分からないままで

@harunatsuakiumi

第1話

 誰にも分からないことがある。

それは、私の気持ちである。

皆は「きっとこうするに違いない」

と憶測で物を言う。

人の可能性を自分の少ない人生経験で

勝手に噂したり、決め付けたりする他人が沢山いる。


一体絶対この人達は私の何を知っているのだろうか?

人間の気持ちなんて本当に分からない。

嘘も方便だったり、行動と心の中は違うことは良くあることだ。


ほら、小学生の男子がよく好きな女子にワザと注目を浴びるために意地悪したりすることもそうである。


逆に本当は大嫌いで苦手なのに怖くて必要以上に優しくしてしまったりすることもそうである。


だから、本当の気持ちなんか誰に分からないのかしれない。


 「早くおいでよ!遅いよ!」

空也はいつも私を急かす、まるで寝坊して遅刻した生徒に電話をする先生のようだ。

「わかった!今、駅に着いたばかりだから直ぐ着くわよ!」

喧嘩ごしに話をするところは私の悪いところだ。

急ぎ足で公園に着いた私はキョロキョロと空也を探した。

今日は二人で桜の花を写生する予定だ。

私と空也は幼稚園時代からの付き合いである。


 「海花!遅いよ!」

「ごめん!ごめん!」

私と空也は男女の仲を超えた大親友である。

と私は思っている。

空也がどう思っているのかは全く分からない。

二人とも同じ大学の美術部である。

二人きりの時もあれば、部活の仲間と一緒のこともある。


 10年後

私は中学校の美術教師になった。

空也は文房具を扱うメーカーに就職した。

今でも時々会うが二人とも彼氏や彼女が居たこともあったが、今は互いに独身である。


 20年後

二人ともそれぞれ職場の同僚と結婚した。

子どもが生まれ会うことも無くなった。


 40年後

 それぞれ、会社を退職して子どもも自立した。

「ねぇ、海花!俺は本当はずっとお前のことだけを好きだっただよ!」

久しぶりに大学時代の美術部の仲間で集まった。空也は酔いに任せてそんなことを言ってきた。本気なのか、リップサービスなのかは誰も分からない。

「有難う!冗談でも嬉しいわ!」

私も酔いに任せて

「本当は私も空也のことを男性として好きだったと言うことに今気付いたわ!」

と本当は言いたかった。


私は優しい夫が待っている家に真っ暗闇の空の下、軽やかな足取りで帰っていった。


人生なんか誰にも分からない。

正解なんか誰にも分からない。




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