「破軍星立て兜」其の六

 「また派手にやったもんだな」

 

 マサナはそう言いながら、対爾核から帰還したイオリの装備品を改めている。例の保護帽ヘルメット防御装甲プロテクタも、見るも無残な姿となっていた。 

 

 これだけ頑丈な素材を破壊するような戦いぶりに、それだけ強力な相手に極意を得たイオリの爆発力と前進力には感心する他はない。


 「茶器なら金接ぎでもするところだが、そうはいかないか…」

 「と、とりあえず。向こうに戻ったら技術班に引き渡します…」


 イオリもイオリで、果たしてどのように説明するかと考えていた。向こう、扶桑之國ではおそらく自分が墜落事故で行方不明と騒いでいる筈だ。そこに、非常用の装備に戦闘の痕跡があるとしたらますます謎を呼ぶだろう。


 「師匠の言った通りでした。勝つ術はなく、負けぬ術こそありって…」

 「うむ、これで何処に行っても、甲冑具足に遅れをとることはないな」

 「何処に行っても…」


 イオリはその一言を何となく繰り返していた。次に立ち合うのは、ついに五傑の筆頭。その筆頭は九度、剣聖として転生を果たしているという。如何なる世界、時代であっても通用するということ、技を極めるということは何かと思った。


 一体、その先に何が待っているのか。


 「師匠、一つ質問があります」

 「おお、なんだ改まって。まるで門弟みたいだ」

 「師匠も強いですけど、そんな風になるのは…極めるってどういうことですか?」

 「そうだなぁ… 進むごとに道が狭まっていく、そんなところか」


 マサナは懐紙を取り出すと、水で湿らした筆で山の絵を描いて見せた。なるほど麓から頂上に至るまで、段々と人は減っていく。その一方で、段々と増えていくものがあるとマサナは語る。


 「ええと、それは一体…?」

 「。眼には見えないが段々と絡みついてくる」


 絡みついた負の感情が段々とその足取りを重たくし剣筋を曇らせ、ついには道を失うに至るというのだった。ここで生きてると、マサナにはそんな連中がここに流れ着いているように思えた。


 「探しているのさ、自分に真正面から向きあう存在。道を示す存在を」

 「なるほど…」

 「イオリ、お前は元の世界むこうに昔なじみが居ると言ったな?」

 「はい」

 「そいつが一生涯、剣を執る覚悟ならその傍らにいてやれ」

 「まだ難しいところが沢山ありますけど、絶対に…!」

 「それなら猶更、筆頭に勝たないとな?」


 そんな風に二人が話しているところに、ヲリョウの叫び声が聞こえた。そして、彼女の足音がどんどん近づいてきた。


 「イオリ! 一体あんなの何処で拾って来た!?」

 「ああ、なんか懐いてしまったので、連れてきました」

 「連れて来た?」

 「あっ、師匠にも言ってませんでしたね」


 二人も連れ立って表に出てみると、ヲリョウが驚いたのは無理もなかった。普段、自分の獣脚竜ラプトルをつないでいるところにもう一頭、翼竜ワイバーンが体を窮屈そうにしながら並んでいるではないか。イオリが出てきたのに気付くと、何か嬉しそうにしている。懐いているというのは本当のようだった。


 「こいつは驚いた。お前さん、飛行機だけでなく翼竜も扱えるのか」

 「はい、この子でをしてきました」

 「おお、馬上の戦いは教えていなかったが… さすが俺の弟子だ」

 「まさに戦友ってやつですね」


 えへへと照れるイオリに、うむと納得するマサナだった。しかし若干一名、ヲリョウは全く「」という具合ではなかった。どうにかこうにか、この事情を理解した上で対応しようとしていた。


 「はぁ… 元の場所に返して来いとは、言わないけどねぇ…」

 「あっ、やっぱりヲリョウさん優しい!」

 「一つ聞きたいんだけど、こいつは飛べるのかい?」


 ヲリョウの問いかけに、何か雲行きが怪しいことにイオリは気付いた。目の前に算盤はないが、何かを計算している気配がする。それに、当の翼竜ワイバーンも人語こそ話さないが「おや?」という表情をしている。


 「い、一応飛べます…」

 「よし、わかった。なら、伊呂波にいる以上、だ! 空輸の手伝いをしてもらおうか」

 「う… ごめんね。そういうことみたい…」


 イオリが頭を撫でながらそう言ったが、賢い翼竜ワイバーンは全てを理解したようだ。この伊呂波ではヲリョウが最高権力者であり、彼女の一存で全てが決まる。現に、あの五傑と立ち合ったイオリが屈服しているではないか。


 そして彼女の名前には「竜」が含まれているが、ひょっとして名のある竜の一族の末裔かと思うのだった。

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