掌編小説・『危機一髪』

夢美瑠瑠



 キキ、は金髪で、碧眼、見る人がうっとりするほどに可愛い、エルフの少女でした。


 髪はサラサラでボリュームもあって、風に靡き、馨しい薫りをいつも発散していました。麝香と、金木犀と、ペパーミントを配合した、極上の品質の洗髪剤を使って、四六時中、四万エルフィンもした、最高級の黄楊の櫛で梳って、光輝を放つ、美しい髪をキープするために、キキはいつも腐心していたのです。


 赤ちゃんの頃のニュアンスの残っている顔立ちや肌にも、見る人を惹きつける天然の媚態や美質が具わっていて、見るほどに話すほどに、誰もがとりこになって、愛さずにいられない…キキはそういう幸福な少女の一人でした。



ですが、そういう神様からの「ギフト」に黒い嫉妬の炎を燃やすライバルもいました。

 「ふん!なによあの子!気取って作り笑いばっかりしちゃってさ!みんなだまされてるんだわ!正体を暴いてやるんだから…」


 ちぢれた赤毛で、雀斑だらけの、アニーという意地の悪い女の子が、いつも男の子に囲まれているキキを妬んで、ある計略をめぐらしました。


 「呪いの藁人形ていうのを作って…髪の毛を一本抜き取ってそれに仕込んで…夜中に五寸釘を打ち込むんだってさ!そしたら呪いをかけられた相手は覿面に病気になって死ぬらしい。うーん、問題はどうやって髪の毛を手に入れるかだけど?」


 キキがいつも髪を梳いている、あの綺麗な櫛から取ったら手っ取り早いわね!しばらくそばにまとわりついて、隙を見てピッと…


 アニーは、シメシメと、ほくそ笑みました。


 「ねえ、キキ?ご機嫌いかが?今日のワンピースもおしゃれねえ。まるでフランス人形みたいじゃない?あんたって本当にかわいいわね。みんなとりこなんだからー」

 「まあ、アニー。お世辞でもうれしいわ。アニーも髪にアイロンをかけてストレートにしてお手入れに気を遣ったらもっと可愛くなるじゃない?」

 無邪気にニコニコと微笑むキキを、アニーは憎々しげに睨みつけていましたが、すぐ笑顔を作って、

 「お手入れにはこの櫛を使うのね?ちょっと見てもいい?」


 キキが10歳の誕生日に買ってもらった、4万エルフィンもするという例の黄楊の櫛を貸してもらおうと、アニーはねだりました。


 「いいわよ。壊さないでね。人には貸さないことにしてるんだけど」


 まんまと邪悪なアニーの手に入った櫛は、かなり大きくて、高級感を漂わせていて、ですが、肝心の”髪の毛”が一本も巻き付いていない!マメなキキは大事な櫛の掃除も怠らないのでしょう。


 「困った…どうしよう?目論見が外れた…」


 アニーは落胆しかけましたが、不図見ると、櫛の柄の方に一本だけキラキラした美しい繊維が巻き付いている…


 「よしっ!これだ。ゲットしたぜ!」


 アニーは挨拶もそこそこに、そそくさととんずらしました。


… …


 森に棲むドルイドのおばあさんから藁人形を手に入れて、「丑の刻参り」をやり遂げて、半信半疑ながらも”朗報”を待っていたアニーは、やがて自分がとんでもないミステイクを犯していたことに気が付かされました。


 あの金色の繊維は、キキの髪の毛ではなく、アニーの家の自慢のトウモロコシ畑の、トウモロコシのヒゲだったのです!

…まもなく来た収穫期前にトウモロコシに病気が蔓延して、壊滅状態になってから、アニーは「はっ」と気が付きましたが、後の祭りでした。

 (「後の祭り」だから、当然に、収穫祭も祝えませんでした。?)


 これがホントの”キキ一髪”というお話でございました…


<了>

 

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掌編小説・『危機一髪』 夢美瑠瑠 @joeyasushi

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