第32話 面白くない
「調査の程は?」
「はっ。カリキュラムに変更が加えられ始めたのは6年前からです。効果が現れ始めたのはおよそ3年前といったところでしょうか。卒業時の魔法使いレベル認定がガクリと落ちています」
「6年前ねぇ。時期だけ考えれば帝国との戦争がきっかけってわけじゃなさそうか」
「はい、元々忍ばせていた動きが加速された要因にはなり得るかとは思いますが。動き始めたのはかなり前からでしょう」
カリキュラムに変更が加えられ始める。
レベルを落としたいと考えている人間が、カリキュラムに対して口を出せるようになる立場に着くまでに必要な時間だってあるだろう。
6年前から表面に出始めたってだけで、順当に考えるのなら10年前くらいが妥当なタイミングだろうか。
「10年前っていうと……俺が極魔に入隊した時期だけど」
「懐かしゅう御座いますね。当時からルージュ様は異彩を放っておられましたし、よく覚えております」
「そりゃいきなり喧嘩吹っ掛けられたんだ。俺だって忘れたくても忘れられないよ」
「二人だけの思い出、ですね」
なにやら頬を染めてるエンリだけど、そんな甘酸っぱさは欠片もなかったよね。
エンリと俺は極魔入隊の同期だったりする。
今からでは想像もできないが、入隊からずっとお互いを高めあい極炎の座を競ってきたライバルだった。
「ルージュ様?」
「……いや、訂正。今もなお、だな」
「はい?」
「なんでもないよ」
未だにエンリは俺のことを極炎様と呼ばない。
周りの目ってやつがある時は流石に極炎と口にはするが、その時は大体能面のような顔しながら言っている。
それは今も極炎という座から俺を引きずり落そうという意思に陰りがない証左だ。
あるいは、俺に媚びへつらうかのような態度、姿勢にしてもハニートラップの一環で、これで油断でもしてくれたら儲けものなんて思っているのかも知れない。
「左様ですか。ともあれ、具体的なカリキュラム変更内容などについてはわかりやすくまとめたものをご用意しますのでしばしお待ちを。加えて、フォルトゥリアが生む競争に関してですが」
「ああ。教師たちの反応はどうだ?」
「一先ず協力は得られるでしょうが、消極的なものになりそうです」
「消極的? いやまぁ、表立って反対されないのならどういう形であれ構わないんだけど」
そりゃあ全面的に賛成されてなんでも御心のままになんて言ってもらおうなんて思ってもみなかったけども。
生徒にとって魔法使いの成功を収めるための入り口がエスペラート魔法学院なら、教師たちにとってはここで優秀な生徒を育てるという実績を挙げることは、国の魔法機関へ名前を売ることだ。
そう言った道に乗りたいと願う人間はまだまだ多いと思っていたんだが。
「功名心、あるいは出世欲とでも申しますか。教員たちに無いというわけではありませんが、指導管理部のメジール・パラトリスという男が国のことは国にと主張しておりまして」
「メジール・パラトリス……聞かない家名だな。国のことは国に? 自分だって国の一員かつ教員のくせになんとも無責任というか、放任的なことを言う」
「要約すれば、極水様がお認めになられたことに我々が余計な横やりを入れるわけにはいかないと言った旨の意見が出まして。多くの教員たちの怯え腰を招いています」
「……物は言いようではあるけど。逆手に取られた形だなぁ」
確かに見方によれば国の決定に一枚噛むのは勇気のいることかもしれないが、極水を甘く見られているみたいで少し腹が立つ。
現場で起こったいかなることにも責任を持つ女だぞ、あいつは。
「間違いなく学院のレベル低下に一枚噛んでいると思われます。ですが」
「処理したとしてもトカゲの尻尾切りになるか。こりゃバックは相当大きいな」
「深い部分に食い込んでいるとも言えましょう。力及ばず申し訳ありません」
「大丈夫だ。さっきも言ったけど最低限反対されないってので十分だ」
謝るエンリに気にするなと言いつつ、だが。
エンリのポジションで大胆な動きっていうのは難しいだろう。
結局、俺というかフォルトゥリアを上手く活かして学院全体へと影響を及ぼしていかなければならないってのは確定だ。
「しかし、改めて競争、ですか」
「当たり前だけど極魔基準の競争をするわけじゃないからな?」
「それはもちろん。と言いますより、アレは極魔内でしか実現できません。むしろ他に出来る組織や場所があるのなら教えて頂きたいほどです」
「まぁ、なぁ……」
俺とエンリがしていた極炎の座の奪い合い。
イスに座ったのは俺だったけど、そこから先はサイキョウの奪い合いだった。
「今でも鮮明に思い出せますし、何なら獄炎隊だけならず極魔の語り草になっておりますよ? 極風様とルージュ様の最強競争は」
「刺激になっているのなら何よりだけど、思い出すと身体の至る所が痛くなってくるから勘弁してくれ」
前最強は現最恐。
年齢的なものだったり、極土との結婚だったり色んな要素があって俺が最強と呼ばれることにはなったが、未だにちゃんと最強を奪えたって実感はない。
「くすくす。はい、かしこまりました」
「あーもう、ほんとにやめてくれ。何にせよ、フォルトゥリアは挑戦者求ムって状態になるから。学院公式ってことでお触れは任せたからな」
「はい。承知いたしました」
極炎の天才魔法使いは、回復魔法に憧れる~英雄は国を二度救う~ 靴下 香 @nicemell
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。極炎の天才魔法使いは、回復魔法に憧れる~英雄は国を二度救う~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます