第3話
小笠原は映像が長いことに疑問を持ち始めていた。演出にしてはやけに長いし、デビューライブの映像しかないのはおかしい。そう思っていると、デビューライブの映像は突然止まった。そして、電気が点いて一気に明るくなったと同時に、会場のスタッフがステージに突然出てきて、ライブの中止を宣言した。
さっぱり意味がわからなかった。何もわからないままその日は家に帰った。
その日、超北国Xがネットで大炎上した。その日偶然来ていたネットニュースの記者が「超北国X 開演時間を3時間半過ぎてライブ中止発表」という記事を出したからだ。運営が杜撰なアイドルグループとして、超北国Xはネット上で有名になった。
翌朝寝ぼけながら新聞の一面を見ると、一気に目が覚めた。人生40年以上生きてきたが、これほどの衝撃はなかった。
『超北国Xメンバー 山中にて遺体で発見』
目の前が真っ暗になった。
月曜日だったが、会社に有給をお願いした。テレビのワイドショーは全てこのニュースだった。昨日の昼にトレンドに上がっていた遺体はほのちぃだった。そして、死亡推定時刻はライブの前日の朝だった。なんとライブの日には既にこの世にいなかったのだ。
昼になると、殺害事件と判明し、そして犯人がプロデューサーの戸部だということが判明した。そして、その戸部は海外逃亡していたのだった。
翌日も会社を休み、ニュースを見続けた。新情報として、なぜ遺体がほのちぃと特定されるまでに時間がかかったのかが判明した。それは単純でみなほのちぃのはずがないだろうと考えていたからだった。警察の中でも死体を見てうっすらほのちぃじゃないかと思った人はいた。しかしながら、発見された時間は13時で、14時開演のライブに出演しているはずのほのちぃがいるわけもないと思ってしまった。ネットで確認しても、開演が遅れていることを嘆く人は誰もいなかったので、問題なくライブが始まっていると思い込んでしまった。行方不明者届が出ていればわかったが、残念ながら出ていなかった。結果的に遺体は身元不明のまま時間が過ぎていった。
状況が変わったのは、前座で雪村がパフォーマンスをしていることがSNSに上がったからだ。これを見て、未だ開演していないことを知った警察官の一人が遺体はほのちぃの可能性があることを指摘し、ライブ会場に捜査員が急行していたのだった。
さらに翌日になり、ほのちぃは10周年のライブを持ってアイドルをやめたいと家族に語っていたことがわかった。それに関連して、戸部ともめて殺害されたということがわかった。そして、戸部はライブ当日、遺体の正体がほのちぃだと判明する直前に海外への逃亡を成功させていることもわかった。
ここで報道は完全に終結してしまった。なぜ戸部が殺害したのが正直動機はわからなかった。
ただ、最も気になったのは、そもそもなぜほのちぃがいないにもかかわらず、ライブを中止にしなかったかだ。ほのちぃがいないのにライブなんてできるはずがない。それをどうして前座をやってまでして、さらにデビューライブの映像を流してまでして、なぜ開演をしようとしていたのか。
事件後すぐに、ファンへの挨拶すらしないまま、超北国Xは解散し、会社も解散。関係者は全員消えてしまった。
一介のファンでは、これ以上事件のことを知ることができないだろう。ただ、願わくば真相を知りたい。そして、ほのちぃをきちんと弔いたい。
事件から3年が経過した。戸部は指名手配をされているが、未だに逮捕されていない。
わからない中でも一つ言えることがあるとすれば、ライブはちゃんと時間通り開演しないといけない。時間通りに開演するグループであれば、戸部は逃げられなかったはずだ。一介のファンができることはそれを伝えていくことくらいだ。
今日もまたライブに来てしまった。開演時間が遅れがちな海外でも人気のロックバンドだ。開演時間の18時になっても、全く始まる気配がなかった。
仕方がないので、いつものように近くのスタッフに駆け寄って、こう言った。
「早く開演してください」
早く開演してください サクライアキラ @Sakurai_Akira
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