最終話 通い妻の如く…

九条はじめと遊園地デート当日のことである。

家の前まで彼女はやってくると僕の車に乗り込んで目的地へと向かう。

「おはようございます。今日を楽しみにしていたんです」

「僕もだよ」

助手席に乗り込んできた彼女と挨拶を交わすと車中で流れていた音楽を耳にした彼女は軽く破顔する。

「この曲好きです」

「流行ったもんね」

そんな他愛のない日常会話を繰り返しながら僕らは彼女が指定した有名遊園地へと向かうために高速道路に乗った。

そのまま小一時間掛けて目的地まで向かうと入口で事前に購入しておいた電子チケットを提示して園内へと入園した。

「何から回ろうか」

「えっと…ジェットコースターが好きで…」

その言葉に僕は一つ頷くと一番人気のジェットコースターのアトラクションへと向かう。

開園してまもなくということでまだ行列は出来てない。

僕らは数十分程度並ぶとアトラクションを楽しむのであった。



朝も昼も関係なく食べ歩きをしながら園内で過ごしていたため空腹感は一度も感じなかった。

昼過ぎからは落ち着いた室内のパレードを眺めて過ごしていた。

そこから夕方が過ぎていき夜のパレードを見て満足感とともに帰路に就いていた。

「多分ですけど…」

彼女はその様な話の切り口で言葉を発する。

「ん?何?」

「私はこれから先…彼方さん以上に好きになる人は居ないと思うんです」

「そうかな?僕らは出会って間もない関係だよ?まだわからないでしょ?」

「いや…私にはわかるんですよ。ビビッと来ましたから」

「それは同じ人質という環境が感情を麻痺させていただけじゃない?」

「ストックホルム症候群とでも?」

「まぁ…少し違うけど…その様な感覚に近いんじゃない?」

「それは…違うと思います。私はあのスマートな行動や逮捕撃を目にして…映画やドラマの中の光景を見ているようでした。あの光景が頭から離れないんです」

「う〜ん。それは非日常が刺激的に映っただけじゃない?」

「そうかもしれません。それでも私は…彼方さんの事を好きになったのも事実です。どんな理由であったとしても…私は彼方さんが好きです」

「そう…はじめさんも知っていると思うけど…面倒な女性が僕らの関係を探っているよ」

「え?まさか…片桐さんの知り合いの探偵って…」

「そう。僕のことだよ」

「そうなんですね…秘密主義っぽいところは探偵が故ですか?」

「多分。これからもきっと秘密は多いと思うよ?それに耐えられる?」

「もちろんです。だから…私と付き合ってください」

「………」

僕は最終的な答えをどうするべき少しだけ思考するのだが…。

こんな僕を相手してくれる人が居ることに感謝すると…。



時は過ぎて僕らの関係はどの様なものに変化しただろうか。

未だに彼女らは僕の家へと足繁く通い妻の如く訪れていたのであった。

               完

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貯金しに行ったら偶然にも銀行強盗に出くわしてしまう。これと言って強いわけでもない僕が事件を解決したら人質となっていた美人女性職員が通い妻になった件 ALC @AliceCarp

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