第5話 将来が心配だからっ!

「あー、よかったよ」


 貴樹がそう吐き出すと、美雪が笑う。


「だから大丈夫って言ったでしょ?」

「そうだけど、やっぱ不安じゃん? ……これも全部美雪のおかげだよ。ありがとう」


 まっすぐに美雪の顔を見て、貴樹がこれまで勉強に付き合ってくれた彼女に感謝の気持ちを伝えると、珍しく照れながら美雪は返した。


「……よ、良くわかってるじゃない。私がついてて、落ちるなんてあり得ないんだからね」

「はは、俺の睡眠時間は限界ギリギリだったけどな」

「それは貴樹の物覚えが悪いから。ふつーならもっと簡単に受かるでしょ」

「そーかもな。……でも感謝してる。美雪も市立の受験、頑張れよ」


 貴樹はこの中央高校が第一志望だったから、もう受験は終了だ。

 残るのは美雪の第一志望校の受験だけ。

 その彼女の今後を素直に応援したかった。


「頑張らなくても余裕よ。今ここで受けても受かるわよ。私を誰だと思ってるの?」

「はは、そりゃ美雪らしいな。でも病気したりするかもしれないからな。……あと、受験票忘れたり」


 貴樹が揶揄うと、美雪は眉を顰めた。


「ぶー、もう受験票忘れても受験できるって覚えたから大丈夫だもん」

「ははは、そうだったな。……帰るか? 昼飯奢るわ」

「え? やったぁ。――貴樹大好き!」

「なに心にもないこと言ってんだよ。ほら、行くぞ」


 美雪の軽口をさらっと流して、貴樹が歩き始めるとすぐに美雪が横に並ぶ。


(心にもない……なんてこと無いのに……)


 笑顔を見せながらも、美雪は心のなかでそうポツリと呟いた。


 ◆◆◆


 そして3月。

 美雪が受験した姫屋市立高校の合格発表に、貴樹も一緒に同行していた。


「余裕なんだろ?」

「もちろん」

「じゃ、なんで俺も見に行く必要があるんだ?」

「それは秘密」


 行くときの電車では、そんな会話をしつつも。

 前回の中央を受験した際には、美雪はただの滑り止めにも関わらず、見に来てくれたこともあって、彼女の応援の意味も込めて付き合うことにした。


 美雪は合格発表の時間までの間も、全く動じるようなこともなく、平然としているように見えた。


(本当に余裕なんだな……)


 ただ、単純に貴樹はそう思っていただけだった。

 そして――合格発表の時間がやってきた。


 受験票を手に、平然と掲示板を見ていた美雪は、自分の番号があることを確認してから、貴樹に笑顔を見せた。


「ふふ。やっぱ余裕だったよ」

「すげーな。倍率2倍くらいあったんだろ?」

「みたいだね。まぁ、関係ないけどね」


 自信満々に胸を張った美雪は、そのあと貴樹に続けた。


「――でも、市立には行かない。中央に行くって決めてるの」

「……え?」


 その話に、貴樹には俄には信じられなくて。

 第一志望校を蹴って、特待生とはいえ滑り止めの私立高校に行くというのは、普通では考えられない。


「市立が第一希望って言ってたよな? なんで?」

「んー、もとはそのつもりだったけど。まぁ、どっちでも良いかなって。どうせ中央でも特待生だし、それに――」


 美雪は貴樹の顔をじっと見つめた。


「……貴樹が高校でも苦労するの、目に見えてるからね。高校でも、この私が教えてあげないと」

「なんだよそれ……」


 そのために第一志望校を蹴って、自分と同じ高校に進学しようというのか。


「美雪の人生だってあるだろ? まだ考える時間あるんだから、ゆっくり考えろよ」

「むー、もういっぱい考えたよ。私は別にどの高校行ったって一番取れるんだからね。でも――」


 少し目線を逸しながら、美雪は続けた。


「――あ、あんたの面倒見ないと将来が心配だからっ! それだけよっ!」


【あとがき】


 どーも、作者です。

 取り留めのない短編ですが、もしこの作品だけを読んでくれている人がいたらいけないので、情報として。

 この話はあらすじにも書いている通り、

「俺がこっそりメイド喫茶に行ったら、何故か隣に住む幼馴染が毎朝メイド服姿で起こしにきてくれるようになった件」

 の、1年~半年前のことを書いた前日譚です。


 一応、この話だけでも分かるように書いたつもりですが、もしかすると本編を読んでいない人には??となる部分があるかもしれません。

 もし本編を読んでいない人で、興味を持っていただけたなら、そちらも読んでいただけると嬉しいです。

 https://kakuyomu.jp/works/16817330665716264340


 また現在、以下の作品も連載していますので、タイトル等で興味を持っていただけたなら、是非よろしくお願いします。


「借金のカタに侯爵令嬢の屋敷の使用人になった落ちこぼれの俺。え、俺も婚約者候補ですか?」

 https://kakuyomu.jp/works/16817330669402096631


 それでは、ここまで読んでいただいてありがとうございました。

 最後に、★レビュー、感想等残していただけると、更に嬉しく思いますm(_ _)m

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隣に住む幼馴染に、毎日受験勉強を強要されるお話。俺に睡眠時間をくれー! 長根 志遥 @naganeshiyou

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