大地の精霊王の花嫁

ことはゆう(元藤咲一弥)

大地の精霊王の花嫁





 私はテレーゼ・シュタイナー。

 シュタイナー侯爵家の病弱な長女という事になっています。

 表向きは。


 生まれつき、涙が金や宝石に変わるという特殊な力を持って居た私は、毎日のように暴力を振るわれ、今では涙すらながれません。

 やけどの痕もたくさんあるけど、それでも泣かなくなった私を父達は地下室に閉じ込め、食事を与えなくなりました。

 生理的に出る涙で、家族は富を得ていきました。

 私の心は一方枯れ果てるばかり。

 そんな日が16年続いていました。


「お姉様、お姉様のおかげで縁談が決まったの、お姉様の代わりに私がたくさん幸せになってあげる」


 下品な笑みを浮かべる妹を見ても何も思いません。

 誰かここから出して欲しいという気持ちもわかなくなりました。


 すると外が騒がしくなりました。


「な、何?」


 地下室が崩れました。


「きゃあああ!」


 妹は下敷きに、私は無事でした。


「我が花嫁よ、無事か」

「はな、よめ?」


 私は問いかけます、大地の色をした髪に、木々の角を持った美しい人に。


「貴方様は……」

「ああ、我が花嫁よ、なんて可哀想に」


 その方は私を抱きしめました。


「エリーゼ!」

「エリーゼしっかりして! せっかく良縁が決まったのよ! しっかりして!」

「たす、けて」


「そのまま死に絶えろ」


 その方は家族達に向かってそう言って私を抱きかかえます。


「我が花嫁の証と知りながら、利益を得る為に我が花嫁をこのような扱い、許さんぞ」

「大地の精霊王様、違うんです!」

「違う? 何が違うのだ? 花嫁の体をみよ」


 その方は服とはいえ無い粗末な物を破きます。


 やけどと殴られた、蹴られた痕がたくさんありました。


「我が妻をこのような扱いにした貴様等に呪いをかけよう、貴様等の血はここで絶える」

「そ、そんな!」

「そしてこの土地は荒廃する、お前達は出ることは敵わぬ」


 その方──大地の精霊王様はそう仰いました。


「自分達の罪をよく反省するが良い」


 そう言ってその方と共に私はその場から姿を消しました。





 目を開けば、美しい森と湖。

「精霊よ、我が妻の傷を癒やしておくれ」

『畏まりました』

『勿論です』

 水の精霊達が私の体の傷や汚れを綺麗にしてくれます。

 ボサボサだった黒い髪も、さらさらでつやつやの黒い髪に。

 痣だらけの体は白い玉の肌に。

 爪も綺麗に整っていて。


「大地の精霊王よ、漸く己の花嫁を迎えにいけたのだな」

 水を纏ったような方が現れました。

「うむ、約定で16になるまでは会いに行くことも何もできぬのが辛かった」


「じゃあ、私の事を……」

「ずっと見ていた、すまない、助けられなくて」

「大地の精霊王様……」

「許してくれとは言わぬ」

「いいえ、助けに来てくれて、有り難うございます」

「其方はなんと優しい心をしているのだ」

「……元家族はどうなりました」

「見捨てられたよ」

「え?」

「見てみようか」

 水が鑑のようになり、映し出しました。


『大地の精霊王の妻を蔑ろにしていたことが余所にもバレた!』

『私の縁談も破談だ! 怒りは買いたくないと!』

『残っていた金や宝石も買ってくれない! 食べるものがどんどん減っていく!』

『使用人も逃げていく!』

『『『おしまいだ!』』』


「……」

「反省せぬおろか者めが」

 大地の精霊王様が忌々しげに呟きます。

 葉っぱの羽をもつ生き物が私に綺麗な白い服と、花飾りを与えてくれました。

「テレーゼ、どうか私の妻に」

「はい、大地の精霊王様」


 私は、私をなぶってきた元家族が滅んでいくのを見ながら、精霊王様と口づけをしました。

 ああ、やっと私は報われました。

 その日から、大地の精霊王様に愛されて幸せな日々を過ごしています。







 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大地の精霊王の花嫁 ことはゆう(元藤咲一弥) @scarlet02

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ