第9話 本当の強者
『クロヌイさん!奴からは逃げられません!今ここで交戦しましょう!』
『お前やけに強気だな。』
『今の私は国家魔法組織に背いた反逆者です。失う物など何もありません!』
『そうか、じゃあ早速そのお客を相手してやってくれ。来るぞ。』
クロヌイが警告するとちょうど真上からあの男がズドンっと降りてきた。
『鬼ごっこは終わりにしないか?兄ちゃん。』
『鼻から遊んですらねぇよ。』
『ケノン幹部ソニエッタ!私がお前の相手だ!』
アノレは大声で訴えたが国家魔法組織幹部のソニエッタは見向きもしなかった。
『ホラこう言ってるだろ、お前の相手はこの魔法使いだ。』
『兄ちゃんは俺と戦いたくないのか?』
そう聞かれクロヌイは腹を抱えて笑った。
『ダハハッ!!えっ⁈俺が⁈お前と⁈』
『あれ?俺いまおかしい事言ったか?』
『あー…今日はよく笑える日だなぁ。最高だわ。で、なんだっけ?俺がお前みたいな三下と戦いたくない理由だっけか?』
『ほう…俺が三下ね…』
『納得できないか?』
ソニエッタは少し目を細めた。
『いや…合点がいく。兄ちゃんが言う通りだ。』
『なら双方戦う理由がなくなったな、そこ退いてくれ。』
『それとコレとは話が別だ。』
ソニエッタは高密度の炎熱系魔法を詠唱破棄して撃ち込んできた。
アノレは防御魔法を使い、クロヌイは壁やその辺にある木材などを盾代わりにして魔法を交わした。
『おいおい兄ちゃん!デカい口叩く割には俺の攻撃を避けるだけで手一杯そうじゃねぇか!』
『よく喋る奴だな。』
『俺は喋るのが大好きだからな。戦ってる相手とならば尚更だ!』
『やっぱり三下だな。』
クロヌイはソニエッタが撃つ魔法のインターバルを見抜いて一瞬で間合いを詰め、ソニエッタの顎の真下から掌底打ちを喰らわした。
ソニエッタの舌が地面にポトリと落ちた。
『ッイヘェェ!!』
『アノレ!』
『裏植物魔法!毒林の産声!』
突然、悶絶しているソニエッタの周りに真っ黒な木が生えた。
アノレが使用した「裏植物魔法毒林の産声」はケノン内部の魔法使いの間でしか知られていない森林系魔法である。この魔法を使うと対象生物の足元に苗木が出現し対象生物の魔素を吸収する。苗木は成長すると徐々に黒い木になり枝先に1つの実がなる。その実が熟れて地面に落ちて割れると中から対象にのみ効果が絶大な有毒魔素が再度足元から注入される。そして、この魔法は発動してから完了するまでの時間が僅か0.7秒である。
『クロヌイさん!ソニエッタから離れて!』
『言うのが遅ぇよ!』
クロヌイも毒林の産声の魔法範囲に入ってしまっていたのだ。
バタンっ
しかし、地面に倒れたのはソニエッタだけだった。
『えっ??』
アノレはクロヌイが倒れずに立っているこの事実が信じられなかった。
『クロヌイさん!!何ともないんですか⁈』
クロヌイは無言のままアノレに近づいき、顔面を殴った。
『俺に何した?』
『違うんです!!クロヌイさんなら自分で察して私の魔法を避けると思ったんです!』
クロヌイはもう一度アノレの顔を殴った。
『次はねぇぞ。俺に何をした?』
『魔素を吸い取って有毒魔素に変えて再度体内に戻す魔法を使ったんですが、ソニエッタを見ての通り効能は直ぐに現れるはずなんです!なのにクロヌイさんは生きてるんですよ!!』
『あー…そういう感じ。』
それを聞いた途端にクロヌイの表情が柔らかくなった。
『俺は魔法使いでも暗殺者でもない。あまり俺の実力を買い被ってるとお前が痛い目に遭うぞ。』
『はい…私も調子に乗ってしまいました。本当にすいませんでした…』
『さっさとゼルスタインのとこ行くぞ。』
◇◇◇◇◇
『いい?魔法を直接分析するんじゃなくて、その魔法使いの魔素を分析するんだ。』
ゼルスタインはルサに解析魔法を教えている最中だった。
『魔素ね!マソ♪マソ♪』
ルサは鼻歌を唄いながら基本的な解析魔法に取り組んでいた。
『コツを掴むのが早くてコッチも助かるよ。じゃあ次は…』
コンコン
『ん?誰か来たっぽいよ。』
ルサがノックの音に気がついた。
『誰だろう?』
ゼルスタインは立て掛けただけのドアをどかして外を確認した。
『夜分遅くにすいません、ゼルスタインさん。』
『クロヌイさんじゃないですか、どうしたんですか?』
『ちょっと状況が変わりまして。』
『そうなんですね…とりあえず、話は中で聞きます。』
『あと、もう1人いるんですがいいですか?』
『もう1人ですか?』
クロヌイが後ろを指さすとそこには息を切らしながら走ってくるアノレの姿があった。
『アイツ…分かりました。クロヌイさんは先に入って待ってて下さい。』
クロヌイはゼルスタインに従った。
『ハァハァ…クロヌイさん…』
『違法入国してまでこんな事するなんて、お前も落ちぶれたなアノレ。』
『ぜ、ゼル!』
『ケノンは嫌になったか?』
『うるさい!今はそれどころじゃないんだ!』
『兄との会話より大事な事があると?』
『あるともぉぉぉ!!!』
天空から大きな声が聞こえてきたと同時にドスンと人影が落ちてきた。
『さてさて!さっきはわざとシカトしてたけど、殺されたとなると話は別だ!今からキミを殺し返すぞ!アノレくん!』
人影の正体は先程アノレがとどめを刺したはずのソニエッタだった。
『…っ!!なぜ生きている!!』
『魔法だよ、マ・ホ・ウ。』
『ならもう一度屠るまでだ!!裏魔法…』
ドシュっ!
その瞬間、アノレの胸部に穴が空いた。
『学ばないねぇ〜アノレくん。一回ならまだしも2回も撃ってる魔法を更にもう一回撃ってこようとするなんて。』
アノレは地面にバタリと倒れ、攻撃を受けた箇所から血が溢れ出した。
『助けないのかい?』
ソニエッタはニヤニヤ笑いながらその様子を黙って見ていたゼルスタインに話しかけた。
『お前、ゼルスタインだよな?知ってるぜ!』
『君みたいな奴に名前を覚えられてるくらい僕は有名なのか?』
『超有名人さ!魔法使いでアンタの名前を知らない奴の方が少ないくらいさ!!』
『ふーん。』
『お前も気の毒だよなぁ…こんな出来の悪い弟がいちゃお前の功績に泥を塗るだろ。』
『まぁ、あながち間違いではないな。』
『だろ⁈そうだ!せっかくならお前が弟の席に就けよ!今なら優遇してやるぞ!』
『結構、それに君喋り過ぎ。』
ソニエッタの頭上に一本の稲光が刺し落ちた。
ドガァァァァン!!!
『へぇ、以外に速いんだね。』
間一髪でゼルスタインの攻撃をかわしたソニエッタは冷や汗が止まらなかった。
『い、今のは…』
『準2級指定魔法、降光の槍だよ。魔法学校でもやっただろ?』
『嘘をつくな!!その魔法はこんな高威力じゃねぇ!!』
『本当さ、疑ってるなら僕の今消費した魔素量を見てみなよ。』
『な、舐めやがって!!』
『何でいちいち感情を声に出すかなぁ。』
再びソニエッタに降光の槍が撃たれた。
ズドンっ!!
避けそびれたソニエッタに降光の槍が直撃しソニエッタの体は上下真っ二つになった。
ゼルスタインはソニエッタの方にゆっくりと歩み寄って問いかけた。
『生きてるんだろ?』
ゼルスタインが質問したがソニエッタはピクリとも動かなかった。
『まぁいい、君って自分の体をヒトデみたいに切り離した箇所からまた新しい個体を作るんだろ?』
『ッチ…バレてたのかよ。』
上半身だけになったソニエッタは口を開いた。
『君の身体だからもう分かってると思うけど君はもう再生できない。降光の槍の余力魔素を使って切断面に凍結魔法と形骸化魔法を施したからね。』
『アンタ…やっぱりすげぇや…』
『君も少し静かだったら、もうちょっと善戦できたのにね。』
『なんだ善戦か…勝機はねぇのか?』
『あるわけないじゃん。』
『ケッ!冷たい野郎だ…』
『こんな姿になってもよく喋るね。』
『喋るのが好きなんだ俺は…そんな事より弟のことすまねぇ。色々悪口も言っちまった…』
『心配しないで、アイツは完治済み。』
『はぁ⁈アンタって奴は…回復魔法も詠唱破棄できんのかよ…俺なんて詠唱破棄して使える魔法5個しかないんだぞ!』
『まぁ、普通の魔法使いならそれで十分だと思うよ。』
『おいおい…コレでもケノン幹部だっつーの。』
ゼルスタインはソニエッタの魔素量が徐々に少なくなっている事に気がついた。
『墓とかいる?』
『生きてる奴にする質問じゃねぇだろ。』
『ても君はもってあと1分だ。』
『自分の体だ、自分が一番分かってる。』
『そうか…』
静かにソニエッタから離れ、ゼルスタインは倒れているアノレを担ぎ家の中に戻ろうとした。
『最後に一ついいか?』
ソニエッタがアノレを呼び止めた。
『なに?』
『詠唱破棄魔法…どのくらい出来んだ?』
『最後にする質問じゃないだろ。』
『いいから答えろ!』
ゼルスタインはアノレをヨイショと担ぎ直して答えた。
『全部さ。』
そう言ってゼルスタインは家の中に入って行った。
『アレが…天罪魔導師ゼルスタインか…』
ソニエッタは朝日を浴びながら息絶えた。
異世界に闇稼業を持ってきた男がかなりヤバい奴だった… きぬま @kinuma_second
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