モブ鳥空を飛ぶ

鳥尾巻

走馬灯なんて見えやしませんよ

 皆様、ごきげんよう。鳥尾巻、もとい、モブ尾巻でございます。


 強烈な個性を持つ家族に囲まれ、実家の片隅で息を殺して生活していたモブ尾巻ですが、ある時教習所に通うことにいたしました。


 友人が、もし欲しい人がいれば、カスタム済みのかっこいいバイクをくれると言うので、速攻で手を挙げたのです。免許は何一つ持っていなかったのに、ただ乗ってみたい一心でした。


 ついでに車の免許も取ってしまおうと、同時教習を申し込み、早速通い始めます。

 運動神経など皆無なので、気合を入れてジャージを着込み、朝から夕方まで教習所で頑張りました。


 筋トレが趣味のモブ尾巻、筋肉はあったのでバイクを起こすのは一発OKでした。その後の教習も、あまりの不出来さに教官に呆れられながらもなんとかこなします。


 ある日の教習で「急制動」を行いました。不測の事態で急ブレーキをかけても安定した停止ができるようにする練習です。

 普通自動二輪や大型自動二輪の急制動は、制動開始地点でブレーキを開始し、小型自動二輪の場合は8m、普通・大型自動二輪は11m先の停止位置までに停止させなければいけません。 路面が濡れている場合は、小型自動二輪で11m、普通・大型自動二輪で14mです。


 モブ尾巻は張り切ってスピードを出します。そして開始地点でぎゅっと手元ブレーキを握り、足元のブレーキも踏みました。

 しかし握力が強すぎたのでしょうか。脳と手足の神経が上手く連動しなかったのでしょうか。


 急に止まった反動で空を飛びました。そのまま空中で一回転。


 事故や生命の危機には、走馬灯が浮かぶなどと申します。しかし、それは嘘です。飛んでる瞬間は頭が真っ白で何も思い浮かびません。


 遠くから焦った顔の教官が走ってきます。それを見ていたらなんだかおかしくなってきて、笑ってしまいました。


「人って空を飛ぶんですね!教官!」


「こんのドアホォォォ!!」


 思い切り叱られましたが、腹を抱えて笑っていたモブ尾巻、頭を打ったのかと心配されました。

 幸いにも身体が柔らかかったのと、無抵抗で飛んで行ったので無傷で済みました。


 無事、免許も取って、友達のところに見せに行くと「ほんとに取って来た!」と驚いていましたが、かっこいいバイクはモブ尾巻の物になりました。

 

 ついでに教習中知り合った人に仕事を紹介されて、バイクで通勤することになったのは、また別のお話でございます。



関連エッセイ

【モブ鳥落とすイキオイ】

https://kakuyomu.jp/works/16817330668411924495

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

モブ鳥空を飛ぶ 鳥尾巻 @toriokan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ