マリとマリン 2in1 悪夢? 予知夢? 白日夢?

@tumarun

第1話 居眠りしていまして

微睡のなか、翔は知らない誰かから話しかけられた。ブルネットのミディアムボブレイヤーの髪をしている女性に知り合いはいない。


「日向さん」


 どこかで聞いたことのある声なんだけど、わからなかった。


「どなたですか? 僕はあなたのことを知らない」


 女性は、アーモンド型の目を見開くと、ため息をついて、


「貴方との関係なんて、そんなものなのね。いつも一緒にいたのにわからないなんて」


 翔は被りを振る。


「本当に知らないんだ」


 それを聞いて、彼女は決心したように首肯する。


「貴方とは、他人で宜しいのね。なら私は新しいスタートをきれる」 


 女性はすっと体の向きを変えた。そして振り返って、


「じゃあ。さよならなり、か、け、る」


 おかしな語尾を聞き、翔は訝しんだ。その声に聞き覚えがあったのだ。


「待って、待てっば」


 翔は彼女の腕を取り、引き留めた。


「あの子は、そんな赤い髪じゃない。黄色に染めて、頭のてっぺんが黒いんだ」

「髪の色? 今の彼はブルネットが、お好きなの」 


「あの子は、そんな覚めた話し方なんてしない。語尾だって、しー,なり、え、だよ」

「そんな喋り方したら、彼に私の頭を疑われるわ。それともあなたの好みの喋り方なのかしら」

「違っ,違う。僕じゃない。君の元彼のヒジリってやつの趣味なはずだ」


 すると、彼女の影から、


「誰だ。俺のこと呼んだか?」


 濡羽色の髪をツーブロックショートにしている美丈夫が現れる。何処ぞのステージで歌ってダンスでもしていそうな甘いマスクをしている。


「ねえぇ、聖。こいつがなんか言いがかりつけるの」


 彼女は男の肩に垂れかかる。


「お前は、此奴のことを知ってるのか?」

「全然よ。全く知らないわ」


 彼女はプイッと顔を逸らす。

 男は翔の胸元に手を伸ばしシャツの生地を握り,そして引っ張りあげる。お互いぶつかるっていうぐらいに顔を近づけて、


「ひとのスケに手を出すたあ,いい度胸だ。すぐ消えろ‼︎ ここで消えれば良し。まだ突っかかるっいうなら、命のやり取りになるがいいか?」


 翔は被りを振った。男は翔を突き放す。飛ばされた彼は蹈鞴を踏むも耐えきれず、尻餅をついてしまった


「じゃあ,いくぜ。マリン」


 マリンと呼ばれた女は、翔を見た。ゴミでも見るように蔑んだ。


「ハァイ、ダァアリーン」


 そして男に縋り付くように抱きついて歩いていく。



「マリン、お前,本当に茉琳だったのか?」


残された、翔の呟きは,誰も聞くことなく虚空に消えていった。



   ⭐︎



「翔、翔、翔くん」


 翔は肩を揺さぶられていた。意識が覚醒する。切羽詰まった声に彼は目を覚ましたようだ。身じろぎをしている。


 そして薄く瞼を開ける。すると目の前に目があった。まるでキスでもしようかという直近の距離。慌てて頭を引くと心配そうに眉尻を落とした表情が見てとれる。

 しかし、何処かピントがズレた感じがしてしまう。


「茉琳?」


 呼ばれて、彼女は目を見開く。頬が染まっていた。


「起きた? 起きたなり? 翔」


 彼女は,呼びかける。そして一息つくと、


「どうしたなり?、こんな外のベンチで寝こけて。風邪ひいてもしらないしー」


 翔は目をしばたたせて、


「俺,寝てたのか?」

「うん!気持ち良さげに寝てたしー。あまりにぃもそれがかわゆくて、思わずキ…」

「思わず、何?」


 茉琳はソッポを向いて口笛を吹くふりをする。なんか誤魔化すような仕草をした。


「なんか怪しい」


 翔はひとりごちる。

 意識がはっきりしてきたんで、よく見ると茉琳は座っている翔に四つん這いになって覆い被さる形になっていた。側から見れば彼を襲って噛み付いていると,見えないことはない。


「偶々、構内を歩いていたら、翔がベンチに座っているのを見つけたなりね」

「ふむふむ」


「どうしたのかなぁ、見てみたらぁ。寝てるしー?」

「ほうほう」


「寝ている翔の顔を見たらね、思わず、チューしたいなぁって思ったなシー」

「なるほど」


「後,もう、ちょっとというところでね」

「うんうん」


「翔、起きちった。えへへ」


 徐に、笑っている茉琳の頬に翔は手を伸ばして口角の辺りに指を伸ばす。

 茉琳は目を瞑り肩を竦めた。追わず防御体制を敷いてしまう。頬を横にびっぱられると感じて逃げたのだけれど、翔は口角のあたりを親指でなでるだけだった。

 茉莉は気になって、片目だけをそっとあけた。

 翔は愛しむような眼差しで、彼女を見ていた。

 茉琳の胸の中で心臓が跳ねた。鼓動が早くなる。胸も苦しく思えてきたんだ。


「茉琳?」

「なにぇ?」


「君の瞳って綺麗だね。それに視線が暖かい」

「!」


 突然、茉琳は体を跳ねさせた。上体を起こし,ベンチからも飛び跳ねる。そして後ろに飛び退ると蹈鞴を踏んだが間にあらず、尻餅をついてしまう。


「かっ、かっ、カケル! いきなり何を言うの。違っ、何言うナッシー」


 彼女は、キスもしてないはずなのに手の甲で口元隠して、顔を真っ赤にして後退りした。


 まだ、寝起きで多少,ぼっとしていたのであろう。微睡の中で見た自分を蔑すんでくる眼があまりにも冷たかったから、今のマリンの瞳が真摯に翔を見ているから、思わず口にしてしまったのである。


 翔も頬が染まり、顔全体が真っ赤になる。しばらく、お互いを見つめていた。




 天使が飛び去る。




 徐に翔はベンチからも立ち上がり、茉琳に近づいていく。


「何?」


 茉琳は、体をを後ろにそらして,翔を避けるような仕草をする。


 しかし、翔がしたことは、


 茉琳に手を差し出して、口元を隠してある手を取り、彼女を引き上げることだった。

 茉琳の着衣を叩き、ついていたであろう埃を飛ばす。


「で、今日はどうしたの? 何か頼みたくて、俺を探してたんじゃないの?」


 それを聞いて茉琳の体が揺らぐ。膝の力が抜けたようだ。肩も心なしか下がっている。彼女は、空いている手を胸元に当てて、ひと息ついた。


「脅かしっこなしなりね」


 彼女の頬は,まだ染まったままだったりする。


「なんかねぇ。髪の毛にガムをつけられちゃて。ヘアサロン行って切ろうと思うの」


 茉琳は髪を手繰り寄せ、翔に見せる。確かに、噛みかけのチューイングガムがねっとりと髪に絡みついていた。


「えっ、切るの」

「そうなり。ついでに染め直ししようと思うなしー。翔は何色がいいと思うなり?」


 一瞬、翔は微睡の中で見た女と髪が短かったことを連想する。髪の毛も赤かった。


「そのままで良いよ。今の方が茉琳らしいし、綺麗だよ」


「な,なっ、何言うだし!」


 茉琳は頬から赤みが顔全体、さらに首筋にまで伝染する。そして頬に手を当てて、恥ずかしがり足をジタバタさせ出した。

 暫くして茉琳も落ち着いていく。


「わかったなり、ガムだけ取って、毛先だけ揃えてもらうしー。それでいいなりね」

「だね。それでいいよ」


 それを聞いて、彼女は彼に笑顔と片手を差し出す。


「エスコートよろしくだしー」


 彼は,その手を取り、


「畏まりました、お嬢様」

「恥ずかしい事、言うなし」


 二人はそのまま、大学の敷地を歩いていく。なにげなし2人は手を握り合い、恋人繋ぎになっていた。

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