第12話 きらきらと散っていく

 雫に真実を伝えてから数十分が経ち、俺と雫は並んでブランコに腰掛けながら静かに夜を過ごしていた。


 あれから雫はしばらく呆然と立ち尽くしていたが、程なくしてフラフラと頼りない足取りでブランコへと向かうと、そのまま座りこんでしまった。


 その後を応用に俺が隣に腰掛け、それからずっと沈黙が続いたのち、ようやく雫は口を開いたのだった。


「結局、どうするのが良かったんだろうね」


 雫の横顔をちらりと覗く。雫はまだ、どこか虚しそうな表情をしていた。


「そればっかりは、俺にはわからない」


 非情なようだが、無闇に助言をしたって的はずれなことを言うだけだろうから、これが今の俺にできる最善の行動だった。


 雫は一度逡巡したように口を閉じると、意を決したように尋ねてきた。


「……ねえ悠星。ちょっと、過去語り、してもいい?」


「もちろん」


 俺の返事を聞いて、雫は少しだけ表情を和らげると、ぽつりぽつりと話し始めた。


 そのほとんどが、俺の知らないことばかりだった。


 また、雫もかつては宇宙が大好きだったこと。薄情な父親に愛想を尽かしたこと。両親の決別をきっかけに、決定的に父親と、雫の中で父親の象徴だった宇宙を、嫌いになってしまったということ。


 複雑な事情を聞かされて、俺の心は一気に冷め、後悔の念が一気に押し寄せてきた。


「ごめん、ロクに事情も知らないで……無責任なことを言った」


「謝らなくていいよ。私も少しこのやり方に疑問を持っていたから、悠星のおかげで決定的に割り切れる」


 むしろありがとう、と雫ははにかみながら言ってきた。


 感じていた後悔の念が、少しだけ薄れる。


 また場に静寂が訪れる。が、もういつかのような居心地の悪さはなかった。


 時が経つにつれて、雫は徐々に元気を取り戻していく。その様子を見ていると、俺は一層安心することができた。


 場の空気が、徐々に和やかなものへと変わっていく。


 すると、おもむろに雫が立ち上がった。


「ど、どうしたんだよ」


「まあ見てて」


 急展開にドギマギして、噛みながらも俺は雫に尋ねる。


 なんだか憑き物が落ちた雫は、活気に満ち溢れていた。


 雫は懐から金平糖の袋を取り出すと、中に手を突っ込み、入っていた金平糖を鷲掴みにする。今日はもう星をきらめかせていたので、もう星をきらめかせることはできない。


 いったいどうするんだろう。俺はただただ雫を眺めていた。


 すると、


「えいっ」


 大きく腕を振りかぶり、雫は握っていた金平糖を勢いよく放り投げた。宙を舞う金平糖は、暗い中でもかすかな光を反射してきらきらと輝いている。


 きらきらと、金平糖が地面へと散っていった。


 満足げな表情をしてその様子を眺めていた雫に、俺は呆れ半分で話しかけた。


「食べ物を粗末にしてはいけませんって、小学校で習わなかった?」


俺の言葉を聞いて、雫は可笑しそうに笑った。


「習った。けどさ、こんな得体のしれないもの、食べ物って言えないよ」


「食べてた人間が言うなよ」


「それもそうだね」


 あはは、と。ついに雫は声高らかに笑い始めた。


 つられて俺の口からも笑い声が漏れる。


 俺たちは二人して、なにが面白いのか、子どものように笑い転げた。


 一通り笑い終わったあと、雫は勢いのまま高らかに宣言した。


「決めた。私、近い内に父さんに会ってくる。それで平手打ち食らわすんだ」


「それは止めたほうがいいんじゃないかな……」


 とにかく元気いっぱいな雫を、俺はなだめ続ける。これまでは立場が逆だったのもあり、慣れないしなんだか不思議な気分になる。


 だけど、多分これが雫の本当の姿なんだろうな。


 そんな雫の姿を見て湧いてきた言葉を、俺はそのまま雫に向かって伝える。


「今の雫のほうが、ずっといい」


「ありがと!」


 満面の笑みで雫が答える。


 この空気感が、ずっと続けばいいなんてベタなことを、俺は心の底から思っていた。


 それほどに、俺は雫と過ごすこの時間を気に入っていたのだった。

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