第17話


「まって、恵麻、もいっかい。もしかして、私からしないとダメなのかも!」

「え!あ!そうだね!?いつも、りんちゃんからだもんね」

 たしかにいつもりんちゃんからだった気もして、目をぎゅっと閉じて、りんちゃんを迎え入れる準備をして。


 なんか、急に恥ずかしさが巡ってくる……っ。


 いまそういう場合じゃないことはわかってる緊急事態なことはわかってるのに。

 一回……、ちゅっと音がするほどのキス。

「んん」

「あれ!?っかしいな?!」

「ん、ん……っ」

「恵麻、ちょっと試したいことがある。ごめんね!?」

「え?なにが」

 ぬるっと舌が入って来て、さすがにびっくりして飛びのいた。

「のあー!?!?」

「あーごめん、ほら、アイスのとき、間接キスだと駄目だったでしょ。粘膜接触ぶりが足りないのかなと思って」

「だからって!」

 舌……!ジンジンする口の中を思わず抑えて、りんちゃんの入った恵麻を見つめた。


 アレだよね、自分に思いっきりキスされてる様子……ほんと、もうおかしくなりそう。



「ちょっと、おねえ!?まだ6時前なんですけどー!?」

 ねぼけ眼の海須々が、ドアをノックせずに入ってきて、見つめ合っている私たちの光景を見て、言葉を失った。

「な、なにしてんのーーーーーーーー!!?」


 完全に、キスしまくってる乱れ具合い。



 :::::::::::::::::::::


 学校に着いて、一番後ろの席に座ろうとして、りんちゃんに「!」と顔で注意されてあわてて前の暖房の横の席に移った。危ない、危ない。


 りんちゃんのままなんだった。


「おはよ、美鈴さん」

 隣の席の増田さんが、今日もベリーショートの素敵なおでこを光らせて、笑顔で挨拶してくれる。

「今日って、スキー教室の班決めがあるんだって。もう明後日なんて、早いね」

「え!」

 美鈴さんは滑れる~?スノボッポイ。なんて言われる。たしかに。いやそれより、それまでに戻れるのかな!?


 りんちゃんを振り向いたら、別のクラスの子と楽し気に話してた。恵麻がそんなふうに話してるの、変な感じ。



 朝も、海須々にキスを見られたのに、すごく上手にかわしてたっけ。


「これは、朝のストレッチ!体があったまるんだって」


 寒がりの私の理由を絡めて、「もしかして、キスしてるっておもった?海須々も案外、うぶだねえ」なんて妹までからかっちゃって、すごかったな。


 ああいうの、瞬発力なのかしら?


 海須々は、プンプンしてたけど、いつも怒ってるから問題ないと思う。


 それにしても、明後日のスキー。

 りんちゃんの体で、盛大に、みっともない姿をお目見えしなければならない。

 どうしよう。



「うーん、キスで戻れないってことは、もっと別のことしなきゃなのかな」


 迷った末に、りんちゃんから出た言葉が頭をめぐって、私はまた頬が赤くなった。



 別のこと……。


 別のこと!?!?!?


 頭の中に、ピンクな妄想が流れて、あわてて手を振った。


「どしたの?美鈴さん」

 現実の増田さんが、いぶかし気にこっちを見てる。ヤバイ。りんちゃんが変なやつと思われちゃう!私は、あいまいに作り笑いをしたら、増田さんもニコッと笑いかけてくれた。

 コミュ強は、笑顔で関係がせいりつしてすごいな~。


 ピンクの妄想じゃなくてね、階段から落ちるとか試してみようかって話になったんだけど、でもそれは、怪我をしても怖いし、不思議な力が、ご機嫌を直すまで、少し静観することになった。


 朝のことを少し思いだす。


 ピンクな妄想をした私を、りんちゃんがいたずらっ子のように目を細めて、口角をニイっと持ち上げた。

 相変わらず、私の顔の操縦がうまい。あんなふうに表情筋が、動くのね、私。


「恵麻さんは、どっちを想像したのかな?」

「え」

「キスよりも、さきのこと?」

「ええ!!え、えっと!?」

「そうだよね、粘膜接触っていったら、ねえ!」

「かんがえてない!」

「ほんとにぃ!?」

「かっかんがえてないってば!!」


「また海須々ちゃんに、うるさいっていわれるよ」

 ハッとして唇を両手で覆った。

 壁に追いやられていて、思いがけずカベドンのような様子になっている。私の体はりんちゃんより大きいから、覆いかぶさっているみたいになる。


 すこし、冷たい気がする。

 火照った体だから?

「じゃあ、何考えたの?」

 耳に、そっと声がかかる。

「え」

「ほら、元に戻るやり方……かんがえてくれたってことでしょ?」


 いじわるな聞き方だ!


 それにしても、耳が弱くてビックリする。りんちゃんの耳、すごくくすぐったい。


「りんちゃん、耳が弱いんだね」

「!!」

 思わず言ってから、見上げると、りんちゃんは真っ赤になってた。

「ちがっ、え、そうなの?!」

「うん、みみもとでしゃべったら、ぞわってした」

「ええ~、そうなんだ!?恵麻は!?恵麻は弱くないの?」

「私は内緒話別にだいじょうぶかも」

「やってみて!」


 りんちゃんが強引に私の腕を引っ張る。自分の体だからって、乱暴すぎる。

「なにか、言ってみて」

 耳を見せるけど、なにも思いつかなくて。

「お、……おはようございます」

「あん!」

 え。

 りんちゃんは、真っ赤な顔で手で耳をおさえて泣きそうな顔をしている。

「ちょっと、今のは演技でしょ?」

 さすがに、それは。


「恵麻だって弱いじゃん!!うそつき!!」

「えー!?」


 思いがけず、自分たちの弱点を知っただけで、その日は、結局そのまま、入れ替わったまま学校へ行くことになったんだけど。



 思いだして、顔が真っ赤になる。

 なにしてるんだろう。ほんとに!


「スキー教室の班決めをします」


 担任の先生の声で、ハッとした。

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あつがりさんとさむがりさんのいれかわり百合 梶井スパナ @kaziisupana

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