井へ伸ばして、虚空を掴む。


「冒険者としての能力だけ考えてて、スキルを活かす方法なんて全く考えてなかった。わたしが可愛くなれるわけがないって、怖くて、逃げてた」


 目を細める。


「カナデさんに可愛いって言われて、嬉しかったんだ。自分の大きな目が嫌いなはずなのに、カナデさんに髪を切ってもらって変わった自分の姿を見て、いいかもって。わたしだけだったら、絶対に思わないこと、やらないこと、たくさん教えてもらった」


 だから、とアイは改めて口にする。


「だから、ありがとう」

「どういたしまして」


 お礼を言われたいからしたわけではない。自分の趣味で、アイを可愛くしたいから、ただそれだけだ。


 けれど、お礼を言われるのはやっぱり心地いい。


「ねえアイちゃん」

「なに」

「おれ、ルビーって可愛いと思うんだ。言葉の響きとか」

「え」

「欲を言うなら紫色トリスティンのカードが見たいなぁ、きっと可愛いんだろうなぁ」

「えぇー!」


 驚いてあたふたするアイを、カナデは笑う。


 これからもアイと、そのユニークスキルにとことん可愛いというものを思い知らせてやろう。


 みんな違って、みんな可愛い。


 カナデはそう思いながら、この異世界を生きていく。






――――


ここまで読んで頂いてありがとうございました。


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紫雲



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スキル:「かわいいは正義」でどう戦えっていうんですか!? 月待 紫雲 @norm_shiun

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