第4話 ぷっ、なにその顔っ!

 美雪は仮の受験票を発行してもらい、無事に試験を受けることができた。

 そして、入試が終わった後の帰り、電車の中で振り返りをしていた。


「……貴樹の出来はどうだった?」

「うーん……。よくわからないな。そんな悪くないと思うけど、こういうって周り次第だしなぁ……」

「まぁ、そりゃそうよね。試験簡単だったら、みんないい点なわけだから」


 結局、合格ラインに達しているかは、自分の点数だけで決まるわけではないから、手応えがあったかどうかというと、正直よくわからなかった。


「美雪はどうなんだ?」

「さぁ、どうだろ? ひとつミスしたから、満点は取れてないと思うけど……」

「…………」


 逆に美雪に聞くと、さらっとそんな答えが返ってきて、貴樹は何も言えなかった。

 たしかに、普段から全教科ほぼ満点近い得点を取るのが当たり前だから、なにも不思議なことではないのだが。


「ま、果報は寝て待て、だよ。きっと受かってるって」

「だと良いけどなぁ……」


 美雪に励まされて、少し元気が出た気がした。

 とはいえ、彼女は公立が第一志望なのだから、高校に入ると別々になることになる。


 貴樹が彼女の志望校に受かるのは、内申点の条件があるから無理なことはわかっていて。

 だから、こういう話をするのも中学を卒業するまでのあと僅かだと思うと、なんとなく寂しくも思えた。


 ◆


 ――そして。

 合格発表の日がやってきた。


 インターネットで発表を見ることもできるのだが、やはり直接確認したくて、貴樹は高校まで足を運んだ。

 美雪にとっては、ただの滑り止めだと聞いていたから貴樹はひとりで行こうと思っていたのだが、「落ちてたら可哀想だから」と言って美雪もついてきていた。


 発表の時間が来るまでの間、そわそわしながら貴樹は美雪に話しかけた。


「……緊張するなぁ」

「ぷぷ。さっきから何回それ言ってるのよ。受かってるかどうかはもう決まってるんだから。ただそれが表に出るかどうかなんだからね。シュレディンガーの猫じゃないんだから」

「身も蓋もないこと言うなよ……」


 確かに美雪の言うとおり、合否はすでに決まっていて、掲示板に書かれているのだろう。

 受験生がそれを知ることができるかどうかなだけで、今から結果が変わるようなことはないのだから。


 ただ、それでも発表を見るまで、緊張することには変わりがない。


「そろそろかな……」


 美雪の呟きで時計を見ると、発表時間の午前10時まであとわずかだ。


 10時まで残り30秒くらいになったとき、発表の掲示板を守るために警備していた係の人――教師なのだとは思うが――が、腕時計を確認してから、掲示板に掛けられたカバーに手をかける。

 そして――。


 勢いよくそのカバーが外されると、周りで見守っていた受験生達が、一斉に掲示板に群がった。


 ◆


 最初に見つけたのは、美雪の番号だった。

 それは、何ランクかにわかれた、特待生を表す部分の最上位――たった数人しかいない――にその番号があったからだ。

 つまり美雪は、特待生として合格したということだ。

 最上位ということは、入学金も3年間の授業料も全て免除されるのだろう。


「……まぁ、美雪なら当然か」


 そう呟きながら、貴樹は一般合格の一覧から、自分の番号を探す。

 だが――。


(……ない……か)


 自分の受験番号の前後の番号が載っていたが、貴樹の受験番号は見つからない。

 やっぱり駄目だったか。

 自分が落ちたということよりも、美雪にあれほど教えてもらって、時間を使ってもらっていたにも関わらず、結果が出せなかったことのほうが重くのしかかる。


「……美雪、ごめん」


 それが申し訳なくて、美雪に謝罪の言葉を告げる。

 ただ、美雪はきょとんとした顔で、顔に「?」を浮かべていた。


「なに寝言言ってんの? そこに番号あるでしょ?」

「――え?」


 美雪が指差したところは、特待生のうちの最下位――1年間だけ授業料が免除されるという――の部分だ。

 そこには、確かに貴樹の受験番号が記載されていて。

 一度は落ちたと思っていた反動から、安堵感で放心したような顔をしてしまう。


「ぷっ、なにその顔っ! 写真写真っと……」


 笑いながらマートフォンを向ける美雪を見て、貴樹は照れながら、「やめてくれよ……」と手で顔を隠した。

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