後編
元から薄暗い空が更に暗くなった頃。
僕達は中型スーパーから離れた所に車を止め、その中から様子を伺っていた。
慎の車はワゴン車で、僕のよりたくさんの荷物を運べる。
それで作戦に必要なものは全部積んできた。
「よく考えたらあのスーパー、ネオンが点いてるね。電気来てるのかな?」
そのおかげで暗くても様子を見れている。
「さあな。ゾンビがいるんだから魔法だと言われても納得できそうだ」
慎は苦笑いしながらそう言った。
「ねえ~、なんであたしはお手伝いしちゃダメなの?」
アヤちゃんが頬を膨らませて言う。
「いや危ないからここで留守番しててよ」
「そうだよ。アヤちゃんはここで焚き火してお湯沸かしといてくれよ。後で温かいお茶飲みてえしさ」
慎がアヤちゃんの頭を撫でて言うと、
「う~、うん」
まだ不満のようだが、言うとおりにしてくれるようだ。
そしてゾンビ達がスーパーに入っていくのを見た後、作戦を開始した。
「てかこんなのよくあったね」
「ああ。もしかするとあそこ、ヤバい会社だったのかもな」
慎は予めゾンビ達がいない時間帯を調べ、件の会社で見つけたダイナマイトをいくつか仕掛けたそうだ。
けど工事用じゃ全部は無理なんじゃって聞いたら、試しに十階建てのビルに投げつけたら木っ端微塵に吹き飛んだって……何それ?
「破片が飛んできたけどなんとか避けてさ、いや危機一髪だったよ」
「僕だったら死んでたな。ってそろそろ」
「ああ、行くか」
僕達はスーパーの外側四方にダイナマイトを仕掛け、ガソリンも撒いていった。
これで外から爆発させれば、中にあるダイナマイトも連鎖で爆発するだろう。
それで全部やっつけられたらいいが、もし残った奴がいたら火炎放射器でという手筈だ。
「よっし、やるぞ」
「うん」
慎が長めの導火線に火を点けると同時に、僕達は一目散に走り出した。
数十秒後、後ろから大爆音と同時に爆風が起こった。
「予想以上だね」
「……ああ、持ってくる途中で暴発してたらと思うと、ゾッとするぜ」
僕達はあかあかと燃え盛るスーパーを見つめていた。
あれなら間違いなく全滅だろとなり、アヤちゃんの所に戻る事にした。
「あ、おかえりなさーい」
焚き火の光に照らされたアヤちゃんが手を振って迎えてくれた。
「ただいま。上手くいったよ」
「まあ爆発音聞こえただろから、分かるよな」
僕達がそう言うと、
「うん、けどあのゾンビさん達、なんか可哀想だよね」
アヤちゃんは少し俯いて言った。
「え、どうして?」
「もしかしたら、町の人がゾンビさんになったんじゃないかなって」
「……あっ!?」
そうか、もしかすると……。
「くっそ。そこまで考えてなかったぜ」
慎もそう言って項垂れると、
「もしそうだったとしても、誰かを傷つけないで済んだと思ってくれるよ。きっと」
アヤちゃんは少し大人びた雰囲気でそう言ってくれた。
「うん、ありがとう」
僕は思わず涙が出そうになったのを堪え、頭を下げた。
「ありがとな。しかしアヤちゃんって小さいのに、しっかりしてんな」
慎がそう言うと、
「あたし十歳だよ。小さくないもん」
アヤちゃんが頬を膨らませて言った。
「え、そうなのか?」
慎が僕の方を向いて聞いてきたが、
「僕だって今初めて歳聞いたよ」
てか十歳にしては小さすぎ……やっぱいい暮らししてなかったのかな。
「ふん、お茶入れたけどもうあげない」
アヤちゃんはそう言ってそっぽを向いた。
「いや悪かったって。な」
「ごめんね。あ、僕用のチョコレートあげるからさ」
「うん!」
あっという間に機嫌を直してくれた。
その日は慎と交代で見張りをしながら夜を明かし、ゾンビが出てこないのを確認してから町を出発した。
そして今に至る。
――――――
「なあ大悟、もしかするとこれから先もあんなのがいるかもしれねえな」
慎が僕に話しかけてきた。
「そうかもね。ダイナマイトは暴発が怖いから置いてきたけど、火炎放射器はあるからなんとかなるかな」
「ああ。けどそれも効かねえような奴だったら……」
「逃げるしかないよ。いや誰かがいて危なかったら別だけどさ」
「だよな。なんとか助け出して一緒にだよな」
「うん」
そうだよ、あとどのくらいの人が残ってるか知らないけど、その人達と一緒に……。
「お兄さん、前見てる?」
「え?」
ぼうっとしてたのか、いつの間にかT字路まで来ていた、って。
「うわああっ!」
慌ててブレーキを踏むと、なんとかガードレールスレスレで止まった。
「危機一髪だったね~」
アヤちゃんは笑いながら言うが、
「おい、危ねえだろが!」
慎は怒鳴り声をあげてきた。
「ごめん、運転代わって。ウトウトしてたかもだし」
「分かったよ。後ろで少し寝てろ」
「うん」
席を代わって慎が運転し始めたと同時に、僕は夢の中へ行ってしまった。
「気にしなくていいよ、あのゾンビ達は人の不幸をお金儲けに使おうとする悪い人達だったんだから……ぬふふふ」
アヤは小声でそんな事を言う。
「……お兄さん達のようにさ、身を挺して人を庇い、見たこともない人達の為でもなんとかしようとする人ばっかりだったら、あたしは……だったかも」
最後は少し涙声のようにも聞こえた。
危機一髪、その時に 仁志隆生 @ryuseienbu
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