不幸体質ですが、いつもヒーローが助けてくれます

香 祐馬

第1話

俺の名前は、立花透。都内の高校に通う18歳。

見た目は、平凡。かっこいいと言われたこともなく、身長も170センチジャストで平均。

勉強は、若干、できるかなくらいである。運動は、運動音痴ではないが、可もなく不可もなく。まごうことなく平凡だ。

だが、一つだけ平凡じゃないものがある。


それは...、

『不幸体質』だ。


それも超弩級の不幸体質である。

道を歩けば、上から鳥の糞が降ってくる。

防水加工の帽子が欠かせない。

支給された教科書は、必ず乱丁がある。

最初にパラパラと全部を見る必要がある。

靴には、なぜか小石がよく入る。

履く前に、靴をはらう必要がある。


ちょっと、レベルが上がると乗っていた電車がしょっちゅう止まる。

いつも待ち合わせの1時間前には家を出なくてはならない。

食券を買おうとすると、券売機がかなりの確率でつまる。

一緒にいる友達に金を渡して買ってもらってる。

大きいものだと、大体乗ったタクシーがパンクし、事故一歩手前。

万引きに間違われて、事務所でお話をすることも1度や2度じゃない。


ここまでくると小さいものは、もう仕方ない、気持ちも凹まない。

だが、中程度以上になると、自分以外の人を巻き込む。地味に凹む。

そして、大きいものだと命の危機を感じる。人生がかかってくる。


そして、今現在も命の危機が....



「危ねぇっ!!」


ぐいっと腕を引かれて、誰かの腕の中におさまった。

誰かとは言ったが、顔を見なくてもわかる。

いつものアイツだ。


「まったく...、透は相変わらずだな。怪我はないか?」


顔を見上げると、キリッとした太い眉毛が似合うイケメンが、心配そうに俺の顔を見ていた。


「あぁ...。いつも悪ぃ。助かったよ、たける。」


俺の背後には、上から落ちてきた太い枝がドンっと倒れていた。

折れた断面が、腐ってる。たまたま俺が通った時に限界が来たのであろう。


遅れてきた恐怖にブルリと体が震える。

健が、それに気づいたのか更にぎゅっと力を込めて抱き寄せてくれた。


「はぁ〜。マジで、透...。

俺が守ってやらないと、死んでるぞ。

絶対、俺から離れるなよ!!一人で行動しないこと!お外に出る時は、俺と一緒!

はい復唱!」


「オソトニデルトキハ、タケルクンとイッショ。」


うんうん、と満足げに頷く健の体から抜け出し、体を離した。


まぁ、暑苦しいが、健には、正直感謝している。

直撃したら骨が折れたり最悪死ぬもんが、しょっちゅう落ちてくる俺を助けてくれるのは、コイツだ。健がいなかったら、俺はもうこの世に居ないだろう。


健は、俺を守ることに使命を感じてるらしくて学校でも外でも常に一緒だ。

家も隣同士だから、寝る時以外はずっと一緒である。


友達だちも、そんな俺たちの関係を最初は訝しげに見てくるが、数週間も経てば納得してくれる。

運動神経抜群のマッチョがいなければ、俺はすでに生きてないと、当然のように受け入れられるのだ。だから、俺たちは二人でセットである。


しかし、友達はいいんだが、女子は違う。

イケメンの健を独占している俺は、目の上のたんこぶらしくて、嫌われてる。


しかも告白された健が、俺のそばにいたいっていう理由で断るもんだから、火に油。


もうちょっと言い方あると思うんだけどなぁ...。

俺を理由にしないで、今は友達と遊んでる方が楽しいとかさー、断り方変えてくんねぇかなぁ。

確かに、俺は健がいないと困るけども...、親友の恋路を邪魔してまで生きていたいとは思わないんだが。


そして、今日はなんと俺。人生初のラブレターをもらいました!

今どき古風な下駄箱に!

ルンルン気分で、呼び出された渡り廊下に向かう。


向かった先には、清楚な感じの女の子が!

俺の時代がキタァ!!

不幸体質卒業か!?


近づいていくと、女の子が振り向いた。


「え?」


なぜか驚き、目を見開かれた。

え、俺じゃなかった?

浮き足立っていた気持ちがしゅんとなる。


「立花くん...、なんで?」


「え?ごめん。手紙が俺の靴箱に入ってたから。もしかして入れ間違い?」


「違う!入れ間違いじゃない。だけど...。

えっと、話があったんだけど...」


言葉を途中で区切って、チラチラとこちらを伺いながら、気まずそうだ。


「なんで、立石くん(健)もいるの??」


ん?何が?

本気で俺は聞かれた意味がわからなかった。


常識的に告白現場に友達は連れてこないらしい。

だが、健は俺の生活の一部だから疑問にも思わず連れてきてしまった。

健の告白現場にもいつも居合わせてるからそんなもんだと思ってた。


サシじゃないと、こういうのはダメなのか。俺学んだ。


「そりゃ、居るだろう。

こんな開けた場所に透を呼び寄せたら、心配で離れられねぇよ。風が吹いて、何か飛んできたら透が怪我するだろう。」


当然って態度で、健が言う。


「そんなの、おかしいよ。だって、じゃあ私たちのデートにもついてくるの?

キスする時も?それに...それ以上のことをする時はどうするの??」


「は?何言ってんだよ。勝手に、透と付き合えると思ってんじゃねぇよ。仮に付き合えたとしても、俺は透と離れるつもりはねぇ。当然、デートもついていく。当たり前だろ。」


「!!嘘でしょう....。」


ドン引きされるが、俺も当然健と一緒だろうなと思っていた。

俺の不幸から、彼女を守る運動神経は持ち合わせてない。

どう考えても、無理だ。


「じゃ、じゃあ。立石くんのデートには、透くんは連れていくの?」


「そりゃ、当然。デートに透がいなかったら、それはデートじゃねぇ。」


「いやいや、健。それは違うだろう?俺のデートにはお前が必要だが、お前のデートには俺は必要ないぞ。家で大人しく籠ってるから、大丈夫だ。」


「あぁ?」


俺がすかさず反論すると、急に健が不機嫌になり眉間に皺がよった。

一触即発のようなオーラで、思わずビクっとしてしまった。イケメンのメンチ恐ぇーよ。


「俺のデートには、透がいないと成立しない!これは、絶対条件だ!」


「わかったよ。恐ぇーから落ち着け。

俺もお前のデートには着いていくから。」


呆気なく白旗を上げたら、不思議な事に今度は女子が豹変した。


「はぁぁぁ?立石くんのデートについていくなんて、立花くん何様のつもり!?」


鬼の形相で、指を突きつけられて呆気に取られる。


「立花くんが彼女を作らないと、立石くんがフリーにならないのよっ!!」


え?どう言うこと?と俺が困惑してると、健がワケ知り顔でニヤニヤし出した。


「ほーん。そう言うことか。

お前、透が好きなワケじゃないんだな。


透、すまん。コレ、俺のファンの一人みたいだ。」


「え?どう言うこと?」


「人身御供で、コレがお前と付き合えば、俺と透が離れて、俺とファンのうちの誰かが付き合えるって考えたんだろう。ご苦労なことだな。」


「違うわ!私は、立石くんのファンじゃない!ファンの友達に頼まれたのよ!自惚れないで!」


なるほど...、ようやく俺でもわかったよ。

俺が恋愛にうつつを抜かせば、健の横の席が空くもんな...。

なんだ、俺の時代は来てなかった。グスン、いいもん。ちょっとだけ夢が見れただけで幸せだよ。


やっぱり、俺はこんな罰ゲームみたいな告白しかされない不幸体質だった。


※※※※


その日、俺たちのクラスに転校生がやってきた。一応、それなりの進学校だから途中入学してきたと言うことは、頭がいいのであろう。

どんなやつなんだと、みんながソワソワしていた。

俺も楽しみに待っていた。

そこに担任と共に一人の青年が入ってきた。


ザワッとする教室。

女子が明らかに色めき立っている。


彼は、健とは違ったタイプのイケメンだった。

スラリとした細身の長身は、まるでモデルのようである。髪の毛は、地毛のようだが色素が薄いのか茶っぽく遊んでそう。片方の前髪だけが垂れていて、色っぽい男だった。


「立浪玲央です。」


声までイケボで、黄色い歓声が上がった。


そして、タツナミだからタチバナとタテイシの間の出席番号になった。

今まで、前後だった順番に初めて他人が入った。

俺は新鮮に感じた。

後ろを振り向き話しかけ、すぐに仲良くなれた。


「玲央。昨日のテレビさぁー...」

「玲央。こないだ教えてくれた音楽が...」と、話が合うため、よく話す。

俺の不幸体質も嫌がらずに、健と一緒に守ってくれて、馬が合う友達が出来て、俺はご機嫌だった。

だから、健が面白く思ってないなんて、全く気づいてなかった。


※※※※


「最近の健くん、立花くんとずっと一緒じゃなくなったよね。」

「そうそう。遊んでそうな立浪くんだっけ?彼と立花くんがいること増えたよね。」

「ようやくお邪魔虫のお世話から免除されたんだねぇ。よかったよねぇ。いくら幼なじみだからって、ずっと一緒にいなきゃいけなかった健くん可哀想だったよねぇ。」


職員室で用事を済ませて廊下に出ると、姦しい会話が聞こえてきた。

ウンザリする。何も知らないくせに!と、健は心の中で唾を吐いた。


俺は、小さい頃から透が好きだ。

親父が死んだ時、母さんが働くしかなく、俺は一人で留守番だった。

幼稚園の送り迎えの時だけ中抜けして、すぐに職場に引き返す毎日で、一人の家はすごく寂しかった。

そんな俺を支えてくれたのは、透だ。

常に一緒にいてくれた。

何もないところでもつまずいたり、水道を捻れば水道管が破裂したりと、目の離せない透は、俺の心の隙間を埋めてくれた。

そして、いつも俺の顔を覗き込みながらニカっと笑うのだ。

俯いて寂しがってばかりいた俺に何度も何度も笑いかけてくれた。

透は、泥や水でびしょ濡れになってても、頭の怪我から血が流れてても、俺が寂しくて泣きそうになってると、必ず笑いかけてくれた。

透は、強い男なんだ。

決して、見目が整ってるワケでなはい。でも、俺には最上の顔になった。

年齢が上がるにつれて、透の不幸体質はレベルが上がっていったが、俺が透に執着するレベルも上がった。

俺が、守れば問題ない。俺が死ぬまで、透に張り付いてやる。

だが、最近、玲央が俺のポジションを脅かし始めた。

先生たちもそれに気づいてか、俺単独で呼び出すことが増えた。

今まではセットじゃないと、立花が危ないって認識だったのに。

しかも、玲央も透に依存し始めた。

頼られて笑顔でお礼を言われることに、愉悦を感じ始めてる。

それがことのほか居心地がいいみたいで、何をするにも俺と透の間に入り込もうとしてくる。

いい奴なんだが、面白くない。

俺の透なのに....




※※※※


「なぁ、健ってさ。透が好きだったりする?」


今日は、休みの日であったが、玲央に呼び出された。

透に何度も安全地帯から出ないようにと、言い聞かせてから家を出てきた。

駅前のコーヒーショップで待ち合わせし、今向かい合ってる。


「ああ。そうだ。そして、お前は好きになりそうな状態って感じか?」


「わかる?」


「まぁな。だが、まだ諦められるなら諦めてくれ。俺は譲るつもりはない。」


「うん、そうだね。でも諦められなかったら、ごめん。一応、謝っとく。なんとなく無理そうだから。」


メールや電話で済まそうと思えば出来るのに、直接顔見てこうやって確認してくる玲央は、やっぱりいい奴なんだと思う。

複雑な気持ちだが、互いに嫌いになれないのがわかってるから、ふっと笑い合った。



※※※※


「ねぇ、聞いてるの??立花くん。

君さぁ、ほんとにお邪魔虫だよねぇ。」


ただいま、俺絶賛ピンチです。

絶対絶命な感じです。

貞操って意味でも、俺の不幸体質って意味でも、どちらもやばいです。


ことは、体育の時間まで遡る。

授業中に、ボールがダイレクトに顔面に当たって、鼻血が出たことから不幸が始まった。

いつも通り、健が俺を保健室に連れて行ってくれて鼻を冷やしながらベットに横になる。

絶対、迎えにくるまで動くなと念を押されて、健は授業に戻った。


しばらくすると、そっとドアが開く音が聞こえ、誰か来たのかなって呑気に思った瞬間。

カーテンをガバッと開けられ、拉致された。


目隠しと猿轡をされているから、全く状況がわからなく不安になる。

何度か階段を上り下りしたのは、わかったがどこに連れて行かれるのか...。


気づけば、体育館倉庫。

うちの高校には大中小の様々な体育室があるため、どの体育倉庫かは全くわからなかった。


目の前には、健のファンの子達が数名。

そしてその背後には、なぜかガタイのいい男子生徒が2人壁にもたれていた。監視か?


「ねぇ、健くんから離れてあげてよ。全然、あんたと健くん、似合ってないの!地味メンは、陰キャらとつるみなさいよ!」

「玲央くんは、かっこいいから健くんに合ってるからいいけど。」

「ほら、これ見て!あんたが居ないと、二人ともリラックスして笑ってるのよ!」


見せられたスマホには、健と玲央がコーヒーを飲みながら笑ってる写真が映っていた。

確かに俺といる時の二人は、何かが落ちてこないか、俺が転けないかとか、いつもキョロキョロ気にしてくれている。

でも、その時だってこの写真のように笑ってる。

完全にリラックスはできていないだろうが、ここまで言われることだろうか。


「俺は、二人に強要して一緒にいてもらってるワケじゃない。自分の意思がしっかりしている二人だから、面倒くさいなら俺から勝手に離れていくよ。」


「はぁ?二人は、優しいから犠牲になってくれてるのよ!あなたが解放するべきに決まってるじゃない。」


「そんなこと言われても...。」


「まぁ、いいわ。すんなり言うことを聞くとは思ってなかったから。あんたは、今からこの二人に乱暴されるのよ。」


壁にもたれていた二人が下卑た笑みを浮かべながら近づいてきた。

嫌な予感に、冷や汗をかく。


「ら、乱暴って??」


「そりゃ、恥ずかしいことよ。

あんたは、イケメンが好きなようだから、特別に男にしてあげたわ!

今後一切、健くんたちに近づかないって約束するなら、やめてあげる。

でも、約束できないなら、この二人に陵辱された写真をSNSで拡散するわ。」


ツッコミどころがわからないが、別に俺は男が好きなワケじゃない。そしてコイツらはイケメンじゃない。

それに、どっちを選んでも俺には絶対絶命になる。

拡散されたら社会的に死ぬし、健たちから離れたら、不幸体質で近いうちに死ぬ。


どちらがいいかなんて選べないだろう...。

生きてればナンボってところで、拡散の方がいいのか?

逃げると言う選択はもちろんするが、目の前のひとたちの方が運動神経が良さそうだ。

ジリジリと、逃げ場を探しながら移動し始めると、男たちの腕が伸びて迫ってきた。


やっぱり、逃がしてくれないのねっ!?


手当たり次第に、近くの掴める物を投げて足を動かす。捕まってたまるか!

しかしもうすぐ、ドアってところで不幸体質が邪魔をした。

ガラリと新たにガタイのいい奴が入ってきてドアを塞がれた。


「お?悪い。授業抜け出すの手間取った。これはどう言う状況だ。」


間が悪い。

コイツが最初からいれば、もしくはもっと遅くくれば逃げられたのに...。


結局、俺は床に転がされた。


「離せよっ!お前ら、正気か!?俺男だぞ!」


「男と一回ヤッてみたかったんだよなぁ。」


必死に抵抗するが、男が3人いるので相手は鼻歌を歌うかのように、余裕で俺の体を剥いていく。


馬鹿やろー!!興味本位で、するんじゃねぇ!


「やめっ!!誰っ、か、たす、けてぇーー!!」


叫び声を上げたら、口を覆われ、くぐもった声しか漏れなくなってしまった。


どんどんエスカレートし、全身を触られ、舐められる。

気持ち悪さに、ゾクゾクと震えが止まらない。

バタバタと手と足を動かして抵抗しても、ほとんど動かせない。

抵抗しすぎて体力も尽きた。


もう無理だ...

遠くで授業が終わる鐘が聴こえた。

授業が終わったみたいだ...健心配してるだろうなぁ....

今から探されても間に合わないだろうなぁ...

さらば俺の貞操。


せめて、されるなら見た目がいい奴の方が良かった...


諦めて脱力し、心の中で「不細工野郎、死ね...」と吐き捨てた。

相手が、にやりと舌なめずりし、処女喪失のカウントダウンが始まる。

その瞬間。



「透っ!!」


バタバタと足音が聞こえてきて、ドアがバンっと開いた。

室内にいた全員が、音の発生源に振り向く。


健が倉庫に駆け込んできて、情けない姿で床に転がされている透の姿を見つけた。


「このっ...!

俺の透に何してやがるんだぁぁぁ!!」


健が咆えて、透のことを押さえ込んでいた男たちに思いっきり拳を振り下ろした。

ばきっと重い音が鳴る。

激情に任せて、脚も出る。

あっという間に3人をボコボコにして、失神させた。


「た、健...どうしてここが...?」


透は、健の圧倒的な強さに唖然としたが、ハッとするなり、ゴソゴソと洋服を整え、健にどうしてこの場所がわかったのか問いただした。

しかし、健は頭に血が上りすぎて聞こえていないようで、肩で息をしながら、部屋の片隅で固まっていたファンの女の子達の方へゆらゆらと近づいて行く。


「ひっ!!」と、恐怖でその場で座り込む女の子達。今にも殴りかかりそうだ。


「健っ!俺は無事だ!

お前の力で、殴ったら、壊れる!もういいからっ!」


走って健を止めたいが、さっきまでの恐怖で体が動かない。


「健っ!止まれよっ!」


ゆっくりゆっくり近づいて、まるで手負いの獣のようだ。


「くそっ、止まれよっ!

玲央ォォォォっ!!近くにいるなら、来てくれぇ!!」


願いが通じたようで、玲央がバタバタと駆け込んできた。


「透!無事か!?」


玲央が室内の状況を確認すると、健が殴りつける一歩手前だった。


「玲央!健を止めてくれっ!」


玲央は、すぐに羽交締めにして健を止める。


「健!止まれ!

コイツら殴っても仕方ないだろうっ!さっき先生もいたから、もう来る!」


どうやら、健が殴る蹴るした音で、異常を感じた先生達が向かってきているようだ。

運動神経がいい玲央は、いち早く駆けつけられたようだ。


玲央の説得で、健の目に理性が戻った。


ハッとした健が駆け寄ってくる。


「透!大丈夫か!!」


「ああ。最終ラインは無事だった...。

助かったよ健。」


遅れて先生達が流れ込んできて、倒れた男達と女子を回収して行く。

透も全部無事ってわけでもない。

足が震えて立てないので、健に担がれた。


お姫様抱っこじゃないだけマシなのか、俺を子供のように縦抱きが出来る健の腕力に感嘆すればいいのか、ひょろひょろで軽いおのれに悲嘆すればいいのかわからん。


保健室に再び戻ることになった。

とりあえず、隣のシャワーで全身洗いたい。

野郎の涎が気持ち悪くて仕方ない。


「それにしても授業終わってすぐで、よく俺見つけられたな。」


「当たり前だ。愛の力だ!」


「どんな愛だよ...。

友情パワーで居場所なんかわかんないよ。普通。」


ニコニコしながら健が、俺を運ぶ。


「違うよ。友愛じゃないよ、透。

コイツのは執着愛だよ...。

知ってたか?健、透にGPSつけてたぞ。」


「は?」


呆れ顔の玲央が告げた言葉に、フリーズした。


「授業が終わって、携帯見たら保健室に透が居なくてさ。なぜか格技棟に丸が付いてるし、ビックリしたんだ。

透は、動くなって言ったら絶対動かないから、何かに巻き込まれたってすぐにわかった。だから慌てて玲央を連れて、上と下から別れて探し出したんだ。」


ちょっと待て。健さんや。何当然の顔して説明してるんだい?

勝手に俺にGPS仕込んでることの説明は??


「良かったよ。俺の透の『初めて』が守れて!」


大事にしろよ。透!っとニカっと白い歯を見せながら、健が言う。


おーい。健さんや。

俺の初めては一生守りますが、大事にとは?

痔になるなってことでしょうか?

この場合は、違うんだろうなぁ。


「たける...GPSの説明は?」


ジトっと、目線を向けると、へにゃりと目尻を下げた健が満足そうに笑いながら説明し出した。


「携帯を一緒に買った時、番号交換しただろ?

記念すべき初めてのアドレス帳登録、1番同士のさ。あの時に、入れといた!

ずっと一緒に行動するから要らないかなぁと思ったんだけど、念のためな。

今回初めて役に立ったな。良かったな。」


コイツ...全然、反省してねぇ。


「うわぁ...、引くよー。健、それは引くよ。」


「あ?何がだよ。」


「勝手に入れられた位置情報アプリで、自分の場所把握されてたら、嫌だよ。」


玲央が、真っ当な精神で安心する。

俺も、うんうんと、深々と頷き同意する。


「そうなのか?そっかぁ、じゃあ今度からちゃんと言うな。」


優しげに目を細めて俺に宣言する健。


うん?ちゃんと言えばいいのか?

そういうことなのか?うーん、確かに居場所知られても不都合はないな。

健だしな。寝る時以外は一緒だもんな。

問題ないな。

そっかぁ、言われてなかったからモヤっとしたのかぁ。

あー、スッキリ。


「....うわぁ、透もなんか納得してる...。」


マジか?という顔で、玲央に見られた。


「じゃあ、他にも色々言ってないことがあるんだが、言った方がいいか?」


「え?まだあんの?」


俺と玲央が、びっくりしてると次から次に健の所業が明らかになって行く。


「まず、透の持ち物は全部アルコール消毒してる。万が一劇薬が塗られてたら、透が怪我するだろう?

透の靴紐は、必ず毎日引っ張って強度を確認してる。いきなり切れるかもしれないからな。ちなみに予備の紐も持ってるぞ。

大体夕飯は、一緒に食べるが全部毒味済みだ。万が一、食中毒になったら大変だ。

刺身とか貝は、端っこを食べてから皿に出してる。あたったら大変だ。

コンビニの店員に、イヤラしい目で見てる奴がいるんだが。ソイツのシフトは、確認して

その時間には透を連れて行かないようにしてる。

あと、いつ不幸でびしょ濡れになってもいいように、透の着替えはいつも持ってるぞ。パンツから靴下まで、サイズは把握してるからな。俺の部屋には、透の専用タンスがある。

あと、透が学校で作った作品を透はすぐ捨てようとするから、全部写真に撮って取ってある。透の人生の軌跡だから尊い。ちなみに俺のはない。母さんが捨ててる。

あとは....、」


「ちょっと待て待て!!健、正気か!?」


「何がだ?」


「透っ、健がヤバいぞ!大丈夫か!?

こっちおいで!」


「は?なんで、抱っこの権利を玲央に渡さないといけないんだ。」


「透!嫌だよな!?」


玲央に手を伸ばされて、確認されるが、うーん。別に、嫌じゃねぇな...。


「まぁ、やりすぎな気もするけど...。俺や周りに実害も出てないし。むしろ、感謝?してる、かも?」


「いやいや、こんなキリッとしたイケメン顔で、透のパンツ持ってんだぞ!?現在進行形で!」


「俺の使用済みパンツじゃないし。

まぁ、いいんじゃない?」


えー...、どんだけ透の器デカいんだよ...と、玲央が驚愕した。


「それにさ、いずれ健も恋人ができるだろう?それまで、俺のこと守って欲しいんだよねぇ。俺、すぐ死んじゃうじゃん。でも、俺意地汚くも生きてたいんだよねぇ。」


のほほんと、玲央に告げる。

健の行動に俺は生かされてるから嫌じゃない。

すると、健が反論する。


「ん?何言ってんだよ。

俺は、透以外とは付き合わないぞ。

結婚も透とするしな!一生一緒だ。」


「えー、それは無理だよ。

俺たち男同士だろ〜。結婚出来ないし。

はは、健、バカだなぁ〜。」


真剣な顔で、健が俺と結婚するというが、冗談が過ぎる。思わず笑った。

しかし、健は本気だった。


「できるぞ。今すぐにでも。」


「「はい??」」


玲央と一緒にキョトーンとする。


「俺が透以外を愛せないのは、母さんも知ってる。

俺の執着は度を越してるらしい。よくわからんがな。

それで、透が嫁に来てくれたら家族が増えるから嬉しいってよ。

透が嫁に来なかったら、一生俺の家2人家族決定だしな。

透の家にも許可もらってる。

透の不幸体質が続く限り、相手はできないだろうって。

だから、透が俺に気持ちがあるなら貰ってくれって言われた。

両家でもう養子縁組の書類は記載済みなんだ。あとは、透の承諾だけだ。いつでも役所に届けられるぞ。

立花透から立石透になってくれないか?

結婚してくれ。」


イケメンからの一世一代のプロポーズに、思わずキュンっとし、.........ないわっ!!


「「重っ〜〜い!!」」


健が俺のこと大事にしてくれてるのはわかっていたけど、恋愛的な意味でだとは思ってなかった。

マジか!?

しかも、すでに準備万端。

だから、俺の後ろを大事にしろって言ってたのか!!

オーマイーガー...。でも、嫌悪感はないな。

むしろ、一緒に暮らしたら幸せになれそうだ。


「わかった。これからそう言った意味で健のこと、考える。

友人としてなら、めちゃくちゃ健のこと好きだからな。俺が惚れたら結婚しよう!!」


「マジ!?スッゲェー嬉しい!!

絶対、大事にするから嫁にこぉぉい!!

俺、いつまでも待てる!」


「透は、すげーな。こんな重い愛、よく受け入れられんな。マジすげーよ。」


玲央は、本気で透が逃げたくなったら、地球の裏側まで一緒に逃げてやろうと心に決めたのだった。






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