自殺したヤンデレ百合少女はどうせ確定でハッピーエンドを迎えます。

8-2 永遠の愛を注ぐ世界で。

「こ、殺す？」

　みくりの口ぶりは、まるで私が仁美に殺されてしまったかのような言い方だ。

「あ、そうね。あなたにとって高校２年生の10月以降の記憶は、全てこの世界で起きた出来事だったものね。それなら本物の肉体に魂を戻してあげて、切り取った記憶も元に戻してあげないとね♪」

　そういうと、天井から巨大な肉でできた鳥かごのようなものが下りてくる。

　その籠の中にいるのは、私。

「なに、これ……」

　愕然とする。

　現れた私の肉体はアザや生傷だらけ。

　そして背中の右側には、タトゥーのような、サソリを模したハート型の黒いアザがついている

「あれがアンタの本当の身体よ。さあ一花、アンタも本当の身体にお戻りなさい♪」

　みくりが指をパチーンとならす。

　すると私の身体から力が抜け落ち、全身が崩れた。

　"本当の記憶"が濁流のように頭に流れ込んでくる――。

それは私の高校二年生10月の記憶だ。

　最初に流れ込んできたのは、ある日、私が仁美にその小さな機械を突きつけて問いただしていたシーンだった。

「仁美、これはいったいなに？　どうして私の部屋に盗聴器なんか仕掛けたりしたの？」

「だって、一花ちゃん、私に言ってくれたでしょ？　一花ちゃんの声をいつでもずっと聴いてほしいって。だから私、一花ちゃんの声、全部聞きたかったの。一花ちゃんから貰ったイヤホンで聞く一花ちゃんの秘めやかな声、とても素敵♪」

「それはそういう意味じゃないでしょ！　……今回は許してあげるけど、もう二度とこういうことしないでね」

　次に流れ込んできたのは、仁美がなんの脈絡もなく、ケトルから熱湯をこぼして私の手にかけてきた時だった。

「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ！」

　熱湯をかけられ、私は痛みにもだえ苦しむ。

「あはは、一花ちゃんの苦しんでる声、素敵ぃ♪」

「なっ、仁美、なんでこんなこと……！」

「だって一花ちゃんの苦しそうな声、すごくかわいいんだもん。一花ちゃん、大好き♪」

　次に思い出したのは、私が仁美と絶交したときだ。

「ごめん、仁美、もう仁美の家にはいかない」

「どうしてそんなこと言うの？　私、一花ちゃんとずっと一緒にいたいのに。だから私は、一花ちゃんのお願いだって聞いてあげたのに。一花ちゃんのストレス発散にも付き合ってあげてるのに。私はいいんだよ？　一花ちゃんの事、いくらでも甘やかしてあげるから♪」

「わ、私も確かに、仁美にヘンなお願いしたのは悪いと思ってる！　でも、この前の盗聴もそうだし、いきなり殴られたり、熱湯かけられたり、暴力を振るわれるの、もう限界なの！　仁美、怖いよ。仁美が何を考えてるのか、私ぜんぜんわからない」

「どうしてそんなこと言うの？　私は一花ちゃんの事、本当に大好きなのに。大好きだから、一花ちゃんの苦痛に悶える甘やかな声が愛おしいだけなのに――」

そして10月が終わる"最期の日"――。

私は仁美に手錠で拘束された。

「ひ、仁美！？」

「あぁ……♪　一花ちゃんの震えてる声も、カワイイなぁ♪　私、もう我慢できないよ。もう私がずっとお世話しないと、生きていけない体にしてあげる♪　一花ちゃんの苦痛に満ちた甘やかな声、たくさん聴かせてね♪」

　私は仁美に暴力を振るわれた末に、衰弱して死んだ。

　気付けば目の前は鳥かご。

　私は肉でできた鳥かごの中にいた。

　全身のあちこちが痛かったが、本当の記憶を一気に思い出したせいで、頭がズキズキと痛かった。

「ゲホッ！　ゲホッ！　ゲホッ！　うぅ……」

「あ、一花ちゃん、戻ったんだね♪」

「ひ、と、み……」

「ねぇ、身体が元に戻ったら、本当の記憶も思い出せた？　私たちのなれそめ、忘れられたままだと悲しいもんね♪」

「あ、あぁ……。ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ！」

　私は発狂したように吠え猛った。

「はぁ……はぁ……はぁ……。思い出した。仁美、アンタは、私は、アンタに……。監禁されて、縛られて、たくさん殴られて、首を絞められて、死んだ。仁美に殺された……！」

「あはははは♪　そうそう、死ぬときの一花ちゃんの断末魔もね、とてもサイコーだったよ♪　一花ちゃんが一度死んだのは高校二年生の10月の終わり。そしてみくねぇの魔法の力で、10月の初めから私たちの物語は"お芝居の世界"で再スタートしたの。だから、一花ちゃんの高校２年生10月以降の記憶は、全部この"舞台"で起きた出来事なんだよ？」

「ちなみに、私とあなたと仁美以外、現実世界からキャストとして招かれたのは京子とあのクソうざい３人だけ。だからアンタが一緒に暮らしていたパパやママは、この世界が始まってからはニセモノ。ニセモノのパパにアンタの夢を否定させることこそ、物語の全ての始まりだったからね♪」

「でも一花ちゃんの魂の叫びは本物。私の事を大好きって言ってくれて、本当にうれしかったよ♪　一花ちゃんに大好きって言ってもらえて、私、幸せ♪」

「あ、あぁ……ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ！　なんでぇ！　なんでこんなことするのよおおぉぉぉぉぉ！　返して！　私を元の世界に！　お家に帰してよぉ！」

「それは無理よ。あなたは一度既に死んでいる。その魂と肉体を蘇生する条件として、あなたの魂は永遠に私の世界に閉じ込められているからね、仁美と一緒に♪」

「そーいうこと♪　一花ちゃんは、もうこの舞台演劇の世界でしか生きていけない存在なの♪」

　京子

「はぁー♪　本当に感動的だなぁー♪　仁美ちゃんの愛、スバラシー♪」

　京子はハンカチを目に当てて涙を拭いている。

「京子！　お願い！　助けてよ！　イヤ！　こんなのイヤぁ！」

「ムリムリ、私、マーガレット様との契約で逆らう事はできないからね。それにいーじゃん、普通に生きてたらこんな刺激的な体験できないし。なにより一人の女の子からこんなに一途に愛されるなんて、とっても幸せじゃん。だれ一人死んでないし、これ以上のハッピーエンドってないと思うんだよね」

「京子、そろそろ別のお部屋で打ち上げでもしましょうか。しばらく、二人きりにしてあげましょ♪」

「はーい♪　じゃぁ一花、また遊びに来るからねー♪」

　そう手を振って、京子とみくりが姿を消した

「やだ！　一人にしないで！　助けて！　助けて！　助けてえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ！」

　私が恐怖と絶望で悲鳴を上げればあげるほど、

　目の前にいた仁美は、楽しそうに笑った。

「あはは♪　あはははははははははははは♪　あはははははははははははははははは♪　いい♪　いい♪　いいよぉ♪　一花ちゃんの甘やかな嘆きの声♪　苦痛に彩られた絶望の声♪　さーいこぉー♪　あははははははははは♪　あはははははははははははははははは♪　逃がさないよ？　私はずっと一花ちゃんと一緒なの。ずっとずっと一緒だよ、一花ちゃん。一花ちゃんと永遠を過ごす。私はそのためにこの呪わしい力に命をささげたんだもの。この現実世界から切り離された私だけの閉じた世界で。一花ちゃんと永遠に愛を語り合うお芝居を続けるの。一花ちゃん、大好き♪」

「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ！」

　そこはどこかの一室だった。

「ふ～ん♪　ふ～ん♪」

　エプロン姿の仁美は、鼻歌を歌いながらテーブルを付近で拭いている。

「うー……♪　うー……♪」

「はーい、いちかちゃーん♪ どうしましたでちゅかー♪」

　仁美はベッドに横たわってぐずる一花もとに駆け寄る。

　一花はよだれかけとおしゃぶりをしてベッドにあおむけになっていた。

「うー♪　ママぁー♪　おなかちゅいたー♪」

「はいはい、もうすぐご飯の用意ができまちゅよー♪　今日はホワイトシチューでちゅからねー♪」

「うー♪　ママぁー♪　だいしゅきー♪」

「よしよーし、ママもいちかちゃんがだいすしゅきでちゅよー♪」

　私はぐずる一花の頭をなでなでする。

　一花ちゃん、"また"楽しい時間の始まりだね。

　一花ちゃん、大好き♪

　私たちは、永遠に一緒だからね♪

　愛してる♪