パパ上様日記 ~挿されることは、快感である~
ともはっと
挿し込む
身動きが取れないほど狭い場所。
そこに私は追いやられて、ただただその場に立ち尽くす。
そんな私に迫る銀色に鈍く光る刃。
それは、間違いなく私を殺傷するに足る、剣。
動けないから冷静でいられるのかもしれない。言い方を変えると、諦めているだけからかもしれない。
だからこそ、その剣が、中世地中海、帆船という狭く障害物の多い中で戦闘をすることに優れた、海賊が使っている印象深いカットラスだなぁとか、そんなことを考えることもできたのかもしれない。
そのカットラスは、今か今かと、私に向けられ近づいてくる。
つぷり。と。
その剣が、私の穴に入り込んでいく。
思わず、その恐怖に、「ぁ」と小さく声をあげてしまう。
だけども、望んではいないけど刺さったことで生じるはずの痛みは私の体に訪れなかった。
そして、またもう一刀。
カットラスは探し当てては、ぷしゅっと、私の穴を犯していく。
また痛くない。
痛いと思えるのはいつなのだろうか。
また一刀、また一刀、と。
何度刺されても訪れるはずの痛みは、ない。
次第に私は、いつその一刀によって自分に痛みが訪れるのか、楽しみになってきた。
実際刺されれば痛い。おそらく死ぬ。
だけども。今私は動くこともできなければ、カットラスがずぶずぶと私の穴という穴に刺さっていくのをただ見ているだけなのだから、最後くらいは楽しんでもいいじゃないか。
そしてまた一刀。
私の穴がまた一つ犯されていく。たまらず、私の口から「ぁぁ」と声が漏れる。
いまだ訪れることのない痛みに、私の楽しいという感覚が昇華していき、次第に興奮へと変わっていく。
甘美で淫靡。
つぷりつぷりと、犯されていく私に、私は、浸食されて侵食されていく様に、蕩けていく。
いつ、いつ。どこで、どのようにして、私は私の穴を犯されそして痛みを抱くことができるのか。
穴はどんどんと塞がっていく。
気づけば、私の穴は、残すは一つ。
確定である。やっと痛みを感じることができる。やっと、やっと私は、その痛みを知ることができる。
溢れる感情。
私の感情も止まらなければ、私を犯す最後のカットラスも、止まらない。
やがて。
ぷす。
と、全てが、犯された。
「凄いね。最後まで刺せるとか、滅多にないんじゃない? すごい確率だと思う。壊れてるのかと思った」
「でも、刺して飛んだら負けなんだよね」
いや、違う。
正しくは、いや正しいというより、元々が、敵につかまって樽の中で縛られている海賊の仲間を助けるために、短剣でロープを切って救出するというゲームであって、飛び出させたほうが勝ち、のゲームだったはずだ。
「飛び出させたほうが負けのほうがしっくりくるにゃ」
「むしろそうじゃないんだってほうが驚きだけど」
「我が家では飛びさせたほうが負けルールにしよう」
「だったらさっきは最後に飛び出させた母さんの負けだね」
「負けて結構。最後まで挿し込めた奇跡に感謝さえ覚える」
そうやって楽しく遊ぶ我が妻と子達。
そうやって、本来のゲームの主旨を考え、そして自分たちでルールを作って楽しむのもある意味ありではあろう。
その、
黒ひ〇危機
「ままー、ほら、一緒にやるにゃー」
娘が私を呼ぶ。
ふん、仕方がない。ならば私も参加してやろうじゃないか。
きゅっきゅっと、最後に洗い終わった皿の綺麗さ加減を堪能して置くと、濡れた手を拭きながら私は家族に合流する。
「ってわけで、ルールもわかって我が家のルールも決まったことだから、次は飛び出させたら負けってことでいいな? 後、ままじゃなくて、ぱぱ、な」
父親のことをいつも「まま」と呼ぶ娘に呼ばれて共に座る。
私が参加していなかったから、次は私からスタートだ。
「次も最後までいくといいな」
「無理でしょ。きっと途中で飛ぶわよ。次も最後まで行ったらさっきの奇跡が霞むわ」
「いやいや、やってみせようよ、俺ら家族ならやれるっ!」
「どうでもいいとこで熱いなお前」
家族のやる気に、私もついつい笑ってしまう。
そして、さくっと、私の手によって、ゲームが始まった。
ぽーん。
黒ひげの海賊は、たった一度刺されただけで、空を舞った。
いつだって私は、負け犬さ。
「ぅぇぇぇ……」
「いや、最後までいくのも凄い確率だけど、一回目で飛ぶのも結構な確率じゃない?」
「いや、父さんはきっとわかってたんだよ。そこに挿したらとぶってこと。そうでしょ、父さん」
「あ、ああ……うん。そ、そうにきまってる、だろ? そんなのみりゃすぐわかるじゃないか」
そんな、家族の日常を感じながら。
今日も我が家は、
平和である。
パパ上様日記 ~挿されることは、快感である~ ともはっと @tomohut
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます